マーティン・スコセッシ監督の代表作『タクシードライバー』。
この映画を観終えた後、どこか割り切れない不思議な感覚に陥った方は多いのではないでしょうか。
特に、惨劇の後の「ハッピーエンド」とも取れるエピローグには、ある種の不自然な違和感が漂っています。

このまま終わっていいの?!って思っちゃうよね。

今回は、本作の後半がトラビスの妄想であるという説と、それが痛烈な現実であるという説、両面からその謎を紐解いていきます。
妄想のスイッチ:ベッドに横たわるトラビス
多くの鑑賞者が違和感を覚えるポイントが、トラビスが自室で銃の訓練をしているシーンです。素早く銃を抜く練習の合間に、なぜかベッドで深く眠っているトラビスのカットが唐突に差し込まれます。 これ以降、物語は彼にとって都合の良い方向へと動き出します。コンビニ強盗を射殺してもお咎めがなく、あれほど彼を拒絶したベッツィが再びタクシーに乗ってくる。これらはすべて、孤独な男が眠りの中で見た「救世主になる夢」だったのではないかという解釈が成立します。

コンビニ強盗シーンの不自然な幸運
強盗を射殺した後、店主がトラビスに「俺がやっておく、お前は早く行け」と逃走を促すシーンがあります。冷静に考えれば、殺人事件の目撃者である店主が彼を逃がすのは不自然極まりない展開です。この自分に都合の良い理解者の出現こそ、トラビスの内面世界が現実を上書きし始めた証拠と言えるかもしれません。


このシーンはあまりにも唐突過ぎる感じもしますよね。
「狂った現実」としての解釈と社会への皮肉
一方で、脚本を手がけたポール・シュレイダーは、これは妄想ではないという意向を示しています。だとしたら、さらに恐ろしい結論が浮かび上がります。 それは、一歩間違えれば暗殺者になっていた狂人が、たまたま別の悪党を殺したことで英雄に祭り上げられるという、アメリカ社会の歪みそのものです。凄惨な血の海のあとに届く、アイリスの両親からの感謝の手紙。あれが現実だとするならば、この映画は救済の物語ではなく、狂った社会への最大級の皮肉となります。

鑑賞者に解釈を委ねるという革新性
本作が公開された1976年当時、主人公の主観と客観をこれほどまでに曖昧に溶け込ませた演出は極めて画期的でした。映画の結末を一つの正解に落とし込まず、あえて鑑賞者に委ねるという不親切なまでの突き放し方が、かえってトラビスという男の不気味なリアリティを増幅させています。 観る側の精神状態や価値観によって、この映画は悲劇にも喜劇にもなり、そして妄想にも現実にもなる。この多面性こそが、数十年経った今もなお議論を呼び続ける名作たる所以です。
現代の傑作『ジョーカー』との決定的な違い
本作への多大なリスペクトを捧げた2019年の映画『ジョーカー』では、ホアキン・フェニックス演じる主人公アーサーが見ていた救いのある光景が、明確に妄想であったことが物語の中で明示されます。

恋人が出来たというのは完全なる妄想だったというシーンですね。
現代の『ジョーカー』が妄想であることを種明かしとして機能させているのに対し、『タクシードライバー』は最後までその境界線をあえてぼかしたまま幕を閉じます。この最後まで突き放される感覚こそが、トラビスの抱える底知れない孤独と狂気を、より濃密に表現しているのかもしれません。

バックミラーに映る、剥がれ落ちた役
物語の最後、ベッツィを降ろした後のトラビスは、バックミラーに映る自分の姿を認め、何かに気づいたように、あるいは何かを振り払うように一瞬だけ鋭い目つきに変わります。 もしそれまでが妄想だったなら、あの瞬間に現実へと引き戻されたのかもしれません。あるいは、現実だったとしても、彼の中の暴力性は決して消えておらず、ハードボイルドな男を気取りながら、また次の獲物を探し始めているようにも見えます。

今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます。
結局のところ、トラビスが救われたのか、あるいはより深い闇に落ちたのか、その答えは夜のニューヨークの街並みの中に溶け込んだままです。
しかし、この曖昧さがあるからこそ、私たちは映画が終わった後も、バックミラーに映った彼の視線を忘れられずにいるのでしょう。
現実と妄想のどちらであっても、トラビスという男が抱えた空虚さは、時代を超えて私たちの心に波紋を広げ続けています。

皆さんはあのラストシーンに、どのような真実を見たでしょうか。

初めて観た時は妄想だとは思わなかったけど、JOKERを観たり、細かいところに目を向けられるようになったりすると、妄想説もあり得るかなと思っちゃうよね。
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