戦争が終わり、瓦礫の山に残されたのは、物理的な傷跡だけではありませんでした。人々の心には深い影が落ち、肉体にも知られざる痛みが刻まれていたのです。
塚本晋也監督の最新作『ほかげ』は、そんな戦後の日本を舞台に、決して癒えることのない戦争の後遺症と、それでも生き抜こうとする人間の力強さを描きます。これは、反戦三部作の完結編であり、私たちに「真の平和とは何か」を問いかける魂の物語です。

疑問に感じた点や、分かりにくい描写について詳しく解説していきます。

まずは作品概要から!
作品概要
塚本晋也監督の最新作「ほかげ」は、戦後の日本、焦土と化した闇市を舞台に、戦争によって心と体に深い傷を負った人々の生と死、そしてかすかな希望を描き出します。塚本監督が「野火」「斬、」に続く反戦三部作の完結編と位置づける本作は、第80回ヴェネツィア国際映画祭のオリゾンティ部門でNETPAC賞を受賞するなど、国内外で高く評価されています。
あらすじ
終戦直後、廃墟と化した街の一角。そこは、人々が生きるために集まる闇市でした。戦禍を奇跡的に生き延びた一人の女性(趣里)は、過酷な日々の中で身を削りながらも、したたかに生き抜こうとします。孤独な彼女の前に現れるのは、怪しげなテキヤの男(森山未來)と、彼に付き従う幼い少年。それぞれが戦争の傷跡を抱えながら、闇市という混沌の中で、人と人との関係を模索していきます。彼らの間に生まれる奇妙な共同生活は、やがて戦争の影に覆われた日常に、かすかな「ほかげ(火影)」を灯すことができるのでしょうか。
戦争の影響は終わってからもなお
戦争は、停戦や講和条約が結ばれても、そこで本当に終わるわけではありません。本作「ほかげ」は、この事実を静かに、しかし痛烈に観客に突きつけます。参加した兵士、巻き込まれた市民、誰もが心と体に深い傷を負い、その影響は彼らのその後の人生に、時に何世代にもわたって影を落とします。

本作が描くのは、公的な「終わり」を迎えた後の、個人の心の中に残る戦争です。戦争が終わったはずなのに、彼らの精神的なトラウマ、身体的な苦痛、そして荒廃した社会での生活は続いていきます。真の平和とは、果たしていつ訪れるのでしょうか。
それは、当事者や巻き込まれた人々が、ようやく心の平安を取り戻し、未来への希望を見出せた時なのかもしれません。
女がかかった病気はおそらく…
映画の中で、趣里さん演じる女が特定の病気にかかったという明確な描写や診断はありません。しかし、戦後の混乱期において、生きるために性産業に従事せざるを得なかった多くの女性たちが性病のリスクに晒されていたという当時の社会状況を考えれば、その可能性が示唆されていると解釈できます。

監督は直接的な病名を告げず、観客に想像させることで、彼女が置かれた過酷な状況や、心身の消耗をより強く印象づけようとしたのかもしれません。彼女の身体は、当時の社会の歪みや、戦争の傷跡を映し出す鏡のような存在として描かれていると捉えることもできるでしょう。
男性が監禁される理由は…
この点についても、映画の中で明確な説明はありません。しかし、当時の社会状況や映画の文脈から、いくつかの解釈が可能です。最も自然なのは、彼が戦争による精神的な後遺症、特に深刻な心的外傷を負っていたという解釈です。彼の錯乱したような言動は、戦場で極限状態を経験し、その記憶や苦しみに囚われていることを強く示唆しています。
また、戦後の混乱期には、闇社会の暗部として、犯罪の被害者として監禁されるケースや、精神的な問題を抱える人々への適切なケアが不足していたため、社会から隔離されるような形で閉じ込められることもありました。監督は、詳細を語らずとも、この場面を挿入することで、戦争がもたらした社会全体の病理や、個人の苦しみを浮き彫りにしたかったのでしょう。
タイトル「ほかげ」について
本作のタイトル「ほかげ」には、複数の意味が込められています。文字通り「火の影」、すなわち戦火の「裏側」や「向こう側」で、なおも戦争の影響が続き、人々の心に残る深い影を表しています。戦争が終わった後も、その爪痕が私たちの生活の中に深く刻み込まれていることを示唆しているのです。
同時に、「火の影」は、暗闇の中でわずかに揺らめく「火の光」をも意味します。これは、絶望的な状況の中にも、人間が生き抜こうとする小さな希望や生命力を象徴していると解釈できます。監督は、この多義的なタイトルによって、戦争の恐ろしさが戦闘行為だけで終わるものではなく、その後の人々の生活や心に深く、そして長く影響を及ぼすというメッセージを込めたのでしょう。そして、その中で人間がいかにして生き、わずかな光を見出そうとするのかを描きたかったのだと推察されます。

今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます。
「ほかげ」は、戦争の悲惨さを単なる戦闘行為としてだけでなく、その後の人生に深く刻まれる見えない傷跡として描き出します。登場人物たちが抱える苦しみや、そこに見え隠れするかすかな「ほかげ」は、観客に真の平和とは何か、そして人間がどのような状況でも生き抜こうとする強さについて、深く考えさせます。

塚本晋也監督が放つ、この静かで、しかし魂を揺さぶる傑作は、今の時代だからこそ、多くの人々に観てほしい一本です。

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