『The Substance』あなたは自分自身から逃れられない

映画

「美しくありたい」という願望は、ときに私たちを突き動かす力になります。

しかし、それが呪いとなったとき、その先には何が待っているのでしょうか?

カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞し、アカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞も獲得した『The Substance』は、そんな普遍的な問いを、容赦ないボディホラーで描き出しています。

bitotabi
bitotabi

衝撃的かつ、めちゃくちゃ面白い作品でした。オマージュもいっぱい。

ダニー
ダニー

詳しく解説していくよ~。結末に関するネタバレはないから、まだの人も安心して読んでね!


作品概要・あらすじ

人気番組の司会者を務めるエリザベス・スパークル(デミ・ムーア)は、ある日突然、上司のハーヴェイから「もう旬が過ぎた」と番組を降板させられてしまいます。絶望する彼女は、「理想の自分」を生み出す画期的な美容液「ザ・サブスタンス」の存在を知ります。これを使えば、より美しく、若い、完璧なもう一人の自分、スー(マーガレット・クアリー)を生み出せるというのです。



しかし、この美容液には危険なルールがありました。それは、「ザ・サブスタンス」を使って生まれた分身と、元の自分とが1週間おきに交代し、活動しなければならないということ。美しく完璧なスーに嫉妬し、次第にそのルールを破っていく。やがて、彼女の肉体は恐ろしい変貌を遂げ始めます。


コラリー・ファルジャとデミ・ムーアの「怒り」が爆発した傑作

監督と脚本を務めたコラリー・ファルジャは元女優であり、主演のデミ・ムーアも本作でプロデューサーを兼任しています。60歳を過ぎると女優に仕事が来なくなるというハリウッドの厳しい現実。監督自身も女優としての仕事が減った経験があり、そうしたフラストレーションがこの作品には凝縮されています。いつまでも美しくあろうとする女性の葛藤と、その末路を真正面から描くことで、社会に根深く残るルッキズムや年齢差別といった問題に鋭く切り込んでいます。

特に象徴的なのが、テレビ局の権力者であるハーヴェイというキャラクター。彼の名前は、ハリウッドに性的暴行の被害を広めたことで知られるハーヴェイ・ワインスタインを明らかにモデルにしています。このような挑戦的な設定は、ホラーというジャンルの枠を超えて、ハリウッドの闇に対する痛烈な批判であると同時に、製作者たちの強い「大義」を感じさせます。


デミ・ムーアのキャリアを賭した熱演

そして、この作品の核となるのが、紛れもなく主演のデミ・ムーアの熱演です。スクリーンへ華々しくカムバックしたにもかかわらず、自らの老いに負い目を感じるという、複雑な感情を繊細に表現した彼女の演技には心から拍手を贈りたい。マーガレット・クアリーも素晴らしいですが、ボディホラーというジャンルにおいて、ここまでの強烈な演技を披露したデミ・ムーアは圧巻です。



特に秀逸なのが、スーの美しさと成功に嫉妬し、テレビで彼女の活躍を見ながら料理をするシーン。コメディとホラーは表裏一体だ、とばかりに、観客の失笑を誘いつつも、その裏側にあるグロテスクな描写が、より一層ホラーの側面を引き立てています。このシーンにこそ、この映画の面白さが凝縮されていると言えるでしょう。


ホラー映画の金字塔に捧げるオマージュ

この映画の魅力の一つは、随所に散りばめられた映画へのオマージュです。

特にスタンリー・キューブリック監督へのそれはかなりのもの。

血塗れの廊下やトイレ、バスルームでの足元からのカメラアングルの演出は『シャイニング』を彷彿とさせます。

また、終盤で流れる『ツァラトゥストラはかく語りき』や、入れ替わりの際の視覚効果は、人類の進化と退化をテーマにした『2001年宇宙の旅』を思い出させます。

その他にも、人格の入れ替わりや強迫観念に囚われる様は『ブラック・スワン』、シャワーシーンは『サイコ』、トイレの後に手を洗わない権力者の描写は『シェイプ・オブ・ウォーター』など、挙げればきりがありません。

中でも、主人公の唇のアップがテレビ画面に映し出されるシーンは、デヴィッド・クローネンバーグ監督の『ヴィデオドローム』への明確なオマージュでしょう。そして、こうした映像の随所に感じられるのが、彼が創り上げたボディホラーへの深いリスペクトです。


アカデミー賞受賞の特殊メイクと”ねちゃっと”した音

アカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞した本作は、CGに頼らず、特殊メイクで表現された肉体の変化が、観客に視覚的な衝撃を与えます。

まさに、クローネンバーグ監督が作品で描いた人間の肉体を変容させる恐怖そのものです。

本作の「ねちゃっ」とした音は、私たちの五感を刺激し、生理的な不快感を呼び起こします。特殊メイクと音響効果によって、見た目の美しさに固執するあまり肉体が崩壊していく様が、生々しく描かれています。


今日の映学

最後までお読みいただきありがとうございます。

『The Substance』は、誰しもが抱えるであろう「自分らしさ」と「完璧な自分」の間の葛藤を描いた作品です。

あなたは自分自身から逃げられるのか? そして、完璧な美しさを手に入れたとき、本当の自分はどうなってしまうのか?

この映画は、その答えを観客自身に問いかけてきます。

bitotabi
bitotabi

ホラー映画を愛してきた人には、大変オススメな作品です。

ダニー
ダニー

まだ観てない人は、目を背けたくなるような映像の奥に隠された、深いメッセージをぜひ体験してみてね~。

当ブログは、毎日更新しています。
ブックマークして、またご覧いただけると嬉しいです。励みになります。
SNSにフォローしていただければ、更新がすぐわかりますので、ぜひフォロー・拡散よろしくお願いします。

X(旧Twitter)はこちら
https://twitter.com/bit0tabi
Instagramはこちら
https://www.instagram.com/bit0tabi/
Facebookはこちら
https://www.facebook.com/bit0tabi/
noteはこちら
https://note.com/bit0tabi



コメント

タイトルとURLをコピーしました