「男はつらいよ」シリーズの数ある名作の中でも、森崎東監督がメガホンを取った第3作「男はつらいよ フーテンの寅」は、独特の輝きを放っています。
山田洋次監督からバトンを受け継いだ森崎監督は、寅さんの持つ自由奔放さと、それに伴う人生の切なさを、軽快なタッチで、かつ深く掘り下げて描きました。

この作品は、単なるコメディに留まらず、フーテンとして生きることの意味、そして家族や人との絆の尊さを問いかける、示唆に富んだ一本となっています。

作品概要はこんな感じ!
作品概要
- 公開年: 1970年1月15日
- 監督: 森崎東
- 脚本: 山田洋次、森崎東
- 主なキャスト:
- 車寅次郎: 渥美清
- お志津: 新珠三千代(湯の山温泉、旅館「もみじ荘」の女将。五歳の娘・道子がいる。)
- 諏訪さくら: 倍賞千恵子
- 染奴: 香山美子(湯の山温泉の芸者で、お志津の弟・信夫の恋人。)
- 信夫: 河原崎建三(お志津の弟、染奴とは幼なじみ。)
- 諏訪博: 前田吟
- 駒子: 春川ますみ(寅の見合い相手、為吉との復縁を寅がとりもつ。)
- 車つね: 三崎千恵子
- お澄: 野村昭子(もみじ荘の従業員)
- 信州の越後屋の女中: 悠木千帆
- 千代: 佐々木梨里(もみじ荘の従業員)
- 吉井: 高野真二(お志津の再婚相手)
- 徳爺: 左卜全(もみじ荘の従業員、特別出演)
- 源吉: 佐藤蛾次郎
- 清太郎: 花沢徳衛(染奴の父、四日市の元テキヤの親分)
- あらすじ: 故郷柴又に戻った寅次郎は、おいちゃんとの喧嘩の末、また旅に出ます。立ち寄った湯の山温泉で、病気の母親に代わって旅館「もみじ荘」を切り盛りする美しい女将・**お志津(新珠三千代)と出会い、寅次郎はたちまち恋に落ちます。お志津には幼い娘がおり、また弟の信夫(河原崎建三)がいます。信夫の幼なじみで恋人でもある芸者の染奴(香山美子)**も登場し、寅次郎は彼らの人間関係に深く関わっていくことに。染奴の父・清太郎(花沢徳衛)はかつてテキヤの親分でしたが、今は病に伏せ、言葉も話せない状態です。寅次郎は、お志津や染奴とその家族を巡る人間模様の中で、いつものように騒動を巻き起こしながらも、持ち前の人情と優しさを見せていくのです。さらに、寅の見合い相手の駒子(春川ますみ)との騒動や、「もみじ荘」の従業員である徳爺(左卜全)との交流なども描かれます。
- 制作背景: シリーズ3作目となる本作は、山田洋次監督から森崎東監督へとバトンが渡され、初の監督交代が行われました。この交代により、作品全体に軽やかでポップな新しいテイストが加わり、以降のシリーズにも影響を与えることとなります。
新たな試みと音楽性
本作では、音楽面で軽快でポップな楽曲が多用され、作品全体の明るいトーンをより一層際立たせています。
森崎監督らしい、コミカルかつリズミカルな演出が随所に光ります。

寅さんの本音とおいちゃんの熱演
見どころの一つは、寅さんがふと「所帯を持って落ち着かないとな」と本音を漏らすシーンです。
これはフーテンとして生きる寅さんの、どこか寂しげな一面を垣間見せる貴重な場面と言えるでしょう。
また、シリーズを通して名コンビであるおいちゃんこと森川信さんとの喧嘩のシーンでは、その迫真の演技が光ります。
取っ組み合いの喧嘩の中にも、柴又の家族ならではの温かさが滲み出ています。
徳爺と左卜全の存在感
「もみじ荘」の従業員である徳爺として登場するのが、名優・左卜全です。
特別出演ながら、その独特の存在感と演技は、作品に深い味わいを加えています。
黒澤明監督作品をはじめ、数々の名作に出演してきた彼の出演は、映画ファンにとっても見逃せないポイントです。
「フーテンの寅」が象徴するもの
本作のタイトルが示す通り、この作品では寅さんの「家庭を持たないフーテンの暮らし」に焦点が当てられています。
マドンナへの恋、家族との絆、そして旅先での人々との出会いを通じて、寅さんの自由奔放でありながらも、どこか切ない生き方がより深く描かれています。
特に注目すべきは、染奴の父である元テキヤの親分・清太郎(花沢徳衛)の悲惨な末路です。
かつては威勢を誇ったであろうテキヤの親分が、病に倒れ、言葉もままならない姿は、寅さんのような「フーテン」として生きる者にとっての一つの到達点、あるいは対極にある運命を示唆しているかのようです。常に旅をして場所を持たない寅さんと、病で身動きが取れず、かつての栄光を失った清太郎の姿は、フーテンの生き方が持つ光と影、そして人生の厳しさを観る者に静かに問いかけます。本作は、自由であることの代償としての孤独や、所帯を持つことへの憧れと諦めといった、フーテンとして生きることの切なさにも深くスポットを当てています。

今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます。
「男はつらいよ フーテンの寅」は、森崎東監督の新たな視点と、渥美清をはじめとする豪華キャスト陣の熱演が融合した、シリーズの中でも特に印象深い作品です。
寅さんの破天荒な言動の裏に隠された人間的な弱さや優しさ、そして人生の哀愁が、観る者の心に温かく、時に切なく響きます。

寅さんの旅はこれからも続きますが、この3作目は、フーテンとして生きる彼の本質を深く見つめた、必見の一本と言えるでしょう。

切なさが際立つ作品だよね。
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