映画『卒業』使用曲『Scarborough Fair/Canticle』皮肉と葛藤がリンクする

ドラマ映画

サイモン&ガーファンクルが歌う「スカボロー・フェア」は、映画『卒業』の主題歌「サウンド・オブ・サイレンス」と並んで、映画の雰囲気を決定づけた名曲です。

歌詞をみると一目瞭然なのですが、実はこの曲って古い民謡のカバーなんです。

でも、一味違います。

その制作背景には、ポール・サイモンの独自の才能と、時代の深いメッセージが隠されています。

bitotabi
bitotabi

今回の記事では、楽曲の背景や歌詞和訳をお伝えし、その内容が映画『卒業』とどのようにリンクしているのかを解説していきます。

楽曲概要

リリース年: 1966年

収録アルバム: 『パセリ・セージ・ローズマリー・アンド・タイム (Parsley, Sage, Rosemary and Thyme)』

伝統民謡から現代のフォークソングへ

「スカボロー・フェア」は、もともと中世から伝わるイギリスの民謡です。北イングランドで行われていた交易市「スカボロー・フェア」を舞台に、別れた恋人への不可能な課題を突きつける内容で、叶わぬ愛の切なさや試練を歌っていました。この古い旋律と歌詞は、何世紀にもわたって吟遊詩人や旅人によって歌い継がれてきました。

1965年、イギリスに滞在していたポール・サイモンは、現地のフォーク・シンガーであるマーティン・カーシーからこの曲を教わります。その物悲しくも美しいメロディーに魅了されたサイモンは、この曲を自分たちの音楽に取り入れることを決めました。しかし、彼は単に伝統的な歌を再現するのではなく、時代に合わせた新たな意味を持たせたいと考えました。

ベトナム戦争がもたらした「詠唱(Canticle)」

この曲が『卒業』で使われたバージョンになる上で最も重要なのが、ポール・サイモンが加えた「詠唱(Canticle)」です。当時、アメリカではベトナム戦争が激化し、反戦運動が盛り上がりを見せていました。

サイモンは、この時代の悲劇を音楽で表現しようと考え、オリジナルの民謡のメロディーの上に、別のメロディーと歌詞を重ね合わせました。この「詠唱」は、戦場で命を落とした兵士の視点から書かれており、美しくロマンチックな愛の歌に、戦争の死という痛ましい現実を対比させています。

サイモン&ガーファンクルの化学反応

この複雑な構成を完成させたのは、ポール・サイモンの作曲能力と、アート・ガーファンクルのアレンジ能力でした。ガーファンクルは、この二つの異なる旋律をどうやって調和させるかに取り組み、最終的にガーファンクルがメインの「スカボロー・フェア」を、サイモンが「詠唱」を歌うという構成にしました。

こうして完成した「スカボロー・フェア/詠唱」は、古くからの伝統と、現代社会の悲劇が重なり合う、唯一無二の作品となりました。この制作背景を知ることで、なぜこの曲が『卒業』という、理想と現実の狭間で揺れ動く物語に完璧にマッチしたのかが、より深く理解できるでしょう。



歌詞・和訳

Are you going to Scarborough Fair
Parsley, sage, rosemary and thyme
Remember me to one who lives there
She once was a true love of mine

スカボローの市へ行くのかい?
パセリ、セージ、ローズマリー、タイム
そこに住む人に、私のことを伝えてくれ
彼女はかつて、私の本当の愛だったから

詠唱 (Canticle)
On the side of a hill in the deep forest green
Tracing of sparrow on snow-crested brown
Blankets and bedclothes the child of the mountain
Sleeps unaware of the clarion call

深緑の森の丘の斜面で
雪に覆われた茶色い地面には、スズメの足跡が
毛布と寝具、山の子供は
ラッパの鳴り響く呼び声に気づかずに眠っている

Tell her to make me a cambric shirt
Parsley sage rosemary and thyme
Without no seams nor needle work
Then she’ll be a true love of mine

彼女に、麻のシャツを一枚作ってくれと伝えて
パセリ、セージ、ローズマリー、タイム
縫い目も針仕事もなしで
それができたら、彼女は僕の本当の愛だ

詠唱 (Canticle)
On the side of a hill in the sprinkling of leaves
Washes the grave with silvery tears
A soldier cleans and polishes a gun
Sleeps unaware of the clarion call

木の葉が散りばめられた丘の斜面で
銀色の涙が墓を洗い流す
一人の兵士が銃を磨いている
ラッパの鳴り響く呼び声に気づかずに眠る

Tell her to find me an acre of land
Parsley sage rosemary and thyme
Between the salt water and the sea strands
Then she’ll be a true love of mine

