LGBTQ2+をはじめとする性的マイノリティについて、もっと深く知りたいと考えている方へ。
今回は、観ることで新たな発見や共感が生まれる、素晴らしい映画を5作品ご紹介します。
これらの作品は、知識を得るだけでなく、登場人物たちの人生や感情に触れることで、多様な性のあり方への理解を深めてくれます。

ストーリーも秀逸なものばかりなので、ぜひ心に響く一本を見つけてみてください。

どの作品も本当におすすめだよ!
はじめに
この記事を書こうと思ったきっかけについて少しだけ。
近年、アメリカを中心に、保守的な考えや右寄りな考え方が爆発的な広がりをみせています。
所謂、自国ファーストという思想ですね。
そして、それに伴って、性的マイノリティを大事にするという考え方もまた、弱まってきているのです。
アメリカでは特に、現在のトランプ政権がキリスト教保守派の支持層を集めるために、性的マイノリティに対して厳しい世の中にデザインしようとする風潮がみられます。
キリスト教信者が少ない日本には直接関係ないように感じられますが、きっとそんなことはない。
このまま右寄り思想の人々が増えれば、おそらくはアメリカと同じような現象が起こるでしょう。長い物には巻かれよ。ただ、それだけの理由で。マイノリティがよりマイノリティになっていくはずです。
そんな世の中になってほしくないなあ。そんな思いで。
せめて映画好きの。多様な世界を知ろうとする皆様にだけでも。知ってほしいなという願いをこめてこの記事を書きます。
そばかす (2022年)

作品概要
監督:玉田真也
脚本:アサダアツシ
主要キャスト:三浦透子、前田敦子、伊藤万理華
あらすじ
高校生の頃に「恋愛感情を抱いたことがない」と気づいて以来、恋愛も結婚もせずに生きてきた30歳の佳純。しかし、妹の妊娠・結婚を機に、母親から「結婚しろ」「努力が足りない」とプレッシャーをかけられ、お見合いを勧められる。お見合い相手の男性も恋愛に興味がないことがわかり意気投合するが、やがて佳純の心は揺れ動いていく。
ここに注目!
恋愛や結婚を「当たり前」とする社会の価値観の中で、アセクシュアルやアロマンティックといった性のあり方を持つ主人公が、自分らしく生きる道を模索していく姿が丁寧に描かれています。家族や周囲からの無理解に直面しながらも、葛藤し成長していく主人公の姿に、深く共感できるでしょう。

同性愛やバイセクシャル以外のテーマをうっすらとではなくそこを中心に据えた映画というのは、かなり珍しいのではないでしょうか。メロメロのドラマが中心の日本映画界において、このテーマで1本作ったことは本当にすごい。性的趣向の多様さを知ることができる作品です。
ミツバチと私 (2023年)

作品概要
監督・脚本:エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン
主要キャスト:ソフィア・オテロ、パトリシア・ロペス・アルナイス
あらすじ
夏のバカンスでスペインのバスク地方にある祖母の家を訪れた8歳のアイトール。男の子として育てられているものの、自身の性別に違和感と居心地の悪さを感じて心を閉ざしていました。そんなアイトールに、母は向き合い方に悩み、一方で祖母は独自のアプローチでアイトールを導こうとします。周囲の人々と接する中で、アイトールはありのままの自分を受け入れていくきっかけを掴んでいきます。
ここに注目!
幼い子が抱える性自認の揺らぎを、繊細かつ温かく描いた作品です。主人公が言葉にできない思いを、自然やミツバチとの触れ合いを通して見出していく様子は、私たちに多様性を受け入れる心の広さを教えてくれます。子どもの葛藤だけでなく、それに向き合う家族の姿もリアルに描かれており、親子の愛の形を考えさせられます。

8歳でも、いや8歳だからこそ、周囲から理解を得られないことにこんなに苦しんでいるのか。年齢に関係なく、価値観の押し付けはいけないことだし、尊重すべきものだと感じさせられる1本。スペインということもありビクトル・エリセ『ミツバチのささやき』との繋がりも面白いポイントです。
グリーンブック (2018年)

作品概要
監督:ピーター・ファレリー
脚本:ニック・バレロンガ、ブライアン・ヘイズ・キュリー、ピーター・ファレリー
主要キャスト:ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ
あらすじ
1962年、人種差別が色濃く残る時代のアメリカ。天才的な技術を持つ黒人ピアニストのドクター・シャーリーは、危険な南部でのコンサートツアーを計画し、粗野なイタリア系用心棒のトニーを雇います。白人用のホテルやレストランに入れないシャーリーは、黒人専用の旅行ガイド「グリーンブック」を頼りに旅を続けます。正反対の二人は旅を通して友情を育んでいきますが、その道中には様々な困難が待ち受けていました。
ここに注目!
この映画のテーマは人種差別が中心ですが、ドクター・シャーリーがゲイであるという描写も随所に登場します。彼は黒人でありながら裕福で教養があり、さらにゲイであるという複数のマイノリティを抱えています。社会のどの枠にも当てはまらない彼の孤独と葛藤に、私たちは共感と想像力を広げることができます。

