特殊メイクで驚きの変貌を遂げた俳優5選

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特殊メイクは、俳優の顔や体を大きく変貌させ、観客を驚かせ、時には物語に深みを与える魔法のような技術です。長時間のメイクアップ、特殊な素材、そしてアーティストの卓越した技術が一体となって、スクリーンの上に新たな生命が吹き込まれます。

今回は、その特殊メイクによって驚くべき変貌を遂げ、私たちを魅了した5人の俳優たちと、彼らを支えたメイクアップアーティストたちの物語をご紹介しましょう。

1. ゲイリー・オールドマン:『ハンニバル』における見るも無残な姿

作品概要

2001年公開の『ハンニバル』は、トマス・ハリスの小説を原作とするサイコスリラー映画で、世界的ヒットを記録した『羊たちの沈黙』の続編にあたります。前作でレクター博士に顔の皮を剥がされた富豪、メイスン・ヴァージャーが、レクターへの復讐を企てる様が描かれています。監督はリドリー・スコット、アンソニー・ホプキンスがハンニバル・レクター博士を続投し、クラリス・スターリング捜査官役はジョディ・フォスターからジュリアン・ムーアに交代しました。

役どころ

ゲイリー・オールドマンが演じたのは、レクター博士の過去の犠牲者であり、大富豪のメイスン・ヴァージャー。レクター博士に拷問され、顔の皮を剥がれた上に、自らの顔を食いちぎるという猟奇的な体験をさせられた人物です。そのため、彼は顔のほとんどを失い、見るも無残な姿で登場します。その痛ましい姿は、レクター博士の凶悪さと、ヴァージャーの深い憎しみを際立たせる上で重要な役割を担っていました。

メーキャップを務めた人

ゲイリー・オールドマンの特殊メイクを手がけたのは、特殊メイク界の巨匠であるグレッグ・キャノン率いるチームです。グレッグ・キャノンは、『ドラキュラ』や『ミセス・ダウト』など、数々の作品で印象的な特殊メイクを生み出してきた人物であり、アカデミー賞メイクアップ賞を何度も受賞しています。彼のチームは、ヴァージャーの顔の「ない」部分をリアルに表現するため、義眼や人工皮膚、そして巧妙なペイント技術を駆使しました。

こぼれ話

この役を演じるにあたり、ゲイリー・オールドマンはクレジットされていません。これは彼自身の希望であり、特殊メイクによって完全に別人に変貌することを楽しんでいたためとも言われています。しかし、彼の演技は、顔のほとんどが特殊メイクで覆われているにもかかわらず、その表情と声だけでヴァージャーの苦悩と憎しみを痛いほどに伝えていました。撮影現場では、そのあまりのリアルさに共演者やスタッフも驚きを隠せなかったそうです。長時間のメイクアップと、それによる身体的な負担も相当なものだったと推測されますが、彼は役柄に深く没入し、ヴァージャーというキャラクターを完璧に作り上げました。

2. マックス・フォン・シドー:『エクソシスト』における老獪な神父

作品概要

1973年公開の『エクソシスト』は、ウィリアム・ピーター・ブラッティの同名小説を原作とするオカルトホラー映画の金字塔です。少女リーガンに取り憑いた悪魔と、それに立ち向かう2人の神父の壮絶な戦いを描いています。ホラー映画としてだけでなく、人間の信仰、善悪、そして悪魔の存在を深く問いかける哲学的な作品としても評価され、全世界に大きな衝撃を与えました。

役どころ

マックス・フォン・シドーが演じたのは、悪魔祓いのベテランであるメリン神父です。イラクでの遺跡発掘中に悪魔の兆候を感じ取り、リーガンに取り憑いた悪魔の存在を確信する人物です。彼の年齢は、作品の中では設定されていませんが、長年の悪魔との戦いを通じて得た知識と経験を持つ、老獪で威厳のある人物として描かれています。

