『ロッキー・ホラー・ショー』カルトの金字塔が放つ、古き良き映画への愛と狂騒の夜

ミュージカル映画

To the late night, double feature, picture show

半世紀近くにわたり、世界中で熱狂的な支持を集め続ける映画があります。

それが、ミュージカル、ホラー、コメディ、SFの要素が混然一体となった唯一無二の作品、『ロッキー・ホラー・ショー』です。

単なる映画という枠を超え、観客がコスプレをして劇場に集い、劇中のセリフに合わせて叫び、歌い、踊るという参加型の上映スタイル「ミッドナイト・ムービー」の金字塔として、この作品は映画史にその名を刻みました。

なぜ、これほどまでに人々は『ロッキー・ホラー・ショー』に魅せられるのでしょうか?そこには、既存の価値観を打ち破るような自由奔放な表現、忘れられないほどキャッチーな楽曲、そして何よりも、古き良き映画たちへの深い愛情とオマージュが詰まっているからです。

bitotabi
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この記事では、『ロッキー・ホラー・ショー』が持つ多層的な魅力を、隠された映画愛の数々とともに深掘りしていきます。

ダニー
ダニー

まずは作品概要からだね!

作品概要:狂気の宴を彩るキャストとスタッフ


『ロッキー・ホラー・ショー』は、1975年に公開されたイギリス・アメリカ合作の映画です。原作は、リチャード・オブライエンが脚本・作詞・作曲を手がけた舞台ミュージカル『The Rocky Horror Show』(1973年初演)。映画版の監督は、舞台版も手掛けたジム・シャーマンが務めました。

主要キャストは、物語の中心となる若きカップル、ブラッド・メイジャースにバリー・ボストウィック、ジャネット・ワイスに当時まだ無名だったスーザン・サランドン

そして、異次元の科学者フランク・フルター博士を演じたのが、舞台版から続投のティム・カリーです。

彼らの他にも、物語の語り部である犯罪学者を演じたチャールズ・グレイ、フランクの創造物ロッキーを演じたピーター・シン、そして原作者でもあるリチャード・オブライエンが執事のリフ・ラフを、パトリシア・クインがメイドのマゼンタをそれぞれ演じ、個性豊かなキャラクターを創造しました。

制作予算はわずか140万ドルと言われ、この低予算の中でいかに独創的な世界観を構築したかという点も、本作がカルト映画として語られる上で特筆すべき点でしょう。当時の主流であった大作主義とは一線を画し、B級映画へのリスペクトに満ちたそのアプローチは、後の多くの作品に影響を与えました。

楽曲解説:忘れられないメロディーと歌声の魔力


『ロッキー・ホラー・ショー』の魅力は、その強烈なビジュアルとストーリーだけでなく、一度聴いたら忘れられない中毒性のある楽曲群にもあります。全編を彩るロックンロール、グラムロック、バラードといった多彩なジャンルの楽曲は、登場人物たちの感情や物語の進行を巧みに表現しています。

特にファンからよく尋ねられるのが、「ジャネットの歌パート、誰が歌ってるの?」という質問です。実は、純真なヒロイン・ジャネット役を演じたスーザン・サランドンが、劇中の歌パートを全て自身の声で歌い上げています。彼女は当時、歌唱経験がほとんどない女優でしたが、監督のジム・シャーマンは彼女の「まっさらな」歌声がジャネットのキャラクターに合うと考え、起用しました。レコーディング時には、彼女の歌唱指導に時間をかけ、その結果、ジャネットの戸惑いや困惑、そして後に芽生える開放感を、見事に歌声で表現しています。特に、フランク・フルターに誘惑された後に歌う「Touch-a, Touch-a, Touch-a, Touch Me」は、彼女の歌唱力と表現力が光る名曲として知られています。

もちろん、ティム・カリーが歌う「Sweet Transvestite」や「I’m Going Home」、そして全キャストが参加する象徴的なナンバー「Time Warp」など、どの曲も映画の世界観を象徴する重要な役割を担っています。特に「Time Warp」は、振り付けがシンプルながらも強烈なインパクトを残し、ミッドナイト・ムービーでの観客参加のきっかけとなる、まさに「カルト・アンセム」と言えるでしょう。これらの楽曲が、映画全体のボルテージを高め、観客を狂騒の渦へと引き込んでいくのです。



古き良き映画へのオマージュ:作品に隠された映画愛の数々


『ロッキー・ホラー・ショー』が単なるキワモノ映画で終わらず、今日まで愛され続ける理由の一つに、その根底に流れる古き良き映画たちへの深い愛情があります。

本作は、随所に往年のSF、ホラー、B級映画へのオマージュやパロディを散りばめており、映画ファンにとっては隠された宝探しのような楽しみがあります。これは単なる模倣ではなく、敬愛する作品群への「讃歌」なのです。

