古い家や住み慣れた家を自分なりに工夫してリノベーションする。
それは本来、生活を豊かにするはずの行為です。しかし、もしそのこだわりが、踏み越えてはいけない一線を越えてしまったら……。

今回は、小野不由美さんの人気シリーズ第2弾『営繕かるかや怪異譚 その弐』の感想を綴ります。
作品概要
- 刊行年: 2019年(文庫版:2022年)
- 著者: 小野不由美
- 全体のあらすじ: 城下町に佇む古い長屋や武家屋敷。そこに住まう人々が遭遇する、理不尽で不可解な怪異。建物の不具合と共に現れる「視えない住人」に対し、営繕屋の尾端が鮮やかに、かつ静かに道筋を立てていく連作短編集です。
「自分らしさ」という名の異常――「魂やどりて」を読んで
今作の中で最も心に残ったのが「魂やどりて」です。
舞台は、趣のある古い長屋。主人公の女性は、廃材や古道具を独自の感性でリメイクし、自分なりの空間を作り上げることに喜びを感じています。木箱を靴箱にし、枯れ木をコート掛けにする。序盤は「丁寧な暮らし」を楽しむこだわりの強い女性として描かれます。
物語の転換点は、彼女が同じ長屋の住人が業者にリフォームを依頼している様子を冷ややかに眺め、自身の「工夫」を優越感とともに語り出すあたりからです。
特に、箪笥の引き出しを玄関の土台として埋め込み、古道具屋と対立する場面。読者はここで、彼女が抱いている「愛着」が、一般的な美意識とは異なる「執着」や「傲慢」に近いものであることに気づき始めます。
そして、キッチンである「物」を収納として再利用したことが発覚するシーン。あの瞬間に走る戦慄は、この短編の白眉と言えるでしょう。

語り手である主人公の方が、異常なのでは?というなかなか独特の読書体験ができたのがすごく楽しかったですし、恐さもこの話が一番でした。ミステリアスな展開を見せる『水の声』も面白かったです。
物や土地に宿る「精神性」への敬意
この物語を読み終えて強く感じたのは、古いものや場所と向き合う際の「敬意」の重要性です。
誰かがかつて使い、誰かがかつて住んでいた場所。そこには、長い年月をかけて蓄積された文化的な背景や、かつての持ち主の精神性が宿っています。それを無視して「自分好みの素材」としてのみ扱い、安易に解体・再構築してしまう行為は、実はとても恐ろしいことなのかもしれません。
主人公の女性は、リメイクを通じて「自分の世界」を構築しているつもりでしたが、実際には、その物たちが持っていた「魂」を土足で踏み荒らしていた。その歪みが、怪異を招き寄せたのではないでしょうか。
今日の本学
最後までお読みいただきありがとうございます。
『営繕かるかや怪異譚 その弐』は、怖いだけでなく、私たちが住まいや道具に対して持つべき距離感を鋭く問いかけてくる作品でした。
自分の手で環境を整えることは素晴らしいことですが、その一歩先には、目に見えない先人たちへの礼節が必要なのかもしれません。

古道具やアンティークに惹かれる人こそ、ぜひ一度この恐怖を味わってみてはいかがでしょうか。
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