メーキャップを務めた人

マックス・フォン・シドーの老けメイクを手がけたのは、ディック・スミスです。ディック・スミスは、「ゴッドファーザー・オブ・メイクアップ」と称される伝説的な特殊メイクアーティストで、『アマデウス』や『ゴッドファーザー PART III』など、数々の名作で俳優の年齢を巧みに操作する技術を披露してきました。彼は、マックス・フォン・シドーが当時44歳であったにもかかわらず、メリン神父の年齢を80代後半に見せるための精密な老けメイクを施しました。

こぼれ話

ディック・スミスは、マックス・フォン・シドーの顔に、シワやたるみを表現するためのラテックス製の付け物と、綿密なペイント技術を組み合わせました。特に、目元のたるみや頬のくぼみは、まるで本物の老人のようなリアルさで、観客はマックス・フォン・シドーが実年齢よりもはるかに年上であると信じ込みました。このメイクアップは、メリン神父の長年の苦労と経験、そして悪魔との戦いを象徴するものであり、作品のリアリティを格段に高めることに貢献しました。マックス・フォン・シドー自身も、このメイクアップによって役柄に深く入り込むことができたと語っています。



3. トム・クルーズ:『バニラ・スカイ』における損傷した顔

作品概要

2001年公開の『バニラ・スカイ』は、スペイン映画『オープン・ユア・アイズ』をリメイクしたサイコスリラー映画です。若くして成功を収めた出版社社長デヴィッド・エイムスが、交通事故で顔に重傷を負い、現実と夢、記憶が混濁していく様を描いています。監督はキャメロン・クロウ、共演にはペネロペ・クルス、キャメロン・ディアスらが名を連ねています。

役どころ

トム・クルーズが演じたデヴィッド・エイムスは、物語の序盤ではハンサムで裕福なプレイボーイですが、交通事故により顔に大きな傷を負い、その後の人生が一変します。顔の損傷は、彼の精神的な苦悩と混乱を視覚的に表現する重要な要素となっています。

メーキャップを務めた人

トム・クルーズの顔の特殊メイクは、カズ・ヒロ(旧名:辻一弘)とマイケル・ジョンソンが中心となって手がけました。カズ・ヒロは、日本の特殊メイクアーティストとして世界的に知られ、後に『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』や『スキャンダル』でアカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞する人物です。

こぼれ話

デヴィッドの顔の損傷は、単に「傷」ではなく、彼の内面的な葛藤を映し出す鏡として機能します。カズ・ヒロたちは、事故によって引き起こされた顔の皮膚の変形、縫合痕、そしてそれらが治癒していく過程を、非常にリアルかつ繊細に表現しました。トム・クルーズは、この特殊メイクのために長時間のセッションを重ね、その状態での演技に挑戦しました。彼は、顔にメイクアップを施した状態で人前に出た際に、人々が彼から目をそらす反応を示したことから、デヴィッドの孤独や苦悩をより深く理解することができたと語っています。このメイクアップは、単なる視覚的な変身だけでなく、俳優の役柄への深い洞察を促す役割も果たしました。



4. ブラッド・ピット:『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』における老若の変化

作品概要

2008年公開の『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』は、F・スコット・フィッツジェラルドの短編小説を原作とするファンタジー・ドラマ映画です。年老いた姿で生まれ、徐々に若返っていくという特異な運命を背負ったベンジャミン・バトンの人生を描いています。監督はデヴィッド・フィンチャー、共演にはケイト・ブランシェットらが名を連ねています。

役どころ

ブラッド・ピットが演じたベンジャミン・バトンは、生まれながらにして80代の老人と同じ身体を持ち、そこから徐々に若返っていくという、まさに「数奇な人生」を送ります。そのため、彼の年齢の変化を視覚的に表現することが、作品の最も重要な要素の一つでした。