まず、映画の始まりからその愛は顕著に表れます。オープニングを飾る「Science Fiction/Double Feature」という楽曲。スクリーンに映し出されるのは、不気味に揺れる「唇」のみ。

そして、歌詞は「P.K.O. productions」という架空の映画スタジオ名から始まり、キングコング、フラッシュ・ゴードン、宇宙水爆戦(The Day the Earth Stood Still)など、1930年代から50年代にかけてのSF・ホラー映画の古典や、それら作品に出演した俳優たちの名前が次々と羅列されます。

この「P.K.O. productions」は、かつて多くの怪奇映画やSF映画を製作した実在の映画会社「RKO Pictures」へのオマージュであり、白黒映画時代のB級作品への敬意が込められています。唇だけの演出も、当時のSF映画のオープニングクレジットで多用されたシンプルな視覚効果を思わせます。

そして、物語の語り部として登場する犯罪学者(The Criminologist)の存在も、古き良き映画へのオマージュとして機能しています。

彼はフランク・フルター博士の城で起こる狂乱を、冷静沈着な態度で解説していきます。これは、アルフレッド・ヒッチコックが自らのテレビ番組『ヒッチコック劇場』で毎回オープニングとエンディングに登場し、不気味なユーモアを交えながら物語の導入や結びを行ったスタイルを彷彿とさせます。

また、往年のホラー映画や怪奇ミステリーにおいて、謎めいた出来事の「解説役」として登場する人物像にも重なります。彼の存在は、観客を映画の世界へと誘い込む「水先案内人」でありながら、同時に、この狂気の物語を俯瞰的に眺める「批評家」の役割も担っているのです。



フランク・フルター博士の住む城「フランクシュタイン城」のゴシック調のデザインも、古典的なホラー映画(特にユニバーサル・ホラーなど)に登場する不気味な邸宅を彷彿とさせます。博士自身も、マッドサイエンティストというキャラクター像自体が、メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』に代表される古典的な怪奇小説や映画の類型です。このように、『ロッキー・ホラー・ショー』は単なる奇抜な作品ではなく、映画史の脈々と続く系譜の中に自らを位置づけ、その伝統を愛し、再構築しようとする作り手の強い意志が感じられるのです。

また、映画の終盤でロッキーがフランクを背負ってセットを登るシーンがありますよね。あのシーンも正しく『キングコング』へのオマージュとなっているんです。

夜這いのシーン:ブラッドとジャネットのシルエットからの巧みな変身トリック


フランク・フルター博士が、純真なブラッドとジャネットそれぞれの寝室に現れ、誘惑する「夜這い」のシーンは、『ロッキー・ホラー・ショー』の中でも特に象徴的かつ大胆な描写です。

このシーンの巧妙さは、観客を驚かせると同時に、「一体どうやって撮影したのだろう?」という疑問を抱かせます。特に、ベッドのカーテン越しに映るシルエットの人物が、最初は寝ている相手にとっての憧れの姿(ジャネットの部屋にはブラッド、ブラッドの部屋にはジャネット)であるものの、抱擁の瞬間にフランク・フルター博士に変身するという、驚くべき視覚トリックは、まさに本作のハイライトと言えるでしょう。

この一連のシーンは、当時(そして現在も)映画制作における直接的な性的描写に対する制約がある中で、いかにしてそれを効果的に、かつ芸術的に表現するかという課題への、クリエイティブな回答でした。この巧妙な撮影の秘密は、主に以下の要素に集約されます。

  1. シルエットと影の最大限の活用: まず、ブラッドが眠るベッドに、ジャネットのシルエットがカーテン越しに現れます。そして、ジャネットが眠るベッドには、ブラッドのシルエットが同様に現れるのです。観客は、そのシルエットがバリー・ボストウィック演じるブラッド、あるいはスーザン・サランドン演じるジャネット本人であると強く認識するよう仕向けられます。顔や詳細な表情は一切映し出されないため、観客の無意識的な思い込みが、このトリックの重要な鍵となります。
  2. 物理的な「変身」トリックと素早い動き: ここが最も巧妙な部分です。カーテンの影の中で、フランク・フルター博士はブラッドやジャネットになりすますためのカツラと、それぞれの服を身につけて現れます。そして、シルエットが抱擁を始めるまさにその瞬間、フランク・フルターは本来の彼自身のシルエットへと「変身」します。この一瞬の「変身」は、カーテンの影という視覚的な曖昧さと、完璧なタイミングが合致して初めて可能となる、高度なトリックです。

