「驚き」が枯渇した2025年 ――サスペンス映画はどこに向かうべきか。粗品の指摘と色褪せない『マグノリア』の作品性

映画

先日、芸人の粗品が「THE W」のネタに対して放ったコメントが、エンタメ界の現状を鋭く射抜いていました。

ニッチェのネタのオチが「YouTubeの無断配信」であったことに対し、彼は「もう2025年の今、これでは弱いし、驚きも少ない」といった旨の指摘をしたのです。

この言葉は、お笑い界だけでなく、映画、特にサスペンスというジャンルにおいても極めて重要な示唆を含んでいます。

ネットやSNSの仕組みが日常に溶け込みすぎた今、私たちは「システムとしての謎」に対して、あまりにも目が肥えてしまいました。

bitotabi
bitotabi

私も最近映画を観る際、ああ、このパターンね。と、捉えてしまうことが多くて、新鮮さや斬新さに飢えているなと実感しています。

ダニー
ダニー

映画はこれからどういうものになっていくべきなんだろう。

bitotabi
bitotabi

そのあたりについて、具体的な作品の例を出しつつ、私なりに分析してみました。

現代サスペンスが直面する「賞味期限」の壁

今の観客は、ネットの闇やSNSの裏側といった設定を「日常の風景」として熟知しています。そのため、仕組みに頼ったトリックは提示された瞬間に結末を予測されてしまうという、過酷な状況にあります。

例えば、東野圭吾さんの名作を映画化した『ある閉ざされた雪の山荘で』。2024年に公開された作品です。原作が持つミステリーとしての強度は疑いようもありませんが、いざ今のスクリーンで観ると、そこには拭いきれない「予定調和」が漂っていました。

原作のリリースから時間が経ちすぎたものを現代に持ち込もうとすると、テクノロジーの進化がかつての「不可能」を「可能」に変えてしまい、肝心のトリックが風化してしまいます。俳優の演技が脚本の仕掛けを超えてこない時、映画は単なる答え合わせの作業に成り下がってしまうのです。

『ゴールド・ボーイ』が示した、現代サスペンスの対抗策

そんな「驚きの枯渇」に対して、鮮やかな回答を示したのが2024年公開の映画『ゴールド・ボーイ』でした。

本作は、中国のベストセラー小説『壊小孩(悪童たち)』を原作とし、アジア圏で社会現象を巻き起こしたドラマ『バッド・キッズ 隠秘之罪』と同じ物語を日本を舞台に再構築したものです。 物語は、殺人犯である大人と、その犯行を偶然カメラに収めてしまった少年たちの、命を懸けた駆け引きを描きます。本来なら警察に通報すべき少年たちは、それぞれの事情から、あえて犯人を「強請(ゆす)る」という危険な選択をします。

この作品が優れていたのは、小手先のITギミックに頼るのではなく、人間が本来持っている「歪み」や、大人と子供の「心理的な純粋な残酷さ」に全振りした点です。

殺人犯を演じた岡田将生さんは、端正なルックスの裏に一切の共感を拒絶するような冷徹さを宿し、それに対峙する羽村仁成さんをはじめとする子供たちは、無垢ゆえの恐ろしさを見事に体現していました。俳優陣が脚本の枠を大きく超える「底知れなすぎる演技」を見せたからこそ、どれだけ目が肥えた現代の観客をも、理屈抜きの緊張感で圧倒することができたのです。

私たちが今こそ立ち返るべき、色褪せない『マグノリア』の衝撃

しかし、こうしてサスペンスの行く末を考えていくと、結局のところ、一つの究極の答えに辿り着きます。それが、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『マグノリア』(1999年)です。

公開から四半世紀以上が経ちますが、この映画が放つエネルギーは、今のどんな最新作をも凌駕しています。なぜ、私たちはこの作品にこれほどまでの衝撃を受けるのでしょうか。

それは、『マグノリア』が単なる「論理的なパズル」ではなく、観る側の鑑賞眼や捉える力を激しく試してくるような、挑発的な映画体験だからです。

  • 予想を超える「まさか」と、圧倒的なインパクト この映画のクライマックスで起きる「ある現象」を、初見で冷静に解釈できる人はほとんどいないはずです。観ている最中は「なんだこの映像は」「真意は何なんだ」と、その異様な光景にただただ圧倒されるしかありません。
  • 鑑賞後も続く「問い」と余韻 今のサスペンスに多い「解説動画を観て納得して終わり」という薄味な体験とは正反対です。あまりに強烈なインパクトゆえに、観終わった後、あれは何だったのかと自分自身で深く向き合わざるを得なくなる。この「インパクトと余韻を噛みしめる時間」こそが、今の映画に最も必要とされているものではないでしょうか。

今日の映学

最後までお読みいただきありがとうございます。

今回話題となった粗品のコメントは、放送から時間が経った今もなお波及効果を広げ、私たちの心に「味」を残し続けています。

優れた表現というのは、その瞬間だけでなく、受け手の思考を事後的に揺さぶり続ける力を持っているものです。

サスペンスというジャンルは今、大きな転換期に立たされています。ネットの普及で「知らないこと」が減り、驚きが共有知となった現代において、安易なギミックはすぐに消費され、風化してしまいます。

サスペンス映画が次に向かうべき場所。それは、ロジックで観客をコントロールする小器用な世界ではなく、予測不可能な人生の混沌を突きつけ、観る側の「捉える力」を試してくるような、骨太な映画体験の先にあるはずです。

bitotabi
bitotabi

検索すれば数秒で答えに辿り着ける2025年の今だからこそ、私たちは『マグノリア』のような、そう簡単には抜け出せない「真の驚き」を求めているのではないでしょうか。

ダニー
ダニー

これぞ映画!って感じがするもんね。

当ブログは、毎日更新しています。
ブックマークして、またご覧いただけると嬉しいです。励みになります。
SNSにフォローしていただければ、更新がすぐわかりますので、ぜひフォロー・拡散よろしくお願いします。

X(旧Twitter)はこちら
https://twitter.com/bit0tabi
Instagramはこちら
https://www.instagram.com/bit0tabi/
Facebookはこちら
https://www.facebook.com/bit0tabi/
noteはこちら
https://note.com/bit0tabi



コメント

タイトルとURLをコピーしました