『This is I』はるな愛と和田医師が変えたもの。病理とされた時代から「自分」でいられる現在へ

映画

「明るいキャラ」という鎧の裏に、どれほどの涙と覚悟があったのか。

2000年代に一世を風靡したタレント・はるな愛さん。

彼女の半生を描いたNetflix映画『This is I』は、一人の人間が尊厳をかけて歩んだ真実の物語です。

本作は、日本のLGBTQ+を取り巻く不条理な歴史と、一人の人間が「自分」であり続けるために選んだ生存戦略を鋭く描き出しています。

この記事では、本作の背景にある衝撃の実話「ブルーボーイ事件」の解説とともに、松本優作監督が込めたメッセージ、そして「笑い」という鎧の下に隠された真実について深く考察します。

bitotabi
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最後までお読みいただくことで、彼女が手にした「世界一」の称号が、どれほど重く、尊いものであったかが、これまでとは違った景色で見えてくるはずです。

ダニー
ダニー

まずは「ブルボーイ事件」について解説するよ。

医療と法の境界線:ブルーボーイ事件とは

本作の底流にあるのは、1965年に起きた「ブルーボーイ事件」が日本社会に遺した深い爪痕です。

当時、東京オリンピックや大阪万博という国家的イベントを控え、風紀の取り締まりを強化したかった警察・検察当局。彼らは売春防止法では裁ききれないトランス女性(当時の通称:ブルーボーイ)たちを一掃するため、彼女たちに性別適合手術を行った医師を「優生保護法違反」で逮捕するという強硬手段に出ました。

1969年の最高裁判決で医師の有罪が確定したことにより、日本ではその後約30年もの間、国内での手術が事実上の「タブー」とされ、当事者たちは医療からも法からも見捨てられる暗黒時代を過ごすことになります。和田医師が働き始めた1980年代から、90年代はまさにそのタブー期になるわけです。

この歴史的事実を踏まえて、斎藤工さん演じる和田医師の姿、そして彼を頼った彼女たちの姿を見ると、作品の解像度がより一層増していきます。

松本優作監督が描く「秩序」と「個」の相克

本作の根底に流れるのは、この「ブルーボーイ事件」と、それに伴う社会の歪みです。監督を務めた松本優作氏は、過去作『Winny』でも「技術や個人の想い」と「遅れた法律・秩序」の対立を描いてきましたが、そのテーマ性は本作でも見事に貫かれています。

当時の日本では、法整備が追いつかない現状を「穏便に済ませる」ために、誰かを悪者にし、秩序を守ろうとする風潮がありました。その犠牲となった人々の葛藤が、はるな愛さんの歩みと重なり、物語に深い社会的意義を与えています。



大阪の再現度:セットとロケの巧みな融合

背景にある重厚なテーマを支えるのが、舞台となる大阪の街並みです。 本作では、現代の道頓堀でロケを行っているシーンもあり、現在の街の空気を活かしつつも、特に「当時の空気感」を強調すべき重要な場面では、緻密に作り込まれたセットやCGによる看板の復元が効果的に組み合わされています。

今の整えられた観光地としての姿と、かつての混沌としたエネルギーが混ざり合うような感覚は、過去を回想する物語としての深みを生んでいます。また、大阪・ミナミに実在する伝説のショーパブ「冗談酒場(じょうだんさかば)」も重要な拠点として登場し、エンターテインメントに生きる人々の情熱を象徴的に描き出しています。

圧巻のキャスト陣と主演・望月春希の輝き

周囲を取り囲む人々が放つ「優しさ」も、この物語の大きな救いです。 千原せいじさん、末成由美さん、木村多江さんが「家族」として、主人公を力強く、そして繊細に支えます。また、ショーパブの頼れる姉さんを演じる中村中さんを中心に、バーの仲間たちが放つ慈愛に満ちた演技は、観る者を温かく包み込んでくれます。

中でも特筆すべきは、主演の望月春希さんです。撮影時18歳という若さでありながら、30代の葛藤を見事に演じきりました。実年齢を感じさせない佇まいは、まさに「自分にしかできないことをやり抜く」主人公の姿そのものです。



「ファニー」という鎧を脱いだ先にある真実

日本におけるトランスジェンダーや同性愛の歴史を振り返ると、そこには特有の苦悩がありました。性転換や同性愛に対して宗教的な縛りが薄かった日本ですが、明治、そして戦後と西洋の価値観が流入するにつれ、それらは「不健全なもの」や「病気」のように扱われてきた背景があります。

はるな愛さんやKABA.ちゃんといった先駆者たちの活躍は、そうした閉塞感のあった社会において「トランスジェンダーへの認知」を劇的に広め、彼らが明るく生きる社会づくりに大きく貢献しました。しかしその一方で、エンターテインメントとして消費される中で、「オカマはバカにしていいもの」「ファニーでポップな存在」というステレオタイプを広めてしまった側面も否定できません。

しかし本作は、その「明るさ」が、心底悩んだ末に、自分を守り、居場所を作るために選び取った生存戦略であったことを突きつけます。

「あんたよりひどいシチュエーション ぬか漬け ほど あんねん」

「君はちっとも変じゃない」

「私は私に出来ることをするしかない」

劇中のこれらのセリフは、社会の枠組みに苦しむすべての人に、自分として生きる勇気を与えてくれます。

ミス・インターナショナル・クイーンへの挑戦

劇中でも描かれる通り、彼女は世界一の称号を求めて二度、タイで開催される「ミス・インターナショナル・クイーン」に挑戦しています。2007年の第4位を経て、日本でブレイクした後の2009年に再挑戦し、見事優勝。

この挑戦こそが、彼女が一人の表現者として、そして一人の女性としての尊厳を証明するための戦いだったことが、本作を観ることでより深く理解できるはずです。


今日の映学:私たちは「私」にできることをするしかない

最後までお読みいただきありがとうございます。

映画『This is I』は、過去の物語であると同時に、今を生きる私たちの物語でもあります。

劇中で放たれる「私は私に出来ることをするしかない」という言葉。それは、社会の偏見や法整備の遅れといった大きな壁にぶつかりながらも、決して自分を諦めなかった彼女たちの祈りのような決意です。

かつて「不健全」と切り捨てられ、「笑われる存在」として居場所を確保せざるを得なかった時代を経て、今、彼女がタイの地で放った輝きは、多くの人の価値観を塗り替えようとしています。

bitotabi
bitotabi

もしあなたが今、何かの枠組みに苦しんでいたり、自分を偽って笑っているのだとしたら、ぜひ本作に触れてみてください。

ダニー
ダニー

観終わった後、きっとあなたも「君はちっとも変じゃない」という言葉を、自分自身に贈ってあげたくなるはずだよ。

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