チャールズ・チャップリンの短編サイレント映画『給料日』(原題:Pay Day, 1922年)は、労働者の日常に潜む悲喜こもごもを、ユーモアとペーソスたっぷりに描き出した傑作です。
給料日という解放感と、それに続くドタバタ劇を通じて、当時の社会情勢や人々の暮らしが生き生きと描かれています。

本記事では、この作品に込められたチャップリンの視点と、印象的なシーンの数々を深掘りして解説します。

笑いと共感、そして工夫が詰まった作品だよ!
作品概要
- 監督・脚本: チャールズ・チャップリン
- 音楽: チャールズ・チャップリン (後年のサウンド版)
- 主要キャスト:
- チャーリー・チャップリン: 労働者チャーリー
- フィリス・アレン: チャーリーの妻
- マック・スウェイン: 職長(雇い主)
- エドナ・パーヴァイアンス: 職長の娘
- 背景: 1920年代初頭の好景気の中、都市部に集中する労働者たちの生活や社会現象を背景に製作されました。表現の自由を追求した彼のスタイルが確立されています。
あらすじ
建築現場で日銭を稼ぐ労働者チャーリーは、厳しい職長の下で日々奮闘しています。待ちに待った給料日、彼は賃金を受け取りますが、それは恐妻に管理されてしまう運命。
しかし、チャーリーは友人たちと酒場に出かけ、一晩中遊び明かします。
翌朝、二日酔いで帰宅した彼を待っていたのは、怒り心頭の妻と、なぜか部屋中に溢れるほどの猫たちでした。
妻から逃れ、また仕事へと向かうであろうチャーリーのドタバタがコミカルに描かれます。
中産階級の労働者:共感と笑いの源
本作の主人公チャーリーは、日雇いの労働者であり、給料をもらっては遊んでしまうという、多くの人々が共感しやすいキャラクターとして描かれています。
厳しい労働環境、そして給料日という特別な日のはしゃぎっぷりは、当時の庶民の日常を映し出していました。
彼の行動は時に滑稽ですが、それが観客に大きな笑いと共感を呼び起こします。
チャップリンは、こうしたキャラクターを通じて、平凡な人々のささやかな喜びや苦悩を温かい眼差しで表現しました。
珍しい「妻がいる役」
『給料日』で特筆すべきは、主人公チャーリーに妻がいるという点です。
彼の多くの作品では独身の放浪者が描かれることが多いため、この設定は比較的珍しいと言えます。この設定があることで、単なる労働者の日常だけでなく、「結婚」というもう一つの社会的な枠組みと、そこから生じるコミカルな葛藤が加わります。
給料を妻に握られ、恐妻から逃れて羽目を外すという描写は、既婚男性が抱える現実的な悩みをユーモラスに表現しており、観客により身近な笑いを提供しました。
レンガをキャッチするシーンについて
映画の序盤、チャーリーが建設現場の足場で、下から投げられるレンガを次々と完璧にキャッチするシーンは、そのリズム感と巧みさで観客を魅了します。
このシーンの撮影には、当時のサイレント映画でよく用いられたトリック撮影が使われた可能性が高いです。
具体的には、チャーリーが手にしたレンガを下に落とす(または放り投げる)動作を撮影し、それを逆再生することで、まるで重力に逆らってレンガが吸い込まれるように彼の手に収まるように見せていたと考えられます。もちろん、このトリックを自然に見せるためには、チャップリン自身の卓越した演技力と、投げ落とすタイミングの完璧な計算が必要でした。
さらに、安全を考慮し、実際に使われたレンガは発泡スチロールや軽量木材など、非常に軽い素材であった可能性が高いでしょう。
Bachelor’s Clubとは
チャーリーが給料日にはしゃいで訪れる「Bachelor’s Club」は、当時のアメリカにおいて独身男性が集まる社交クラブを指すのが一般的でした。
しかし、本作でチャーリーが既婚者であることを踏まえると、このクラブは単に「男性が集まって息抜きをする娯楽施設」という広い意味合いで使われていたと考えられます。

恐妻から逃れて給料日の一夜を友人たちと過ごす、「羽を伸ばす場所」として、このクラブが機能していたのでしょう。
家庭のしがらみを忘れ、男性同士で気兼ねなく楽しむことのできる、ささやかな避難場所としての役割がコミカルに描かれています。
路面電車について
映画で印象的なのは、人が溢れるほど混雑した路面電車のシーンです。
これは、20世紀初頭のアメリカ都市部における急速な人口増加と公共交通機関の混雑をリアルに反映しています。
多くの労働者が都市に集中し、移動のために満員の路面電車を利用することは日常的な光景でした。チャップリンは、この過密な状況をコメディの題材として巧みに利用しました。
身動きが取れないほどの混雑から生じるハプニングや、チャーリーが巻き込まれるドタバタは、当時の労働者の日常の苦労をユーモラスに描きつつ、視覚的なインパクトで観客の笑いを誘いました。
猫のシーンについて
給料日で遊び疲れて早朝に帰宅したチャーリーを待ち受けるのは、部屋の机の上に20匹ほどもひしめき合う猫たち。そして、驚いたチャーリーを尻目に、猫たちが窓から次々と外に飛び出していくシーンは、本作のハイライトの一つであり、観客に「ほっこり」とした笑いをもたらします。

このシーンに特別なトリックは使われていないと考えられ、おそらくは実際にたくさんの猫を誘導して撮影されたものと思われます。チャップリンは動物を作品によく登場させ、彼らの予測不能な可愛らしさや自然な動きをコメディに昇華させるのが得意でした。この猫たちのシーンも、彼らの無邪気な生命力と、それに戸惑うチャーリーの人間らしい反応の対比が、温かいユーモアを生み出しています。遊び疲れた身体に鞭打って帰ってきたチャーリーが、猫という予期せぬ「家族」に翻弄される様子は、彼の日常の混乱ぶりをコミカルに描き出しています。
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます。
『給料日』は、チャップリンが労働者の日常を丹念に観察し、そこに潜むユーモアとペーソスを見事にすくい上げた作品です。
給料日のささやかな喜びから、家庭のしがらみ、社会の喧騒、そして予測不能な動物たちとの遭遇まで、チャーリーの体験はどれも観客に共感を呼び、大きな笑いを提供します。
特に、既婚者であるチャーリーが家庭から逃れて羽根を伸ばすという珍しい設定や、当時の社会背景が垣間見える路面電車の混雑、そして何よりも猫たちとの心温まる(そして滑稽な)交流は、時代を超えて人々を魅了し続けるチャップリンのコメディセンスと人間洞察の深さを示しています。

本作は、たった20分ほどの短編でありながら、チャップリン作品の魅力が凝縮された、まさに宝石のような一作と言えるでしょう。

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