『マグノリア』の物語は、登場人物たちの人生が極限に達したその瞬間、空から数えきれないほどのカエルが降ってくるという、映画史に残る超現実的なクライマックスを迎えます。
この「カエルの雨」は、難解と言われる本作を理解する上で、最も重要な鍵となります。

今回の記事では、このシーンに込められた3つの意味と、その驚くべき撮影の裏側を解説していきましょう。

なんでカエルだったんだろう。
1. 意味合いの考察:なぜカエルが降ってきたのか?
監督であるポール・トーマス・アンダーソンは、この超常現象に複数の意味を重ねています。
🔹 聖書的な意味:「出エジプト記」の戒めと救済
映画のクライマックスに向かうにつれて、画面上に「82」という数字や「EXODUS(出エジプト記)」**という単語が繰り返し登場します。これは、旧約聖書の記述を暗示しています。

- 出エジプト記 第8章2節: 「もしあなたが彼らを去らせないなら、見よ、わたしはあなたの全領土をカエルで打つ」という、モーセがファラオに告げる神の警告が記されています。
- 「罪」と「許し」: 映画の登場人物たちは、親子の断絶や後悔など、誰もが何らかの「罪(過ち)」を抱えています。カエルの雨は、彼らの罪に対する「神の裁き」のようであると同時に、衝撃的な現象によって彼らの心をリセットし、「許し」や「新たな一歩」へと導く最後の救済であると解釈されています。
🔹 偶然の法則:「フォートの研究」がもたらす世界の不条理
タイトル考察でも触れた通り、監督はこの現象を、超常現象研究家であるチャールズ・フォートの著作からも着想を得ています。
- フォートの提唱: フォートは、カエルや魚などが空から降ってくる現象「ファフロツキーズ(Fafrotskies)」を収集・研究しました。

- メッセージ: カエルの雨は、「人生において、論理や因果関係では説明できない、どうしようもないことが起こる」というメッセージを象徴しています。登場人物たちは、この不条理な事態に直面することで、それまで囚われていた個人的な苦悩から一時的に解放され、現実を別の角度から受け入れるきっかけを与えられます。
2. 撮影の裏側:カエルは本物?どうやって降らせた?
3時間を超える大作の終盤で、数えきれないカエルを空から降らせるという前代未聞のシーンは、どのように撮影されたのでしょうか。

- 本物のカエルは使われていない: 結論から言うと、このシーンで生きたカエルは一切使われていません。
- アニマトロニクス(機械人形)と模型: 撮影では、リアルに作られたカエルの模型や、わずかに動くアニマトロニクス(ロボット)が使用されました。
- 降らせる仕組み: 大量のカエルを降らせるには、巨大なクレーンや装置が必要です。
- 静止画・アップのシーン: カメラの近くでカエルが落ちてくるカットや、地面に落ちているカエルのアップは、セットに模型を配置し、水を大量に撒いて雨を降らせることで撮影されました。
- 広範囲のシーン: 空から大量のカエルが降る遠景や、道路を埋め尽くすカットは、模型を仕込んだ装置を高い位置に設置し、ワイヤーやレールを使って大量に滑り落とすか、上から撒き散らすことで撮影されました。
この緻密なSFX(特殊効果)とCGI(コンピューターグラフィックス)を組み合わせた撮影技術によって、この超現実的なシーンが実現し、観客に強烈なインパクトを与えることになったのです。

今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます。
『マグノリア』の「カエルの雨」は、登場人物たちが抱える人生の矛盾や苦悩を強制的にリセットする、一種の「奇跡」。
神の裁き、超常現象、偶然の力――様々な意味が込められたこの現象を受け入れることで、彼らはようやく、過去の過ちを許し、不完全な自分を受け入れる新たな一歩を踏み出せる…。

そういう演出になってるんですね。

ファフロツキーズと繋がるなんて、面白いよね~。
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