スタジオジブリ作品は、日本を越えて世界中で愛されていますが、タイでは少し不思議な現象が起きています。世界的に有名な『となりのトトロ』や『魔女の宅急便』といったファンタジー大作よりも、『海がきこえる』『耳をすませば』、そして『コクリコ坂から』といった、より現実の青春を描いた物語が、特に若い世代の心に深く刺さっているんです。

タイのアニメ好きとジブリの話題になると、必ずと言っていいほど、「海がきこえる」や「コクリコ坂から」のような、日常系のジブリ作品をお気に入りに挙げるんですよ。

えー、どうしてなんだろうね。
2025年7月4日(金)から3週間限定で全国リバイバル上映される『海がきこえる』。これは、1993年にテレビスペシャルとして放送された、いわゆる「異色作」と位置付けられるジブリ作品ですが、実はタイでは以前から熱狂的なファンがいるんです。
今回の日本でのリバイバル上映は、タイのジブリファンにとっても大きな話題となっています。一体なぜ、魔法も不思議な生き物も登場しない、ごく普通の少年少女の日常が、遠く離れたタイの若者たちを夢中にさせるのでしょうか?
ファンタジーを越える「胸アツ」なリアリティ

タイの友人たちにこの理由を尋ねると、誰もが口にするのが「リアリティ」という言葉です。
『となりのトトロ』や『魔女の宅急便』が、観る私たちを夢と魔法の非日常へと誘う一方で、『海がきこえる』『耳をすませば』『コクリコ坂から』は、誰もが経験するであろう普遍的な「青春の葛藤」を、驚くほど身近な形で描いています。
例えば、『海がきこえる』で描かれる杜崎拓と武藤里伽子の間にある、複雑で時に不器用な感情のやりとり。これは、まさに思春期特有の淡い恋心そのもの。友情と恋愛感情の狭間で揺れ動く繊細な心の動き、地方都市と東京という対比の中で見えてくる自立へのもがきは、タイの若者たちにとっても「まさに自分たちの物語だ」と強く響くんです。日本でのリバイバル上映が、この作品の持つ普遍的な青春の輝きを、より多くの日本の観客にも再発見させるきっかけになるでしょう。
『耳をすませば』の雫が、将来の夢や進路に悩みながらも、天沢聖司との出会いをきっかけに、自らの才能を信じて小説の執筆に打ち込む姿も、多くの若者が経験する自己発見の過程と重なります。タイも日本と同様に学歴社会であり、将来への期待やプレッシャーは若者にとって身近なもの。雫が自分の道を切り開こうとする姿は、彼らにとって大きな共感と勇気を与えているんです。
そして、『コクリコ坂から』。1960年代の横浜を舞台に、戦後の記憶と新たな時代が交錯する中で生きる高校生たちの姿が描かれます。主人公・海の責任感の強さと内に秘めた繊細さ、そして風間俊との間に芽生える淡い恋と、それに伴う試練。これらは時代を超えて、青春のまばゆい輝きを放ちます。古いものを守ろうと奔走する生徒たちの連帯や、家族の秘密を乗り越えようとする海のひたむきな強さは、タイの若者たちにも「自分たちの手で未来を創る」という力強いメッセージとして響いているようです。
「日常の風景」に宿る美と共感、そしてタイが感じるノスタルジー

これらの作品がタイで高く評価されるもう一つのポイントは、その「日常描写」が持つ独特の美しさにあります。
『海がきこえる』の高知のどこか懐かしい路面電車や街並み、土佐弁の響き。『耳をすませば』の多摩ニュータウンの坂道や、活字に囲まれた古本屋の温かい雰囲気。『コクリコ坂から』の丘の上から望む港の景色、そして歴史と活気が同居する学生会館「カルチェラタン」。これらは、日本の特定の時代や場所を描いているにも関わらず、タイの人々にとっては、「憧れるような理想の日常」として映るようです。
特に、都市化が急速に進むタイにおいて、作品に描かれるような「失われつつあるかもしれない、温かい共同体」や「ゆったりと流れる時間」は、深い郷愁や憧れを抱かせます。タイの若い世代は、SNSを通じて日本の文化、特に90年代から2000年代初頭のアニメ、ファッション、音楽に強い関心を示しており、これらの作品が持つ「レトロでエモい」雰囲気が、彼らの感性にドンピシャにはまっているんです。
「タイにもこんな場所があったらいいのに」「こんな友達との関係って素敵」という声は、タイのファンからよく聞かれます。タイのエンタメ界でも、日常のささやかな出来事を丁寧に描く「スライス・オブ・ライフ」ジャンルのドラマや映画が人気を博しており、ジブリのこれらの作品もその流れの中で、ごく自然に受け入れられていると言えるでしょう。
Netflixがもたらした「いつでも、どこでも」の視聴革命
そして、これらのジブリ作品がタイで爆発的に人気を集める決定的な要因として、Netflixの存在は外せません。
タイのNetflixでは、『となりのトトロ』や『魔女の宅急便』はもちろんのこと、今回日本でリバイバル上映される**『海がきこえる』、そして『耳をすませば』、『コクリコ坂から』といったほぼ全てのジブリ作品が、見放題コンテンツとして提供されているんです。これにより、タイの視聴者は、わざわざ映画館の限定上映を追いかけたり、DVDを探したりする手間をかけることなく、自宅のソファで、あるいは通勤中の電車内など、「いつでも、どこでも」手軽にジブリの世界に没頭できます。
この圧倒的なアクセスのしやすさは、新たなファン層を劇的に拡大させただけでなく、一度気に入った作品を何度も繰り返し観ることを容易にしました。デジタルネイティブ世代である若者にとって、ストリーミングサービスはエンターテイメント消費のメインストリーム。Netflixというプラットフォームが、ジブリ作品をタイの若者たちの日常に深く溶け込ませる、まさに「架け橋」となったんです。多数の作品の中から、彼らの感性に響く「日常系ジブリ」が自然と選ばれ、繰り返し視聴されることで、その人気は確固たるものとなっていきました。
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます。
『海がきこえる』『耳をすませば』『コクリコ坂から』がタイでこれほどまでに愛されているのは、単に「ジブリだから」というだけではありません。そこには、誰もが経験する青春の普遍的なテーマが、タイの若者たちが自分たちの日常と重ね合わせやすい「リアルな設定と繊細な描写」で描かれているからです。
ファンタジー作品の壮大さとは異なる、静かでじんわりと心に染み入る感情の動き、誰もが味わう成長の痛みと喜び。そして、何気ない日常の中に宿るかけがえのない美しさが、タイの観客の心に深く響き、「まるで自分の物語を見ているようだ」という強い共感を生み出しているのです。

そして、Netflixでの見放題提供という抜群のアクセシビリティが、この共感の輪を広げて、タイにおけるこれら「リアル系ジブリ」の人気を不動のものにしているんだね!

日本での『海がきこえる』リバイバル上映が、タイのファンにも新たな感動と発見をもたらし、これらの作品が持つ普遍的な魅力が、これからも国境を越えて多くの人々に愛され続けることを願ってやみません。
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