小津安二郎作品「晩春」を鑑賞しました。
小津安二郎監督が、作風を確立し、何気ない家族ドラマを描き、後のホームドラマへも多大な影響を与えた作品です。
名作ながら、賛否が分かれたり、人によってかなり解釈が変わったりすることでも有名な本作。
今回の記事では、「晩春」の見どころや作品を味わうためのポイントを解説します!
「壺」のシーンや、紀子が再婚に嫌悪する理由も考察してみました。
紀子三部作
「晩春」は、原節子さんが小津安二郎監督作品の中で、紀子という名前で出演した最初の作品です。
後に、「東京物語」「麦秋」で、人物は違うものの、紀子という名前の女性を演じています。
この作品が、小津監督と原節子さんの初タッグにあたります。
小津スタイルの確立
上記の原節子さんとのタッグに加え、
笠智衆さんの初老の男性役や、
ローアングルのショット、
独特な人物の切り返しショット、
風景だけの短いカットの挿入など、
小津スタイルの多くを確立した作品です。
杉村 春子さん
杉村 春子さんもまた、「東京物語」「麦秋」に出演しています。
素朴でストレートで、遠慮なくづけづけと物を言ってしまうような役柄です。
私はなんだか、あのストレートさが清々しくって好きです。
作品を語る上で、あまり注目されることはない印象ですが、意外と物語の「転」となる発言やアクションを起こす、キーパーソンになりがち。
名バイプレーヤーですね。
「晩春」までの小津監督作品にも、以降の作品にも度々出演しています。
能、茶の湯などの日本文化
「晩春」では、能の観劇や、茶の湯の手習いなど、日本の伝統文化がいくつか出てきます。
このことが、公開当時の戦後日本において、賛否が多く分かれたそうです。
日本文化の復権ととるか、戦後の雰囲気からの逃避ととるか…。
受け取り方が真っ二つに分かれたそうな。
今となっては、アニメや月九ドラマでも扱われるようになった日本の伝統文化。
小津監督が羨むような、平和な時代になったということでしょう。
再婚への嫌悪の理由
今作で原節子さんが演じる紀子は、
叔父が再婚したことを、「不潔」「汚らしい」などと発言しています。
また、父から再婚する意志を告げられた後も、露骨に嫌な表情を見せます。
笑顔が素敵な原節子さんだけに、その嫌悪の表情は強烈です。
なぜここまで、再婚を嫌悪するのか、私なりに考えてみました。
それはズバリ、紀子の心がまだ少女だったからです。
紀子は結婚に対しても後ろ向きで、
父の再婚にもネガティブです。
まだまだ父と離れたくない少女であり、父から男性らしさを感じたのがとても嫌だったのでしょう。
人によっては、「晩春」が近親相姦を描いた映画だと解釈されることがございますが、私は、もう少し爽やかな印象を受けました。
少女だった紀子が、父のもとを離れ、ようやく一人の女性へと育つ。
そのさまを描いた作品であると考えます。
子供部屋おじさんなどという単語が生まれる現代のほうが、しっくりくるから不思議です。
壺のシーン
先述のように、「晩春」の解釈は様々で、その論点として取り上げられやすいのが「壺」のシーンです。
京都の宿で父子が同じ部屋に泊まり、
ふとんの中で、
「私、お父さんのこと、とても嫌だったんだけど…」
といった後、
壺が映り、
父はいびきをかいて眠っている。
再び紀子の表情が映り、
壺のカットがもう一度はいります。
非常に意味深です。
壺の意味について、色々調べてみましたが、特にそれっぽい比喩はなさそうでした。
その為、一つの仮説としては、その後に日本庭園が映し出されることから、日本文化を象徴的に表すカットであるというシンプルな理由。
もう一つの仮説は、紀子が女性へと変わる意志の表れを象徴するシーンであるというものです。
壺=丸みをおびた陶器、ということや、父からの愛情を受ける対象として、紀子自身や、女性を表すメタファーであると解釈しました。
父や周囲に背中を押され、ようやく少女から大人の女性になる思いを表したシーンであるというものです。
小津監督自身が語ることは無かったため、真意のほどはわかりませんが…
また、タイトル「晩春」=「春の終わり」を意味することや、
公開時のポスターのキャッチコピーからも、これらを感じさせます。
とにかく、「壺」のシーンは、何やら重要な気がしてならないシーンであります。
ラストも強烈
ラストシーンも、かなり強烈です。
賛否両論、諸説あり。
ぜひご鑑賞あれ!
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます!
「晩春」は家族ドラマの基盤となった作品でありつつも、意味深なカットや、紀子の激情がたっぷり詰まっているので、刺激的な作品でした。また、解釈や賛否の分かれる作品であることも面白いポイントです!
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