理科や歴史の教科書でおなじみの天才発明家トーマス・エジソン。実は彼が、映画界の歴史に残る「大泥棒」だったかもしれないという話をご存知でしょうか。そのターゲットとなったのが、映画の教科書があるならば必ず掲載されるであろう『月世界旅行』。

日本にまだリアルなチョンマゲ頭の人がいた時代に起きた、現代のハリウッドも真っ青の映画泥沼ビジネス劇を紐解きます。

一体何があったんだ?
作品概要
- 公開年:1902年
- 監督:ジョルジュ・メリエス
- 脚本:ジョルジュ・メリエス(ジュール・ヴェルヌの小説『月世界へ行く』、H・G・ウェルズの小説『月世界最初の人間』などから着想)
- キャスト:ジョルジュ・メリエス、ジューヌ・ダルシー、ブルーエット・ベルノン
- あらすじ: 天文学学会の会長が提案した前代未聞の月世界旅行計画。巨大な大砲の砲弾型ロケットに乗り込んだ天文学者たちは、ついに月へと打ち上げられます。ロケットは月の目に突き刺さるように着陸しますが、そこに待っていたのは奇妙な姿をした月の先住民族セレーナイトたちでした。彼らに捕らえられた学者たちは、果たして無事に地球へ帰還できるのか。
解説
タイムスリップの衝撃!日本は「ギリギリチョンマゲ」の明治35年
フランスでこの『月世界旅行』が公開された1902年、日本は明治35年でした。 実はこの時代、日本では断髪令が出た後もお年寄りなどを中心に、まだリアルにチョンマゲ(頑固頭)のスタイルを残した人が街を歩いていた時代です。 日本で江戸の名残がギリギリ残っていたまさにその瞬間、フランスでは「ロケットで月に行き、宇宙人と戦う映画」が作られ、有料で公開されていました。この歴史のギャップだけで、当時の世界がいかに激動の時代だったかがよく分かります。

パトロンなしの超大富豪!すべてポケットマネーの1万フラン大博打
そんな時代に作られた本作ですが、規模感がまた桁外れでした。 投じられた制作費は1万フランと言われており、これは当時の普通の短編映画が数十本から100本ほど作れるレベルの、今でいう100億円超えの国家予算級の超大作です。 なぜそんな大金を用意できたのかというと、実は監督のメリエスはフランス屈指の高級靴メーカーの御曹司であり、莫大な遺産を手にしていました。さらに、自身もパリの超人気手品劇場のオーナーとして大儲けしていた本物の大富豪だったのです。パトロンの顔色を伺う必要がなかった彼は、自費でガラス張りの巨大撮影スタジオを建設し、動く大道具やフィルムへの手彩色など、すべて自分のポケットマネーでこの大博打に打って出ました。
世界的大ヒットの悲劇!天才発明家エジソンにすべてを奪われた男
富と情熱を惜しみなく投じた映画ですから、当然のように世界中で歴史的な大ヒットを記録し、連日満員となりました。しかし、作ったメリエス本人の手元には驚くほどお金が残りませんでした。 その原因こそが、あのトーマス・エジソンです。 当時は映画の著作権が非常に曖昧な時代でした。アメリカの興行たちがこの映画を上映したがったため、エジソンの会社は輸入されたフィルムを丸ごと複製し、勝手に大量の海賊版を作ってアメリカ全土に売りさばいてしまったのです。 エジソン側が現在の価値で億単位の巨額の利益を得た一方で、生みの親であるメリエスには1フランも入らず、この莫大な機会損失が引き金となって彼はのちに破産へと追い込まれることになります。

今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます。
映画の可能性にすべてを賭けた大富豪の情熱と、天才発明家による非情なビジネスの現実。
月の顔にロケットが突き刺さるあの有名なビジュアルの裏には、そんな大人の泥沼劇が隠されていました。

現在ではYouTubeなどで手軽に全編を無料視聴できるから、ぜひこの記事の後に答え合わせをしてみてね~。

当時の観客が熱狂し、エジソンがどうしても盗みたかった理由がよく分かるはずです。
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