黒人差別がフィーチャーされがちですが、そこに起因する南北戦争の呪い、そして当時ゲイがどんなに不当な扱いを受けていたかもよく分かる作品です。
94歳のゲイ (2022年)

作品概要
監督:吉川元基
あらすじ
94歳になるまで誰にもゲイであることを明かせずに生きてきた長谷さんの半生を追ったドキュメンタリー。彼は、同性愛が「治療可能な精神疾患」と公に語られた時代に青春を過ごし、孤独の中で詩作に没頭しました。しかし、94歳になった今、彼は社会の価値観の変化を感じ取り、カミングアウトを決意します。
ここに注目!
この作品は、日本における同性愛者の歴史と、時代と共に変化してきた彼らを取り巻く環境を学ぶことができます。また、長谷さんの詩や短歌が彼の心情を深く物語っており、言葉にできない苦しみや喜び、そして年齢を重ねても変わらない恋心を、私たちに伝えてくれます。

同性愛が「治療可能な精神疾患」であったと、かつて日本では公式に認められていた。今では信じられない事実を教えてくれます。長谷さん自身の魅力と、彼を取り巻く優しい人々にも希望を感じる作品です。
怪物 (2023年)

作品概要
監督:是枝裕和
脚本:坂元裕二
主要キャスト:安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太
あらすじ
郊外の町で暮らすシングルマザーの早織は、息子・湊の言動が不自然なことに気づきます。湊に問いただすと、学校の担任教師・保利からいじめを受けていると告げられました。早織は学校に乗り込み抗議しますが、教師たちはまともに取り合ってくれません。やがて事件はメディアを巻き込み、保利や湊、そしてその同級生である依里、それぞれの食い違う証言が次第に明らかになり、事態は思わぬ方向へ向かっていきます。
ここに注目!
この作品では、一人では「怪物」と見なされてしまうような少年たちの、繊細で複雑な感情が多角的に描かれています。性自認や性指向について、まだ言葉を持たない彼らの、戸惑いや痛みが胸を締め付けます。それぞれの視点が入れ替わる構成によって、一つの出来事がいかに見る人の立場で全く異なるか、そして「怪物」の正体が何であるかを深く考えさせられます。

この作品が、是枝裕和、阪元裕二のタッグで作られたこと自体が素晴らしい。もしこの作品が、性的マイノリティに関係があると気づかなかった人はもう一度観てほしい。パルム・クィア賞獲ってますからね。
ちひろさん (2023年)

作品概要
監督:今泉力哉
脚本:澤井香織、今泉力哉
主要キャスト:有村架純、豊嶋花、リリー・フランキー
あらすじ
元風俗嬢であることを隠さず、海辺の小さな街で働くお弁当屋さん「ちひろさん」は、不思議な魅力で周囲の人々を惹きつける。彼女に惹かれるのは、学校に馴染めない女子高生や母親と複雑な関係を持つ中学生、そして街で暮らすホームレスのおじさんなど、社会の片隅にいるような人々。彼らは皆、ちひろさんとの出会いを通して、少しずつ心を解き放っていく。
ここに注目!
この作品は、性的マイノリティに直接的に焦点を当てているわけではありません。しかし、他者との間に境界線を引きながらも、それぞれの生き方を肯定し、ありのままを受け入れるちひろさんの姿は、性の多様性を受け入れる姿勢にも通じます。性別や年齢、職業といったレッテルではなく、一人の人間として向き合うことの大切さを教えてくれる作品です。

はじめに紹介した『そばかす』はアセクシャルを扱ったものでしたが、本作のヒロインのちひろさんはアロマンティックだと感じられます。合わせて観るとより性的マイノリティに対する知識が深まるはずです。また、恋愛をしないけど性交に興味はあるという人って今の世の中に割と多いと思うので、そういった人が見ると、少し心が軽くなるはず。
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます。
今回ご紹介した5作品は、それぞれ異なる視点から性的マイノリティの物語を描いています。映画を通して、私たちが普段意識しないかもしれない偏見や、多様な愛の形に気づくきっかけになれば幸いです。

これらの作品を鑑賞して、皆さんの学びに繋がれば嬉しいな。

そして、賛成、反対の白黒を付けないとしても、「こういう人たちが自分の周りにいるんだ」という意識の芽生えになれば幸いです。
もし、鑑賞後により詳しく知りたい場合は過去記事を読みに戻ってきてください。以下にリンクを貼っておきます。
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