『我、邪で邪を制す』嘘のような実話と古典の裏側

アクション・パニック映画

NETFLIXで配信され、台湾や中国大陸でも社会現象級の大ヒットを記録した映画『我、邪で邪を制す』(原題:周處除三害)。

本作は、自分が余命幾ばくもないこと、そして指名手配犯の「全国3位」であることを知った殺し屋・陳桂林が、死ぬ前に1位と2位の凶悪犯を自ら葬り去ろうと奔走する壮絶なアクション・サスペンスです。

監督は香港のウォン・ジンポー。容赦のないバイオレンスとアクション、 そして台湾独自の土着的な雰囲気が見事に融合した本作ですが、実は劇中のキャラクターや印象的なシーンには、台湾で実際に起きた事件や有名な昔話が深く関わっています。

bitotabi
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今回は、本作をより深く楽しむために知っておきたい裏話と、映画ファンを唸らせる本作の魅力について解説します。

ダニー
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まずは作品概要からいってみよう!

作品概要

  • 公開年: 2023年(台湾)、2024年(NETFLIX配信)
  • 監督・脚本: ウォン・ジンポー(黃精甫)
  • キャスト: イーサン・ルアン(阮經天)、ベン・ユエン(袁富華)、チェン・イーウェン(陳以文)、ワン・ジン(王淨)
  • あらすじ: 祖母を亡くし、自身も末期がんを宣告された殺し屋の陳桂林。自分の人生に何も残せていないことに絶望した彼は、せめて歴史に名を残そうと、警察の指名手配犯トップ2である「香港仔」と「尊者」を自らの手で排除することを決意する。

タイトルの由来となった古典の昔話『周處除三害』

原題である『周處除三害』は、中国の古典(『世説新語』など)に登場する非常に有名な故事成語です。

【昔話のあらすじ】

昔々、周處という乱暴者がいました。ある時、村人から村には「3つの災い(三害)」があると聞かされます。1つ目は山の猛虎、2つ目は川の大蛟(怪魚)、そして3つ目は「周處、お前自身だ」と告げられます。己の悪名を知って改心した周處は、命懸けで猛虎と大蛟を退治し、最後に自分自身の悪を改めることで「三害」をすべて取り除き、のちに英雄となりました。

映画はこの古典を現代に見事に昇華させています。陳桂林(チェン・グイリン)が、1位(香港仔)と2位(尊者)を葬り、最後に「3番目の悪」である自分自身をどう処するのか。古典の構造を知っていると、物語の結末がより深く突き刺さるはずです。

冒頭の白昼堂々の暗殺と「陳桂林のモデル」

物語の冒頭、大物ヤクザの葬儀(告別式)に陳桂林が堂々と現れ、衆人環視の中で別の組長を射殺して逃亡するあまりにも衝撃的なシーン。実はこれも、1980年代の台湾を震撼させた実在の事件が元になっています。

主人公のモデルとなったのは、劉煥榮(リウ・ファンロン)という実在の殺し屋です。

彼は1983年、大物ヤクザの葬儀会場に一般の参列者を装って潜入し、油断していたライバル組織のボスを白昼堂々、両手の拳銃で射殺しました。 さらに興味深いのは、彼が映画の陳桂林と同じく、どこか義理人情に厚い二面性を持っていた点です。ヤクザから巻き上げた大金で孤児院を救ったり、人身売買されそうになった少女を助けたりしており、こういったヒーロー的な一面が主人公のイメージと重なりますね。



2,000発の銃弾が飛び交った「蜂の巣にされた香港人」

劇中でベン・ユエンが怪演した狂気的な指名手配犯「香港仔(ホンコンザイ)」には、1990年代の台湾を震撼させた実在の凶悪犯、陳新發(チェン・シンファ)というモデルがいます。

彼は多くの警察官を殺害した人物で、1992年に警察に潜伏先を包囲された際、台湾犯罪史上最大規模とも言われる壮絶な銃撃戦を繰り広げました。警察側が撃ち込んだ弾丸は2,000発以上におよび、最終的にアパートは爆発、彼は文字通り蜂の巣にされて死亡しました。香港仔のセリフや設定は、この凄惨な事件から着想を得ています。