彼女に、1エーカーの土地を見つけてくれと伝えて
パセリ、セージ、ローズマリー、タイム
海水と浜辺の間に
それができたら、彼女は僕の本当の愛だ

詠唱 (Canticle)
War bellows blazing in scarlet battalions
Generals order their soldiers to kill
And to fight for a cause they have long ago forgotten

真紅の部隊で燃え盛る、戦争の怒号
将軍たちは兵士に、殺せと命じる
そして、彼らがとっくの昔に忘れた大義のために戦えと

Tell her to reap it with a sickle of leather
Parsley sage rosemary and thyme
And gather it all in a bunch of heather
Then she’ll be a true love of mine

彼女に、革の鎌でそれを刈り取ってくれと伝えて
パセリ、セージ、ローズマリー、タイム
そして、ヒースの花束にすべてまとめてくれ
それができたら、彼女は僕の本当の愛だ

「詠唱(Canticle)」の歌詞と意味

「詠唱」は、もともとの伝統的な民謡「スカボロー・フェア」には含まれていない、ポール・サイモンが独自に書いた歌詞です。彼は、美しい愛の歌に、当時のアメリカ社会が直面していたベトナム戦争の悲劇を対比させることを意図しました。

映画『卒業』で使われる意義

「スカボロー・フェア」は、もともと中世から伝わるイギリスの伝統的な民謡です。しかし、サイモン&ガーファンクルのバージョンには、ポール・サイモンが加えた「詠唱(Canticle)」の部分が重要なメッセージを加えており、これが『卒業』という映画の文脈で非常に強い意味を持っています。

伝統民謡「スカボロー・フェア」のメッセージ

まず、オリジナル曲は、恋人への不可能な課題(例:「山の斜面を麻のシャツで作れ」など)を次々と突きつける、一種のなぞなぞ歌です。

これらの課題をクリアできたら恋人の元に戻る、という内容です。

これは、愛の試練や、叶わぬ恋の切なさを歌っていると解釈されます。

ポール・サイモンが加えた「詠唱(Canticle)」のメッセージ

映画『卒業』で使われているバージョンは、この伝統的なメロディーに、もう一つのメロディー(「詠唱」)を重ねています。

この「詠唱」の部分の歌詞は、ポール・サイモンが書いたもので、ベトナム戦争の兵士たちの死について歌っています。

  • “On the side of a hill in the forest green” (緑の森の丘の斜面で)
  • “A soldier’s eye is a-gleam” (兵士の目が光っている)
  • “Remember me to one who lives there” (そこに住む人に、私のことを伝えてくれ)
  • “For he was once a true love of mine” (彼はかつて、私の本当の愛だったから)

このように、美しい伝統民謡のメロディーと、戦争の悲劇と死を歌った現代的な歌詞が重なり合って流れることで、非常に強い対比とメッセージ性が生まれます。

映画『卒業』における意味

この二つの歌詞が重なることで、映画のシーンに以下のような強いメッセージを与えています。

  1. 対比と皮肉: 伝統民謡のロマンチックな愛の試練と、戦争という現実の悲劇が対比されます。これは、映画のテーマである、ロマンチックな理想(ベンジャミンとエレーンの愛)と、それを取り巻く社会の厳しい現実(親世代の偽善や社会の圧力)との対比を象徴しています。
  2. 純粋なものの喪失: 無垢な愛や純粋な若さが、社会の大きな力(戦争、大人たちの価値観)によって傷つけられ、奪われていく悲劇性を表現しています。
  3. 無力な若者: ベンジャミンが自分の愛する人を守ろうと奮闘する姿は、戦争に翻弄される若者たちの無力さとも重なります。

したがって、『卒業』で「スカボロー・フェア」が流れるとき、それは単にロマンチックな雰囲気を出すためだけではなく、美しいものと醜いもの、理想と現実の間に引き裂かれる若者の葛藤を、音楽の力で表現しているのです。

今日の映学

最後までお読みいただきありがとうございます。

『Scarborough Fair/Canticle』に込められた歌詞の意味と、この曲が映画『卒業』に対してどのような深みを与えているかを解説させていただきました。

bitotabi
bitotabi

まさか、民謡のカバーだったとは…。しかもベトナム戦争の悲劇を加えて曲にしているなんて。カッコよすぎます。

当ブログは、毎日更新しています。
ブックマークして、またご覧いただけると嬉しいです。励みになります。
SNSにフォローしていただければ、更新がすぐわかりますので、ぜひフォロー・拡散よろしくお願いします。

X(旧Twitter)はこちら
https://twitter.com/bit0tabi
Instagramはこちら
https://www.instagram.com/bit0tabi/
Facebookはこちら
https://www.facebook.com/bit0tabi/
noteはこちら
https://note.com/bit0tabi



コメント

タイトルとURLをコピーしました