2009年に公開されたホラー映画『呪怨 黒い少女』は、日本を代表するホラーシリーズ「呪怨」の10周年記念作品として、『呪怨 白い老女』と同時上映された作品です。
従来のシリーズの呪われた家や伽椰子といった要素とは一線を画し、「生まれることのできなかった一つの命の怨念」という、より個人的で根源的な恐怖を描くことで、シリーズに新風を吹き込みました。

劇場版『呪怨2』と少し似てますね。

詳しく解説していきましょう!
作品情報
- 原案・監修: 清水崇 「呪怨」シリーズの生みの親であり、Jホラーブームを牽引した監督。本作では監督は務めず、企画の根幹となるアイデアと、作品全体の方向性を監修する立場で関わっています。彼の築き上げた「呪怨」の世界観が新たな形で表現される基盤を作りました。
- 監督: 安里麻里 本作のメガホンを取ったのは、新鋭ホラー監督として注目されていた安里麻里。独特の映像美と心理的な恐怖描写に定評があり、本作でもその手腕を発揮しています。清水崇が築いた世界観を踏襲しつつも、彼女独自の視点で「呪怨」の恐怖を深掘りしています。
- 脚本: 安里麻里 監督自身が脚本も手掛けることで、より一貫した世界観と物語の構築が実現されています。「生まれることのできなかった一つの命の怨念」というテーマを、緻密なストーリーテリングとキャラクター描写で表現しています。特に女性監督ならではの視点から、出産や生殖にまつわるタブー、そしてそれがもたらす人間の深い闇や悲劇に迫っている点が注目されます。
主要キャスト

- 裕子(ゆうこ) 役: 加護亜依 本作の主人公である看護師。彼女が担当する少女・芙季絵の身に起こる異変から、不可解な呪いと恐怖に巻き込まれていきます。元モーニング娘。という国民的アイドルグループのメンバーであった彼女が、シリアスなホラー作品の主演を務めたことで、公開前から大きな話題となりました。
- 真理子(まりこ) 役: 中村ゆり 芙季絵の母親の妹で、霊能力を持つ女性。呪われた芙季絵を救おうと奮闘しますが、その霊能力ゆえに呪いの核心に迫り、自らも危険な状況に追い込まれていきます。冷静沈着でありながら、恐怖に立ち向かう強い意志を表現しています。
- 芙季絵(ふきえ) 役: 石橋杏奈 裕子が担当する少女で、体内に謎の嚢腫を抱え、それが呪いの発端となります。純粋な少女と、呪いによって変貌していく姿を繊細かつ不気味に演じています。
加護亜依の起用と当時の背景
加護亜依さんの本作への主演起用は、当時の芸能界における彼女の状況を鑑みると、非常に挑戦的かつ戦略的なキャスティングであったと言えます。

彼女は、国民的アイドルグループ「モーニング娘。」の中心メンバーとして絶大な人気を博しましたが、グループ卒業後に度重なる未成年での喫煙報道(2006年、2007年)により、当時の所属事務所を解雇され、芸能活動を一時休止していました。世間からは厳しい目が向けられ、その去就が注目されていた時期でした。
『呪怨 黒い少女』が公開された2009年は、彼女が本格的に芸能活動を再開し始めていた時期にあたります。復帰後初の主演映画として、高い知名度と根強いファンを持つ「呪怨」シリーズに抜擢されたことは、彼女にとって大きな再起の足がかりとなるはずでした。制作側からすれば、スキャンダルによって良くも悪くも世間の注目を集めていた彼女を起用することで、作品自体の話題性を高めるという意図があったと考えられます。
しかし、公開年の2009年には、再度プライベートに関するスキャンダル報道が持ち上がるなど、彼女を取り巻く状況は依然として不安定でした。このように、世間からの厳しい視線と再起への期待が入り混じる中で、ホラー作品の主演というインパクトのある役どころを務めたことは、まさに「攻めたキャスティング」であり、作品公開時の大きな注目点の一つとなりました。彼女の演技と、その背景にある「再起への挑戦」という物語は、多くの観客にとって単なるホラー映画以上の関心事となったのです。
見どころ
本作の最も特異な点は、従来の「呪怨」が描いてきた家族間の因縁や怨念とは異なり、「母親が産むことのできなかった一つの命が嚢腫として少女の体内に宿り、それが怨念と化す」という設定にあります。この設定は、手塚治虫の『ブラック・ジャック』に登場するピノコの誕生背景を想起させつつも、それをホラーとして昇華させた点で非常に斬新です。
シリーズの中では、直接的な視覚による「飛び上がるような怖さ」は比較的控えめであり、いわゆるJホラーの代名詞ともいえる、じめっとした心理的な恐怖や不穏な雰囲気を重視しています。
監督・脚本を務めた安里麻里は女性監督であり、出産、妊娠、そして「命の誕生」という普遍的なテーマをホラーの文脈で描くことに、女性ならではの深い洞察が感じられます。女性の身体に宿る命、そしてそれが何らかの理由でこの世に生を受けることができなかった場合の「無念」は、男性監督では表現しにくい、より繊細で生々しい恐怖となり得ます。また、劇中で描かれる不倫といった要素も、人間の関係性の複雑さや、それがもたらす破滅を、女性の視点から深く掘り下げていると言えるでしょう。
安里監督は、生命の神秘と悲劇、そしてそれが怨念へと転じる過程を、心理的な描写とドラマ性によって描き出すことで、観る者に根源的な問いを投げかけます。単なる驚かせの恐怖に留まらず、人間の生と死、そして倫理に踏み込むテーマ性が、『呪怨 黒い少女』をシリーズの中でも特に異色かつ印象的な作品にしています。
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます。
『呪怨 黒い少女』の 奇抜なキャスティングやこれまでと一風変わった異色の演出について解説しました。

ぶっちゃけ怖さは今一つですが、後味の悪い独特な恐怖を感じる作品です。

シリーズの中で異色系だね!
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