自作の歌で洗脳する「カルト宗教のブーム」

物語の後半、澎湖島で不気味な存在感を放つカルト宗教「新心靈舍」。この尊者(林祿和)のモデルとなったのは、台湾で実際に世間を騒がせた「華興靈修中心」の主宰者・徐浩城(通称:少龍)という人物です。

彼は自分を神格化して多額の寄付金を騙し取り、マインドコントロールによって信者を支配していました。劇中で歌を歌って信者を洗脳するシーンがありますが、実際の少龍も「自分の歌には病気を治す力がある」と称して何枚もCDをリリースしており、映画ではその実態が痛烈なパロディとして描かれています。

警察署がパニックに!皮肉が効いた「お金と卵の自首劇」

物語の序盤、陳桂林が命懸けで自首しに警察署を訪れるものの、署内が大混乱に陥っており自首し損ねるという、不条理でコミカルな名シーンがあります。

この大混乱の理由として語られるのが、「交通事故で道路に散乱した現金と卵を、周囲の住民が拾いまくった。その後、警察に促された市民が返却手続きのために一斉に警察署に押し寄せた」というエピソード。 実は台湾では、過去に現金輸送車が横転して住民がお金を拾いまくるという事故が実際に何度も起きており、その社会的なニュースをヒントに作られた映画オリジナルの演出です。「凶悪犯が必死の覚悟で自首しに来たのに、警察は卵とお金の処理に追われて相手にもしない」という、人間の可笑しみと社会の不条理さを描いた、監督のセンスが光る秀逸なシーンとなっています。

bitotabi
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卵の散見も割と多いらしいです。



前後半でガラリと変わる二面性と、名作へのオマージュ

このように数々のリアルな実話が散りばめられた本作ですが、映画としての構成も非常に秀逸。特に面白いのが、物語の前後半でガラリと趣向が変わる二面性です。

前半の「香港仔」との対決は、息をもつかせぬ容赦のないバイオレンスアクションがメインとなっており、息苦しいほどの緊張感が続きます。しかし、後半の「カルト宗教」との戦いに入ると、一転して重厚な人間ドラマや、じわじわと恐怖が迫るサスペンス風の展開へとシフトしていきます。この大胆な構成のおかげで、長尺でありながらも一切退屈せずに観やすくなっており、アクション好きから人間ドラマ好きまで、幅広い層が楽しめるエンターテインメントに仕上がっています。

また、映画ファンとして見逃せないのが、随所に散りばめられたハリウッドの名作へのリスペクトです。 所々で主人公にカメラが寄り、画面に向かって銃を放つ印象的なシーンがありますが、これはデヴィッド・フィンチャー監督の『セブン』やクエンティン・タランティーノ監督の『パルプ・フィクション』に対するオマージュのようにも感じられます。

特に、冷酷な殺し屋が宗教(神の存在)に目覚めていくというプロットは、『パルプ・フィクション』でサミュエル・L・ジャクソンが演じた殺し屋ジュールスが、奇跡を体験して裏社会から足を洗おうとする姿と非常に重なります。ウォン・ジンポー監督の、過去の名作たちに対する深い敬意と愛が伝わってくるポイントです。

今日の映学

最後までお読みいただきありがとうございます。

映画『我、邪で邪を制す』は、フィクションのアクション映画にとどまらず、台湾の古典的な故事成語をベースにしながら、実際に起きた凄惨な事件や社会問題を巧みに織り交ぜた傑作です。

前半のバイオレンスアクションから後半のサスペンスフルな人間ドラマへの鮮やかな転換や、ハリウッド名作へのオマージュといった映画的な仕掛け、そして現実の事件から地続きの生々しい恐怖があるからこそ、あの独特な説得力とダークな魅力が生まれていると言えます。

bitotabi
bitotabi

実際の事件と照らし合わせて観ると、より一層面白いし、台湾という国の歩みも少し分かって楽しいですよ。

ダニー
ダニー

前後半で変わる映画の雰囲気も楽しいよ~。

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