世界のクロサワが最後に求めた自由。映画『夢』が持つ特権

映画

黒澤明監督のキャリアにおいて、1990年に公開された『』ほど、観る者を戸惑わせ、同時に圧倒させる作品はありません。

公開当時、多くのファンは『七人の侍』のような手に汗握る娯楽作を期待して劇場へ足を運びましたが、そこで目にしたのは、一貫したストーリーを持たない、幻想的でどこか不気味な8つの「夢」の断片でした。

なぜ、世界の巨匠はこれほどまでに個人的で、奇妙な映画を撮ったのでしょうか。

bitotabi
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その背景には、日本映画界での孤立と、それを救った海外の巨匠たちとの、ドラマチックな師弟愛がありました。

ダニー
ダニー

孤立?師弟愛?

日本での孤立:「世界のクロサワ」が直面した厳しい現実

驚くべきことに、本作の製作にあたって、日本国内の映画会社から資金を得ることは非常に困難でした。当時の黒澤監督は、皮肉にも母国で「リスクの高い監督」と見なされていたのです。

  • ビジネスモデルの乖離: 黒澤監督のリアリティへの執着は、撮影の長期化と製作費の膨張を招きます。「黒澤を起用すれば会社が潰れる」という不信感が業界に根強く、低予算で量産を求める当時の日本映画界の潮流とは正反対の存在でした。
  • 「天皇」への敬遠: 現場で一切の妥協を許さない姿勢は「天皇」と称され、アイドル映画やタイアップ路線にシフトしていた当時の映画産業において、その芸術性は扱いづらいものとして敬遠されていました。

かつては絶望から自殺未遂を図るほど追い詰められた時期もあった黒澤監督。日本国内での孤立は、それほどまでに深刻だったのです。

スピルバーグ、ルーカス、スコセッシが集結した理由

この個人的すぎるプロジェクトに救いの手を差し伸べたのは、彼を師と仰ぐ海外の教え子たちでした。

  • スティーヴン・スピルバーグ: 国内で資金調達が難航する中、ワーナー・ブラザースを動かし、製作総指揮としてバックアップ。
  • ジョージ・ルーカス: 自身のスタジオであるILMを提供。最新の視覚効果を駆使し、黒澤監督の脳内イメージを具現化。
  • マーティン・スコセッシ: 俳優としてゴッホ役で出演。黒澤の夢の一部になることを熱望。

彼らにとって、黒澤明は守るべき「映画の魂」そのものでした。彼らの支援は、日本が失いかけていた映画芸術への敬意を形にするためのアクションだったと言えるでしょう。

巨匠たちが辿り着く「私小説」としての映画

この『夢』が辿った数奇な運命は、フェデリコ・フェリーニの『8 1/2』や、近年では宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』を巡る状況と非常によく似ています。

これらの作品には、ある共通の構造があります。

  1. 「私小説」的な内面世界: 娯楽性や物語の整合性よりも、監督自身の記憶や無意識、内面的なビジョンを優先して描く「私小説」のような性質。
  2. 評価の乖離: 公開直後の国内では「難解だ」「よく分からない」と困惑される一方で、海外では「老境の巨匠が到達した、純粋な視覚詩」として圧倒的な高評価を受ける。

日本の観客は、かつての黄金期のようなエンターテインメントを期待します。しかし世界の批評家たちは、彼らをすでに「生きる伝説」として尊重しており、物語を超えた「純粋な視覚的体験」そのものを比類なき芸術として称えるのです。



今日の映学:これは娯楽映画ではなく、黒澤明が残した「視覚的な遺言」

『夢』は、単に奇妙な映画ではありません。一人の人間が、その生涯の終わりに世界中の友情に支えられて手に入れた自由と、次世代への使命感の結晶なのです。

日本国内の枠組みでは収まりきらなくなった巨匠が、世界という舞台を使って表現したかったこと。それは、理屈を超えた夢という形でしか伝えられなかった、切実な真実なのかもしれません。

私たちが今、この映画を観ることは、黒澤明という一人の人間の深淵な脳内を散歩させてもらうような、この上なく贅沢な体験なのです。

bitotabi
bitotabi

黒澤映画のイメージとはかなり違いますが、映画好きとして観ておきたい作品です。

ダニー
ダニー

ホラー映画にも近いような奇妙さや直接的なメッセージが面白いよ。

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