メーキャップを務めた人

ブラッド・ピットの驚異的な老若の変化は、特殊メイクアーティストのグレッグ・キャノン、デヴィッド・フィンチャー、そしてデジタルエフェクトチームの共同作業によって生み出されました。特に初期の老人期のベンジャミンの顔は、グレッグ・キャノンの手がけた特殊メイクと、ILM(インダストリアル・ライト&マジック)のデジタル合成技術が組み合わされています。

こぼれ話

ベンジャミンの人生は、彼が年老いた姿で生まれ、徐々に若返っていくという逆行する時間の流れにあります。映画の序盤、ブラッド・ピットは、老人期のベンジャミンを演じるために、顔全体を覆う特殊メイクと、デジタル処理された身体の合成によって、驚くほどリアルな老人を作り上げました。特に彼の「目」だけがブラッド・ピットのままであったことが、その内面の感情を伝える上で非常に重要でした。このメイクアップは、単なる老けメイクの域を超え、ベンジャミンというキャラクターの存在そのものを定義するものでした。メイクアップとVFXの融合が、この作品の唯一無二の魅力を生み出したと言えるでしょう。この革新的なアプローチにより、本作はアカデミー賞メイクアップ賞を受賞しました。

5. ティルダ・スウィントン:『サスペリア』における3役

作品概要

2018年公開の『サスペリア』は、ダリオ・アルジェント監督による1977年の同名ホラー映画をリメイクした作品です。ベルリンの有名な舞踊団を舞台に、新入りのダンサーが巻き込まれていく恐怖と、舞踊団に隠された秘密を描いています。監督はルカ・グァダニーノ、主演はダコタ・ジョンソンです。

役どころ

ティルダ・スウィントンは、この作品で驚くべきことに、3つの異なる役を演じています。

マダム・ブラン: 舞踊団のカリスマ的な芸術監督。

ジョセフ・クレンペラー博士: 舞踊団に通う老年の男性心理療法士。

ヘレナ・マルコス: 舞踊団の創始者の一人で、隠れた存在。

特に注目すべきは、男性であるクレンペラー博士の役です。

メーキャップを務めた人

ティルダ・スウィントンの変身は、特殊メイクアーティストのマーク・クーリエによって手がけられました。マーク・クーリエは、『グランド・ブダペスト・ホテル』や『トランスフォーマー/最後の騎士王』など、数々の作品でティルダ・スウィントンの変身を支えてきた人物です。

こぼれ話

ティルダ・スウィントンがクレンペラー博士を演じていることは、公開後しばらくの間、秘密にされていました。当初、この役は「ルッツ・エイバースドルフ」という架空の男性俳優が演じているとクレジットされており、多くの観客は彼女が演じているとは気づきませんでした。マーク・クーリエは、ティルダ・スウィントンを老年の男性に変えるために、顔のしわやたるみ、男性的な骨格を強調するメイクアップを施しました。さらに、彼女は性器のプロテーゼまで装着し、男性としての振る舞いを徹底的に研究したと言われています。この大胆な試みは、観客を欺くためだけではなく、作品のテーマである「変容」や「隠された真実」を象徴するものでもありました。ティルダ・スウィントンの演技とマーク・クーリエのメイクアップの相乗効果によって、クレンペラー博士は単なる老人ではなく、作品に不穏な深みを与える存在として強烈な印象を残しました。彼女自身もこの挑戦を非常に楽しんでおり、特殊メイクが俳優の可能性をどこまでも広げることを証明しました。

今日の映学

最後までお読みいただき有難うございます。

特殊メイクは、単に顔を変える技術ではありません。それは、俳優に新たな肉体を与え、役柄の内面を視覚的に表現し、物語の世界に深みを与えるための芸術です。今回ご紹介した5人の俳優たちは、特殊メイクの力を借りて、私たちに忘れがたい印象を残しました。

彼らの変身は、メイクアップアーティストたちの熟練した技術と、俳優たちの役柄への深い献身が融合した結果であり、映画という芸術形式の奥深さを改めて感じさせてくれます。

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