ホラー映画の残虐シーンを見て犠牲者に同情してしまうヴァンパイア。
血を見るだけで気分が悪くなるような少女が、はたして吸血鬼として生きていけるのでしょうか。
『ヒューマニスト・ヴァンパイア・シーキング・コンセンティング・スーサイダル・パーソン』は、血に飢えた恐ろしい怪物として描かれがちな吸血鬼像を根底から覆し、現代社会の生きづらさや倫理観をポップかつダークに描き出した新感覚のブラックコメディです。

ホラー要素と恋愛要素もありつつ、概ねコメディです。でも、終盤に近付くにつれどんどん深みを増していく。めっちゃいい映画です!

今回はネタバレあり解説だから、できたら観てから読んでね!
作品概要
- 公開年: 2023年(日本公開:2024年)
- 監督: アリアーヌ・ルイ=セーズ
- 脚本: アリアーヌ・ルイ=セーズ、マルク・ブーブラール
- キャスト: サラ・モンプチ(サーシャ役)、フェリックス・アントワーヌ・トドラー(ポール役)、スティーヴ・ラプラント、ソフィー・カディユー ほか
- あらすじ: 感受性が豊かで人間に深く同情してしまい、なかなか牙が生えてこないヴァンパイアの少女サーシャ。人間を襲うことができない彼女を見かねた両親は自立を促すが、本物の血を飲まなければ命に関わる。そんな中、学校でいじめられ自死を望む少年ポールと出会ったサーシャは、「彼の命をもらう代わりに願いを叶える」という秘密の協定を結ぶ。
共感と異端の狭間で揺れる少女
主人公のサーシャは、吸血鬼の一族に生まれながらも「他者の苦痛に深く同情してしまう」という、ヴァンパイアとしては致命的な性質を持っています。スプラッター映像を見てすら嗜虐心ではなく悲しみを感じてしまう彼女の姿は、冷徹な捕食者であることを求める家族の中で浮いた存在となっていきます。
父親は「いずれ吸血鬼らしくなる」と静かに見守る姿勢を見せますが、母親や叔母は生き残るための厳しさを突きつけます。
この家族内の温度差ややり取りは、どこか現代の「世間になじめない子供と教育方針に悩む親」の図式にも重なり、不思議な現実味を帯びています。
社会の犠牲者ポールとの奇妙な出会い
生きるために血が必要なサーシャが出会ったのは、学校で深刻ないじめを受け、自ら命を絶ちたいと願う少年ポールでした。
暴力を振るうことができず吸血鬼社会に馴染めないサーシャと、理不尽な暴力に晒されて人間社会に居場所がないポール。
対極にありながらも同じような孤立感を抱える二人が惹かれ合うのは必然と言えます。
ポールの「どうせ死ぬなら君の役に立ちたい」という提示は、一見すると異常な取り引きですが、お互いの存在理由を満たす奇妙で純粋なケアの関係へと変化していきます。
「命の選択」と社会背景を映すラスト
物語の結末において提示される決断は、強いメッセージ性を帯びています。死を望む人物から合意を得て血を譲り受け、代わりに彼らの願いを叶えて最期を看取るという二人の到達点は、日本人の感覚からすると「こんなラストでいいのか!?」と驚かれるかもしれません。
しかし、これはダークファンタジーでありながら現実の倫理観に鋭く踏み込んだ表現と言えます。本作の舞台であるカナダでは、「医療的援助による死(MAID)」と呼ばれる安楽死・介助自殺の制度が法的に認められています。
映画はこの「自死の同意」や「個人の決定権」といった現代的なテーマと重なる設定を巧妙に盛り込み、重厚かつスタイリッシュに描き切りました。

今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます。
本作は、他者に危害を加えることができない心優しい吸血鬼と、生きる希望を失った少年の姿を通して、世間の「普通」に馴染めない者同士の救済を描いた傑作です。
安楽死制度という現実的な社会背景を巧みに織り込みながら、暴力ではなく合意と共感によって生き延びる道を探るストーリーは、ブラックユーモアの枠を超えて深い余韻を残します。

何というか、救いのある話だと思います。共生の道を探るというか。ラストの暴力ではなくそれ以外の自分の力で以て人に貢献するというのもいいなと思いました。

こんなに考えさせられるとは思わなかったね。
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