『チャップリンの悔悟』を鑑賞しました。

30分程度で観られる短編なんですが、なかなか深みのある作品なんですよ。

詳しく解説していくね。
1. 概要:時代とチャップリン、そしてほろ苦い結末
『チャップリンの悔悟』(原題:Police)は、1916年に公開されたチャーリー・チャップリン監督・主演の短編サイレント映画です。ミューチュアル・フィルム社との契約下で制作された一連の作品の一つであり、チャップリンが自身のスタイルを確立し、社会的なテーマや人間ドラマを織り交ぜ始めた重要な時期の作品と言えます。
物語は、刑務所から釈放されたばかりのチャーリー(チャップリン)が、再び犯罪に手を染めようとするところから始まります。彼は街をぶらつき、偶然出会った男と共にある家に泥棒に入ろうと企みます。しかし、その家には可愛らしい少女とその母親が住んでおり、チャーリーは彼女たちの純粋さに触れるうちに、次第に心を揺さぶられます。
泥棒仲間が強盗を強行しようとする中、チャーリーは少女や母親を守ろうと奮闘します。家の中で繰り広げられるドタバタ劇は、チャップリンならではのコミカルな動きと、影を使った印象的な演出によって彩られます。チャーリーは、かつての悪党仲間を追い払い、少女と母親を救いますが、彼の過去はすぐに彼を捉えます。
警察が駆けつけ、チャーリーは逮捕されてしまうのです。少女と母親はチャーリーに感謝し、別れを惜しみますが、彼は再び牢獄へと連行されていきます。映画は、護送されるチャーリーの姿を映し出し、彼の心境が完全に変化したのかどうかは曖昧なまま、ほろ苦い結末を迎えます。
2. 邦題なぜ?「悔悟」と「Police」
この映画の原題は「Police」であり、邦題の「チャップリンの悔悟」とは大きく異なります。なぜこのような邦題になったのか、明確な理由は残念ながら見つかっていません。
考えられる理由としては、映画のプロットが、刑務所から出所したばかりの主人公が再び犯罪に手を染めようとするものの、最終的には改心するような解釈もできるため、「悔悟」という言葉が当てられたのかもしれません。しかし、映画の結末は必ずしも明確な悔悟を示唆しているわけではないため、この邦題はやや意図を限定的にしているとも言えるでしょう。
原題の「Police」は、文字通り警察が登場する場面が多く、物語の展開において重要な役割を果たしていることに由来すると考えられます。主人公の犯罪行為と警察の追跡劇は、映画の大きな軸となっています。
3. 影の演出:魅せるサイレント
この映画の特徴の一つとして、印象的な影の演出が挙げられます。特に、主人公が泥棒として家に侵入する場面などでは、壁に映る大きな影が主人公の不気味さや緊迫感を際立たせています。
サイレント映画の時代、視覚的な表現は非常に重要であり、チャップリンは光と影を巧みに利用することで、セリフに頼らずとも観客に感情や状況を伝えていました。影の動きや形を効果的に使うことで、サスペンスやユーモア、そして登場人物の心理状態までも表現していたのです。
4. 悪役チャップリン:腕っぷしも強い!
この映画におけるチャップリンのキャラクターは、これまでのような愛すべき放浪者(The Tramp)とは異なり、刑務所帰りの前科者という、ややダークな側面を持っています。彼は泥棒として登場し、目的のためには手段を選ばない粗暴さも見せます。
また、この映画ではチャップリンが意外なほどケンカが強い一面を見せるシーンがあります。他の登場人物を相手に、持ち前の身軽さとユーモラスな動きを活かした立ち回りは、観客を驚かせると同時に笑いを誘います。いつものペーソスの中に、このようなギャップのある一面を見せるのも、この映画の魅力と言えるでしょう。

どちらかというと、不遇な警察官の方が、いつものチャップリン映画でチャップリンが演じる主人公っぽい立ち位置だったので、そのあたりもタイトルに由来しているのかもしれませんね。
5. プロットの源流?:悪と善の交錯
影響を受けた? 犯罪者との絆を描く映画たち
『チャップリンの悔悟』のように、犯罪者と善良な人物との間に予期せぬ絆が生まれるプロットは、後の映画にも繰り返し登場する魅力的なテーマです。
- 『レオン』(1994年): 孤独な殺し屋レオンと、家族を失った少女マチルダの間に生まれる、擬似的な父娘のような愛情を描いたリュック・ベッソン監督の作品。犯罪者でありながら人間味あふれるレオンと、健気なマチルダの交流は観る者の心を強く打ちます。
- 『最強のふたり』(2011年): 事故で体が不自由になった富豪フィリップと、介護者として雇われた粗野な黒人青年ドリスの、身分も性格も異なる二人が友情を育んでいくフランス映画。犯罪歴のあるドリスの型破りな言動が、フィリップの閉ざされた心を解き放ち、深い絆で結ばれていきます。
- 『ショーシャンクの空に』(1994年): 無実の罪で投獄された銀行員アンディと、刑務所内で顔役を務める囚人レッドの、長年にわたる友情を描いたフランク・ダラボン監督の不朽の名作。過酷な状況下で、互いを支え合い、希望を失わずに生きる二人の姿は感動的です。
これらの映画は、『チャップリンの悔悟』のように必ずしも犯罪者が改心するわけではありませんが、社会の規範から外れた人物と、そうでない人物との間に生まれる人間的な繋がりを描き出し、観る者に様々な感情を抱かせます。チャップリンの作品が持つ、人間に対する温かい眼差しや、予期せぬ人間関係の面白さは、これらの作品にも通じるものがあると言えるでしょう。
6. 豆知識:知っておきたい裏話
- この映画は、チャップリンがミューチュアル社で制作した12本の短編映画のうちの10番目にあたります。
- 共演には、エドナ・パーヴァイアンスやウェズリー・ラッグルスといった、チャップリン作品ではお馴染みの俳優たちが名を連ねています。
- 映画の撮影は、ロサンゼルスにあったミューチュアル社のスタジオで行われました。当時の映画製作の様子を垣間見ることができる貴重な記録でもあります。
- この映画のフィルムは、長らく散逸していた時期がありましたが、後に発見され、修復されました。
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます。
映画映画『チャップリンの悔悟』について解説しました。

短い作品ですが、後世の映画にも大きな影響を与えたであろうプロットは素晴らしいです。

チャップリンの演じるキャラクターが他とは少し違う点も注目だよね!
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