剥き出しの頭が告げる「真実」の不条理――『ブゴニア』という名の迷宮を紐解く

映画

ヨルゴス・ランティモス監督の最新作『ブゴニア』は、観客を心地よく突き放す映画です。

エマ・ストーンが演じるCEO・ミシェルの、美しくも異様な坊主頭。

突如として語られる「インスタント去勢」。

そして、劇中の至る所に忍ばされた「平面の地球」。

これらの断片的な記号は、一体何を意味しているのか。

本作は誘拐スリラーの枠組みを借りながら、その実、現代社会の歪みと個人の狂気が複雑に絡み合った、極めて解読困難なパズルとなっています。

bitotabi
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この記事では、本作に散りばめられたメタファーを一つずつ拾い集め、この難解な物語の深層を紐解いていきます。

ダニー
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ネタバレありだから、結末を知りたくない人は観てから読んでね~。

作品概要:地下室に閉じ込められた「地球の運命」

本作の骨組みは、韓国映画『地球を守れ!』(2008)をベースにしています。

舞台は現代アメリカ。巨大製薬会社「オーゾリス(Auxolith)」のCEOであるミシェルは、自社の元社員テディとその従弟ドンによって拉致されます。

テディの主張は荒唐無稽です。「ミシェルは地球侵略を目論むバゴニア人(宇宙人)である」。彼は地下室という閉鎖空間で、彼女から侵略を阻止するための情報を聞き出そうと、常軌を逸した「儀式」を繰り返します。

登場人物が背負う「象徴」

  • ミシェル(エマ・ストーン):成功の頂点にいるCEO。監禁され、髪を剃り落とされることで、彼女の「人間性」は剥ぎ取られ、テディが信じる「バゴニア人」としてのアイコンへと変貌させられていきます。
  • テディ(ジェシー・プレモンス):陰謀論に救いを求めた養蜂家。母親を製薬会社の治験で失った過去を持ち、システムへの憎悪を「宇宙人との戦い」という壮大な物語に置き換えることで、自らの尊厳を保とうとします。
  • ドン(エイダン・デルビス):テディを信奉する純朴な青年。彼の中に残る「純粋さ」こそが、狂気的な計画に人間味を与え、同時に救いのない悲劇を加速させる触媒となります。
bitotabi
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次項からネタバレあります!

深層のメタファー:なぜ「養蜂家」なのか(ここからネタバレ)

リメイク版における最大の設定変更である「養蜂」は、本作を解読する重要な鍵です。

ビクトル・エリセ監督の『ミツバチのささやき』において、ハチの巣箱が独裁政権下の管理社会を象徴していたように、テディもまた、自らの手で管理できる「小さな社会」を希求しています。

製薬会社という巨大なシステムに管理されていた男が、今度は地下室という「巣箱」に女王蜂(ミシェル)を閉じ込め、支配権を奪還しようとする。

劇中で映る「平面の地球」は、彼らが外部の情報を遮断したエコーチェンバーの中にいることの証左であり、彼らにとっての「世界の形」そのものなのです。



予算の飛躍が暴く、観客の「傲慢」

中盤までの低予算映画のような閉塞感は、ラストシーンで世界規模の破滅が描かれる瞬間に一変します。

私たちはテディを「狂った陰謀論者」として、ミシェルを「被害者」として、高見の見物をしてはいなかったか。

圧倒的なビジュアルで提示される終末は、観客が抱いていた「常識的な境界線」を暴力的に粉砕します。あの壮大な滅亡シーンに注ぎ込まれた製作費は、そのまま「信じたくなかった真実」の重みとして、私たちの前に立ち塞がるのです。

今日の映学

最後までお読みいただきありがとうございます。

ヨルゴス・ランティモス監督作品の中でも、かなりキワモノといえる本作。

単純にストーリーを追うだけでは、なかなか理解するのが難しい作品だと言えるでしょう。

bitotabi
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ぜひとも、様々なことに目を向けながら味わってほしいです!

ダニー
ダニー

みんなはあのラスト、どう思ったかな?

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