先日の記事では、エジソンの強欲な利権支配から逃れたクリエイターたちが、西海岸に映画の聖地「ハリウッド」を開拓した歴史を解説しました。
エジソンが他人の作品を盗んでまでガチガチに固めようとした映画界の覇権争い、そしてその支配を拒んだ表現者たちの執念の詳細は、エジソンの支配からハリウッド誕生をまとめた下記の記事をご覧ください。
そして、この激動のハリウッドで、瞬く間に世界のトップスターへと上り詰めたのが、チャーリー・チャップリンでした。自前のスタジオを建てて自由を手に入れたはずの彼でしたが、本作の制作時は、エジソンの支配とはまた異なる、さらなる私生活と契約の泥沼に襲われていました。

映画としての評価は今一つながら、実は映画史やチャップリンを語る上で重要な本作について詳しく解説していきます。

なんだか意外だよね。
作品概要
- 公開年:1919年
- 監督・脚本:チャーリー・チャップリン
- キャスト:チャーリー・チャップリン、エドナ・パーヴァイアンス
- あらすじ:ホテルの万能小使いとして朝から晩まで過酷にこき使われる放浪者チャーリー。村の娘エドナに恋をしますが、都会からやってきたハイカラなライバルが現れて彼女の心を奪われてしまいます。失意のチャーリーが巻き起こすドタバタと、切ない恋模様を描いた短編喜劇です。

私生活の地獄とスランプ、精度高いプロ根性
1919年に公開された『サニーサイド』は、実は映画史の記録において、決して評価が高い作品ではありません。当時の観客や批評家からは「笑いが少ない」「いつものキレがない」と、微妙な反応をされてしまったのです。
それもそのはず、当時のチャップリンは、16歳の女優ミルドレッド・ハリスとの「望まない結婚(妊娠狂言)」によって精神的に完全に追い詰められ、史上最悪のスランプの中にいました。カメラの裏では、まさに精神の限界と戦っていたのです。
しかし、私生活がそれほど荒れていたにもかかわらず、本編ではしっかりと恋愛要素のある脚本を演じ抜いているところに、彼の映画人としての凄まじいプロ根性を感じざるを得ません。
商業主義への抵抗と、不必要な「妖精のダンス」
本作が映画史において極めて重要な理由は、チャップリンを「笑いを提供する役者」から、「魂を表現する芸術家」へと脱皮させた転換点だからです。
配給会社からは「もっと分かりやすいベタな笑いを早く納品しろ」という商業的なプレッシャーをかけられていましたが、チャップリンは従来のような分かりやすいコメディだけに終始することを拒みました。その意地が最も表れているのが、中盤にあるギリシャ神話風の女の子たちと踊るシーンです。

ストーリー上は不必要とも言えるこの妖精たちのダンスシーンですが、チャップリンは映画の中に初めて、詩的で幻想的な美しさを持ち込みました。この表現に対する強いこだわりこそが、この撮影中に完全独立会社(ユナイテッド・アーティスツ)を設立する決定的な原動力となったのです。
夢か、妄想か、あるいは死か。異色のエンディングを考察する
本作をいま改めて観ると、その全体を包む不思議なタッチと、なんともいえない後味に驚かされます。
特に印象的なのが、考察しがいのある抽象的なラストシーンです。すべてがハッピーエンドで終わるかのように見えますが、物語そのものが最初から夢だったのか、あるいは途中で車に轢かれた主人公が、死の間際、もしくは死んでから見た妄想がこの結末だったのか、様々な解釈ができます。
当時のチャップリンが抱えていた、現実の私生活における不幸せが「いっそすべて夢だったらいいのに」という悲痛な願望が、このエンディングの雰囲気に投影されているようにも感じられます。手放しでは笑えないほどの幻想的な切なさが漂う、映画ファン好みの隠れた傑作です。
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます。
今回は、世界の喜劇王チャーリー・チャップリンの隠れた重要作『サニーサイド』をご紹介しました。
当時の評価こそ微妙だったものの、私生活のどん底と商業主義のプレッシャーの中で、チャップリンが自らの芸術性を守り抜いた足跡が、あの不思議な妖精のダンスや幻想的なラストシーンにはっきりと刻まれています。
映画の歴史とは、表現の自由を求めたクリエイターたちの戦いの歴史でもあるのです。

今ならYouTubeで気軽に観られるから、ぜひこの映画の裏側にあるチャップリンの意地を感じながら鑑賞してみてね~。

ちなみに本作の撮影中に撮られたのかな?と思える一枚の写真が、現在のチャップリンの公式ウェブサイトのアイキャッチとして使用されています。やはり大事な作品なのかもしれませんね。

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