『アルプススタンドのはしの方』に感じた違和と嫌悪の正体

映画

この映画を観終わって、胸に残ったのは拍手と、少しの違和感でした。

拍手を送りたいのは、他でもない、この作品の原点にある高校演劇、そしてそれを生み出した顧問である籔博晶先生の着想力です。

限られた空間と登場人物で、高校生たちの複雑な感情と人間関係を見事に描き切った発想には、ただただ感心するばかりです。

ですが、映画としては違和感が拭えません。

bitotabi
bitotabi

個人的な好みで言えば、あまり好きな映画ではありませんでした。物語の根底にある青春や若者の葛藤については、素晴らしいと思うのですが、その魅せ方ですね。

ダニー
ダニー

批判的なの、珍しいよね。

この矛盾した感情を紐解く鍵は、映画の脚本、そしてそれを演出した監督にあるように思います。


「え?」が台無しにする映像の力

映画の中で頻繁に繰り返される「え?」というリアクション。

もしかしたら、これは高校演劇の脚本の段階からあった表現なのかもしれません。

どちらにせよ、映画として観ると、その不自然さが際立ってノイズになってしまうのです。

「言わなくてもわかるじゃん」と、何度も思いました。

というか、その感情を伝えたいなら、表情や仕草、カメラワークで魅せてくれと。

でも怖いから、「え?」というセリフを刺しこまずにはいられない。そういった不安感に映るんです。

言葉に頼っている時点で、監督、カメラマン、そして俳優、彼ら全員の自信のなさを感じて仕方ありませんでした。

映像の力を信じていないように思えてしまい、その安易さが、物語への没入を妨げてしまうのです。

bitotabi
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他の日本映画でもよく見られますけどね。


美しすぎるキャストと、歪んだ女性像

そして、何よりも気になったのは、登場する女性キャラクターたちに感じる違和感です。青春の不器用さを描いているはずなのに、その裏には、どこか男性の理想が透けて見えるように感じてしまい、正直なところ見ていて気味が悪いのです。彼女たちの言動は、現実の高校生とはかけ離れており、感情移入することが難しくなってしまいました。



城定監督の過去作には、例えば『愛なのに』では女子高生に本屋のおじさんが惚れられ、『女子高生に殺されたい』では女子高生にモテモテの教師が主人公といった作品があります。

これらの作品には、「おっさん」の欲望が滲み出ているように感じられ、見るに堪えない側面がありました(好きな人ごめんなさい)。

城定監督がピンク映画出身であること自体は決して悪いことではありません。

しかし、そういったジャンルで培われた「女の子はこうあるはずだ!」という非常に男性主義的な考え方が、この作品の女性像にも強く反映されているように感じられます。

まるで、男性にとっての「都合のいい女性像」が描かれているようで、それがまるでアダルトビデオのように思えてしまうのです。

bitotabi
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もし、そういったおっさんの欲望を暗に伝えるのが監督の狙いなのであれば、大成功と言えるかもしれません。

一方で、そういったエッセンスが皆無の『銀平町シネマブルース』は非常に面白かったですし、逆にそういった欲望を包み隠さずストレートに描いた『ビリーバーズ』などもとても良い作品だと感じました。

さらに、この違和感は、美男美女揃いのキャスティングによって、さらに強められました。

観客は、ごく普通の高校生の物語を観ているつもりです。ですが、画面に映し出されるのは、モデルのような完璧なルックスの彼らです。彼らが地味な「はしっこ」で、スクールカーストや将来の不安といった等身大の悩みを抱えている姿は、どうにも現実感がなく、まるで「着せ替え人形」のように見えてしまいます。

ダニー
ダニー

これもまた、映画やドラマにはよくあることだよね。この子がモテないなんてありえないだろ!っていう。




それでも、称賛すべき点

ここまで辛辣に述べてきましたが、それでもこの映画が多くの人に支持される理由も理解できます。

まず、ストーリーの着想の面白さです。演劇部員の葛藤、吹奏楽部のトランペットを吹く女子の複雑な心境、そして先生の存在。それぞれが抱える「はしっこ」の感情が、野球部の試合という共通の舞台を通して、少しずつ交差していく様は、素直に楽しめました。

そして、この作品が元々学生演劇だったという事実も、非常に興味深いです。演劇部の生徒が野球部の試合を観戦するというメタ的な構造は、かなり面白いですよね。演劇部が演劇部を演じるという。



今日の映学

最後までお読みいただきありがとうございます。

『アルプススタンドのはしの方』は、青春のモヤモヤを丁寧に描いた作品として、多くの人に響く普遍的なテーマを持っています。

ですが、私にとっては、その「モヤモヤ」が、監督の演出やキャスティングの違和感によって、観る側の「気持ち悪さ」にすり替わってしまいました。

この映画は、元々の脚本の着想の面白さを改めて教えてくれる作品だったのかもしれません。そして、同時に、監督の「型」や「道徳観」というものが、時に作品のテーマを邪魔してしまう可能性があることも示しています。

bitotabi
bitotabi

映画としての評価は分かれるでしょう。しかし、この作品の根底にある「高校演劇」という原点には、間違いなく称賛に値する才能がありました。

ダニー
ダニー

なるほどーって感じ。

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