映画やアニメーションの世界には、時に私たちの常識や衛生観念を揺さぶる、奇妙でグロテスクな食べ物が登場します。
しかし、それらが極限の状況や非日常の世界観の中で描かれると、なぜか強烈な食欲や好奇心を刺激されることがあるのです。

今回は、そんな「気持ち悪い」という感情の壁を突き破り、「なんか美味しそう」と感じさせてしまう、強烈なインパクトを持つ映画グルメを5つご紹介いたします。

どんなのが出てくるのかな…、ドキドキ。
1. 混沌の未来都市で貪る異形の一杯
『ブレードランナー』(1982年):「2つで充分な何か」
酸性雨が降り注ぎ、ネオンが乱反射する未来のロサンゼルス。主人公のデッカードは、雨が降る中、屋台でうどんと一緒に一風変わった丼を注文します。
それが、伝説のセリフ「2つで充分ですよ」を生んだ、謎の食べ物です。

この丼の「気持ち悪さ」は、まずその上に乗っている具材にあります。寿司職人のような店主が提供するにも関わらず、それはエビ天でも寿司ネタでもなく、背びれのようなものがついたグロテスクな姿の魚(または深海生物)が2尾乗っています。荒廃した未来で捕れた異形の魚という設定は、いかにも不気味です。
しかし、デッカードはこれを「4つ(4尾)」頼もうとします。店主が必死に「2つで充分」と制止するのは、その魚が非常に高価で貴重な未来の珍味であること、または強烈な腹持ちの良さを持つことを示唆しています。混沌とした都市のエネルギーと、これを貪るデッカードの姿は、「まずそうに見えるが、この世界では最高に滋養のあるごちそう」という魅力を感じさせます。その得体の知れない魚を、熱々のうどんと一緒に食べたくなる、異様な未来食欲を刺激する一品です。
2. 究極の生命線か、未来の珍味か
『ソイレント・グリーン』(1973年):「ソイレント・グリーン」
ディストピアSFの金字塔である本作の舞台は、人口過密と食糧難で崩壊寸前の2022年のニューヨークです。市民が生きるために配給を待つのが、緑色の固形食品「ソイレント・グリーン」。

この食べ物の「気持ち悪さ」は、まずその不健康な緑色の見た目と、製造過程の無機質さにあります。クラッカーのようにも見えますが、その正体は最後まで秘密に包まれており、得体の知れない不安感を伴います。しかし、当時の人々にとって、肉や野菜が完全に失われた世界で、これは命を繋ぐ唯一の「究極の栄養食」です。
配給日には、人々がこれを求めて長蛇の列を作り、それを手に入れたときの切実な安堵と喜びは、観客に「まずそうでも、生きるためにはこれほど価値のあるごちそうはない」という強烈な感覚を植え付けます。
そして、この食品の正体が終盤で明かされたときの衝撃は、その「生命の糧」としての価値を根底から揺るがし、観客の食欲を最も背徳的な形で刺激します。
極限状態における、食の価値の倒錯を描いた、ディストピアグルメの最高峰と言えるでしょう。
3. 背徳がスパイス!極上の●肉パイ
『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』(2007年):「ミートパイ」
ティム・バートン監督が描く、ダークでゴシックなミュージカル・ホラーです。
フリート街で理髪店を開いたスウィーニー・トッドと、彼の地下の大家であるラヴェット夫人が手を組み、トッドが殺した人々の肉を使ってパイを焼くという、衝撃的な設定です。

このミートパイの「気持ち悪さ」は、言わずもがな原材料が人肉であるという点に尽きます。しかし、映画ではこのパイが「これまで食べた中で一番美味しい」と大評判になり、店は連日大繁盛となります。
パイは、焼き色のついたパイ生地から肉汁が滴り、見ているだけで唾液が出そうなほど、非常に美味しそうに描かれています。この「最高に美味しそうな見た目」と「最も忌避すべき原材料」との強烈なコントラストこそが、本作の魅力です。背徳的な秘密を知っている観客は、そのパイが飛ぶように売れる光景を見て、「こんなに美味しいなら、もし知らなければ食べてしまうかもしれない」という、恐ろしい共感を覚えてしまうのです。ホラーとグルメの融合が生んだ、究極の「キモうま」と言えるでしょう。
4. 勇気の証か、ただの珍味か
『ライオン・キング』(1994年):「虫(Grubs)」
ディズニークラシックの名作ですが、主人公のシンバがティモンとプンバァに出会い、彼らのモットー「ハクナ・マタタ」の生活に染まる際、伝統的な肉食から一転して食生活を改めます。彼らが食するものが、緑色や黄色に輝く昆虫や幼虫です。

「気持ち悪さ」の要素は、やはり虫食文化に馴染みのない観客から見たときの、ヌルヌルとした見た目(Slimy)にあります。特に緑色の幼虫は、非常にリアルに描かれています。しかし、ティモンとプンバァは、これを「ぬるっとしてるけど、食べごたえがある(Slimy, yet satisfying)」と表現し、まるで極上の珍味のように楽しそうに食します。
シンバが恐る恐る口にして「う、美味い!」と目覚めるシーンは、この食べ物が彼にとって「過去を捨て、新しい生活を始める勇気の証」であり、「自然の恵みをありのままに享受する」という哲学の象徴として描かれます。
陽気な音楽と、虫たちのサクサクさやジューシーさを表す効果音が相まって、観客も思わず「ちょっと食べてみたいかも」と感じてしまう、陽性の「キモうま」グルメです。
5. スリルと好奇心を味わう、魔法の罰ゲーム
『ハリー・ポッター』シリーズ:「バーティ・ボッツの百味ビーンズ」
ホグワーツへ向かう列車の中で登場するこのお菓子は、魔法界で最も有名なキャンディの一つです。

「気持ち悪さ」は、そのフレーバーにあります。「普通の味」に混ざって、「鼻くそ味」「ゲロ味」「耳あか味」といった、通常は食べ物としてあり得ない味がランダムに含まれている点です。色とりどりのビーンズは可愛らしい見た目をしていますが、一口食べるたびに「気持ち悪い味」が当たるかもしれないという、強烈なスリルが伴います。
しかし、このビーンズが「美味しそう」に見えるのは、魔法界の日常のごちそうとして登場し、子どもたちがその罰ゲームのようなスリルを心から楽しんでいるからです。特に、ロンが不味い味に当たっても笑い話にしている姿は、これが一種のエンターテインメントとして機能していることを示しています。不味さのリスクを承知で味わう好奇心こそが、このお菓子を魅惑的な魔法界のグルメにしているのです。
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます。
映画の世界で描かれる「キモうまグルメ」は、単なる食べ物ではなく、その世界観やキャラクターの置かれた状況を象徴しています。
これらの食べ物に食欲を刺激されるのは、私たちの好奇心や、極限状態への想像力が刺激されるからかもしれません。

これらの魅惑的なグルメを通じて、それぞれの映画の深淵を改めて覗いてみるのも面白いのではないでしょうか。

あなたの食べてみたいキモうまグルメは何?
コメント