『テレビの中に入りたい』画面の向こう側に「本当の自分」を探したクィア・メタファーの傑作

映画

2024年のサンダンス映画祭でのプレミア上映を皮切りに、世界中の映画祭や批評家から熱狂的な支持を集めている一作があります。A24が製作し、ジェーン・シェーンブルン監督が放った『テレビの中に入りたい』です。

本作は、LGBTQ+の映画批評家団体が選ぶドリアン賞で最多9部門にノミネートされるなど、クィア・シネマの新たな金字塔として確固たる地位を築いています。

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ノスタルジックなホラー・スリラーの枠を超え、魂の奥底にある違和感を炙り出す本作の魅力に迫ります。

ダニー
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まずは作品概要から!

作品概要

  • 監督・脚本: ジェーン・シェーンブルン
  • 出演: ジャスティス・スミス(オーウェン役)、ジャック・ヘヴン(マディ役)
  • 製作: A24
  • あらすじ: 郊外に住む内気な少年オーウェンは、クラスメイトのマディから、深夜に放送されている超自然現象ドラマ『ザ・ピンク・オーキッド』を教えられます。二人はビデオテープを貸し借りしながら、不気味で美しいその世界に没入していきますが、やがて番組の打ち切りとともにマディが失踪。数年後、再びオーウェンの前に現れた彼女は、驚くべき言葉を口にします。「私たちがいた世界は偽物で、本当の私たちはテレビの中にいる」と。

本作は、監督自身がトランスジェンダーとしての「卵が割れる(自己の性自認に気づく)」瞬間のメタファーであると明言しており、クィア・コミュニティからも絶大な支持を得ています。ドリアン賞での多数ノミネートに加え、フロリダ映画批評家協会賞でのオリジナル脚本賞受賞など、その芸術性は折り紙付きです。

当事者性がもたらす、切実な演技の重み

主演のジャスティス・スミスと、マディ役のジャック・ヘヴンは、ともにクィアであることを公表している俳優です。特に、2025年に改名を発表したジャック・ヘヴンの存在感は鮮烈でした。

彼らが演じるキャラクターが抱く「この世界に居場所がない」という感覚や、虚構の世界に本当の自分を見出そうとする姿には、演技という枠を超えた真実味が宿っています。キャストの背景が物語のテーマと深く共鳴し、観る者の心に痛切に響きます。

カルトドラマへの愛と、リンチ的な違和感

劇中のドラマ『ザ・ピンク・オーキッド』のモデルは、1997年から2003年にかけて放送された実在のカルトドラマ『バフィー 〜恋する十字架〜』です。あの時代の特撮やチープなエフェクトが醸し出す独特の質感が、物語に不穏なノスタルジーを添えています。

また、随所に散りばめられたデイヴィッド・リンチ作品を彷彿とさせるシュールなシーンは、現実が徐々に侵食されていく感覚を視覚的に表現していました。何気ない郊外の風景が、ふとした瞬間に耐えがたいほどの違和感を放ち始める演出は、アイデンティティを抑圧して生きることの息苦しさを象徴しているかのようです。

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リンチ作品だけでなく、古き良き映画作品へのオマージュも随所に感じられます。

原題「I Saw the TV Glow」が示唆する、変容への予兆

原題の「I Saw the TV Glow」についても考察してみましょう。直訳すれば「テレビの輝きを見た」となりますが、この「Glow(輝き)」という言葉には、発光という直訳以上の意味が込められています。

クィア・シネマの文脈において、暗闇の中で放たれる光は、往々にして「隠された真実」や「変容の予兆」として描かれます。主人公たちがブラウン管から放たれる不気味で美しい光に魅了されるのは、それが彼らにとっての唯一の救いであり、本来あるべき姿を映し出す鏡だったからではないでしょうか。

邦題の『テレビの中に入りたい』が生存戦略としての「逃避」を強調しているのに対し、原題の「Glow」は、その先にある不可逆的な変化や、一度見てしまったらもう元には戻れない決定的な瞬間を想起させます。



記憶の変容と、ぼやけた真相の先にあるもの

大人になってから再視聴したテレビ番組の内容が、記憶の中のものと大きく異なっている。誰もが経験したことのあるようなこの現象を、本作はアイデンティティの喪失と結びつけて描いています。

DVDのチャプターを飛ばすように時間が経過し、気づけば取り返しのつかない年月が過ぎ去っているという演出。マディが口にした「時の流れが早すぎる」という言葉は、本来の自分として生きられないまま時間を浪費することへの恐怖を象徴しています。

最後まで真相はぼんやりとしており、明快な答えは提示されません。しかし、その不透明さこそが、本当の姿を隠して生きる不快感や、自己を見失ったまま彷徨う現代人の姿をリアルに映し出しています。画面の向こう側の輝きに救いを求めた彼らの姿は、自分らしく生きることを選べなかったすべての人への、悲痛で美しいメッセージのように感じられました。

今日の映学

最後までお読みいただきありがとうございます。

私たちは、いつからテレビの中の物語を「ただの作り話」として切り離してしまったのでしょうか。

本作が描き出す、画面の輝きに魂を吸い寄せられるような感覚。それは単なる逃避ではなく、偽りの現実から逃れ、本当の自分を奪還しようとする魂の叫びだったのかもしれません。もし、あなたがかつて愛した物語が、今のあなたに何かを語りかけているとしたら、その違和感を決して無視しないでください。

bitotabi
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『テレビの中に入りたい』。そのあまりに切実な願いの先に、どのような結末が待っているのか。ぜひ、その輝きを確かめてみてください。

ダニー
ダニー

今だとAmazon Prime Videoで観られるよ~。


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