人生で1つだけ正しいことをしたいんだ
映画「ザ・ホエール」を鑑賞しました。
第95回アカデミー賞で、メイクアップ&ヘアスタイリング賞と、主演男優賞を受賞した話題作。
「エブエブ」同様、配給と製作はA24。
いやはや、A24。ものすごい勢いですね。
実際、この映画を観て、かなり痺れるものがありました。
ブレンダン・フレイザーの演技だけでなく、ストーリーもガツンとショックを受けます。
今回の記事は、「ザ・ホエール」をより深く味わうための解説記事です!
クライマックスに関するネタバレはございませんので、鑑賞前後にお読みください👍
ブレンダン・フレイザー
今作でアカデミー賞主演男優賞を獲得したブレンダン・フレイザー。
彼はかつて、「原始のマン」や「ジャングル・ジョージ」、「ハムナプトラ」シリーズで、セクシーな俳優として活躍したことをご存じでしょうか?
美しいルックスと肉体美で人気を博しました。
しかしながら、ある人物からセクハラを受けたことを告白したことをきっかけに、表舞台から干されてしまいました。
そして、時を経て、ストレスで身体が大きくなったものの、主演としてカムバックしたのが今作だというわけです。
特殊メイクを駆使しつつ、272㎏の男性を見事に演じています。
自身の苦労の日々があるからこそ、主演男優賞を獲得する程の演技になったのでしょう。
しかし、彼の迫真の演技の理由はもう一つあります。
アロノフスキー監督
アロノフスキー監督は、これまで「ブラック・スワン」「レスラー」「マザー!」などの作品を手掛けています。
どの作品も、主演の俳優をギリギリまで追い込む、過酷な演技を要求しています。
「ザ・ホエール」で、ブレンダン・フレイザーは、272㎏の男性になりきるために、ファットスーツを身に着けながら演技をしたそうです。
これぞ、アカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞たるゆえんでしょうか。
これは、「ハムナプトラ」で砂漠を駆けまわった事よりも、はるかに過酷であったと語っています。
ギリギリまで追い込むことで、演技を引き出すのでしょうねぇ。
「ザ・ホエール」からみる近年の作品の傾向
「ザ・ホエール」では、父と娘の関わりを描いています。
人生の最後を迎えるにあたり、我が子に償うために会うのですが、この娘が結構キツイ。
肥満体の父をスマホで撮影したり、罵声を浴びせたりと、観るに堪えないものがあります。
この、我が娘が恐ろしい存在であるというストーリーは「エブエブ」も同じでしたよね。
近年の映画は、自分に理解できない脅威のようなものを描くのがひとつのトレンドになっているような気がします。
第95回アカデミー賞は同窓会?
第95回アカデミー賞では主演男優賞をブレンダン・フレイザーが、助演男優賞をキー・ホイ・クァンが受賞しています。
この二人、実は30年前に「原始のマン」で共演しているのです。
さらに、「ハムナプトラ3」では、ミシェル・ヨーとも共演しています。
このように、第95回アカデミー賞は、かつて活躍したものの、一線を退いていた俳優たちが再会する、同窓会のようなものとなっていたわけです。
何だか、感慨深いものがありますよね。
正しくないこと、正しいこと
今作では、キリスト教が一つの大きなテーマとなっています。
主人公チャーリーは、同性愛や離婚、引きこもりという怠惰や、暴食など、キリスト教の教えに反する様々な行為をしています。
そんな彼が、人生で1つだけ正しいことをしたと思いたいこととは一体何なのか。
それがこの映画のストーリー上では最も大きなメッセージなのかもしれません。
妻との間に、素晴らしい娘を授かったことなのか。
それとも、正直に自分の思いを伝えたことなのか。
観る人にとって、その捉え方は様々でしょう。
しかし、あのラストを観れば、彼が正しいことをできたかどうかだけは、はっきりわかると思います。
白鯨との関連
もう一つ、今作で重要なものが白鯨という物語です。
白鯨に登場するクジラのモビーディックこそが、巨体のチャーリーであるという捉え方もできます。
もしくは、エイハブ船長がクジラを捕えることを生きがいにしたように、チャーリーにとっての生きがいは娘と分かり合うことであるという考え方もありますね。
私は白鯨をキチンと読んだことがないので、今一つこのあたりが分かりかねるのが歯がゆいです。
いずれ、図書館で借りて読んでみようと思います。
ファットスーツは問題ない?
前述したように、今作ではブレンダン・フレイザーがファットスーツを身に着けて演技をしています。
このファットスーツ、太っているように見せるくらいなら、本当に太っている人を出すべきだと、最近の倫理規定ではブーブー言われそうな感じです。
ブラックフェイスが禁止されたのと同じような理由ですね。
ブラックフェイスについてはこちらの記事で簡単に紹介しています👇
また、「CODA」がアカデミー賞を受賞したように、本物の障害者やハンディを持つ人、社会的マイノリティを起用することが、最近では重要視されています。
そこへきて、このファットスーツ。
色々文句を言う人も出てきそうですが、私はアリだと思いました。
この映画では、ブレンダン・フレイザーがチャーリーを演じることが、かなり重要ですし、決してチャーリーを吐き捨てるようなストーリーではなく、
むしろ救いがあるというか…。
周囲に支えられる優しさまで感じることができる映画だからです。
受賞したことも、それらを汲み取っているような気がします。
気づけば応援
冒頭は、かなり情けないというか、見るに堪えないシーンで始まります。
劇中で本人が何度も言うように、私も始めは彼をおぞましく思いました。
しかし、観ているうちに、人間臭さや、愛嬌のある表情に好感が持てるようになるし、バックヤードを知るとまた、見え方が変わってきます。
わずか2時間の間に、劇中の人物への思いがガラリと変わる、かなりパンチの強い作品でしたね。
最後にはもう、応援してしまいました。
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます!
「ザ・ホエール」の見どころを解説しました!
ブレンダン・フレイザーの凄まじい演技だけでも観る価値ありですが、宗教や白鯨との関連を味わいながら観るとより楽しく鑑賞できる作品です。
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