    豆知識: この種の「人物の瞬間的な入れ替わり」や「変身」のトリックは、映画の初期から使われてきた「ストップモーション」や「切り貼り編集」といった古典的な撮影技法の応用であり、本作はそれをセクシュアリティの描写という大胆な文脈で応用した点で革新的でした。

これらの技術の組み合わせにより、観客は最初は「まさか」と思い、次に「やはり」と驚き、最終的にはフランク・フルター博士の性的な自由奔放さに圧倒されることになるのです。

このシーンは、単なる規制回避や予算のためのトリックではなく、創造性と遊び心に満ちた、映画表現の可能性を追求した象徴的な場面と言えるでしょう。



ティム・カリーの演技:フランク・フルター博士という存在


『ロッキー・ホラー・ショー』の狂気と魅力の核にいるのは、紛れもなくティム・カリーが演じるフランク・フルター博士でしょう。彼なしにこの映画は語れません。カリーは舞台版の『The Rocky Horror Show』からフランク役を演じて大成功を収め、その圧倒的な存在感を携えて映画デビュー作である本作に臨みました

フランク・フルターは、両性具有の地球外生命体で、科学者でありながらも、その行動は常に奔放で倒錯的、そしてどこか哀愁を帯びています。カリーは、この複雑なキャラクターを全身で体現しました。まず、そのカリスマ的な歌唱力。「Sweet Transvestite」で登場する際の、歌いながら階段を降りてくる姿は、観客に強烈なインパクトを与え、一瞬にして彼の世界へと引き込みます。彼のリズム感、声量、そして歌詞に込められた皮肉や享楽的な感情を表現する能力は、まさに圧巻です。

さらに、彼の身体表現と表情の豊かさも特筆すべき点です。細部にまで計算された身振り手振りは、顔のアップがなくてもフランクの感情や意図を観客に伝えます。狂気、欲望、退廃、そして孤独――これら相反する感情を同時に、あるいは瞬時に切り替えて表現するカリーの演技は、観客にフランク・フルターへの嫌悪感と同時に、不思議な魅力を感じさせます。

性別や常識の枠を超えた自由な表現は、当時の社会に大きな衝撃を与えました。フランク・フルターは、保守的な価値観に縛られたブラッドとジャネットを、そして観客を、自らの狂気的な世界へと誘い込み、性の解放、アイデンティティの探求といったテーマを強烈に提示します。ティム・カリーは、単に奇抜な役を演じるだけでなく、その奥にある人間性(あるいは異星人性)と、彼が象徴する「自由」そのものを表現し、多くの人々に影響を与えたのです。

そして、この『ロッキー・ホラー・ショー』での強烈なインパクトと、メイクや特殊な役柄を見事に演じ切るその才能は、その後の彼のキャリアを決定づけました。彼は、Stephen King原作のTVミニシリーズ版『IT』(1990年)では恐怖のピエロ・ペニーワイズを、リドリー・スコット監督のファンタジー映画『レジェンド/光と闇の伝説』(1985年)では魔王を演じるなど、その存在感と卓越したメイク映えする演技で、忘れられない悪役たちを次々と生み出しました。一方で、大ヒットコメディ映画『ホーム・アローン2』(1992年)では、メイクなしでプラザホテルの支配人ヘクター役を演じ、そのコミカルな演技で、幅広い役柄をこなせる実力派であることを改めて示しました。

ティム・カリーの演技は、『ロッキー・ホラー・ショー』がカルト映画の金字塔となる上で、最も重要な要素の一つだったと言えるでしょう。

今日の映学


最後までお読みいただきありがとうございます。

『ロッキー・ホラー・ショー』は、その奇抜な外見とは裏腹に、映画史への深い敬意と、表現の自由への飽くなき探求心に満ちた作品です。

B級映画への愛、古典的なホラーやSFへのオマージュ、そして性やジェンダーといったタブーに臆することなく切り込むその姿勢は、公開から半世紀近く経った今もなお、多くの人々に刺激を与え続けています。

観客が映画に参加するというユニークな上映スタイル「ミッドナイト・ムービー」は、この作品の持つ解放的なエネルギーを象徴しています。それは、単に物語を見るだけでなく、自分自身も物語の一部となり、既存の枠にとらわれない表現の自由を享受する場を提供しました。

bitotabi
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実は私もかつて、京都みなみ会館で参加したことがあります。

『ロッキー・ホラー・ショー』は、単なるカルト映画というレッテルに収まらない、多層的な魅力を持った作品です。古き良き映画たちへの讃歌として、そして時代の価値観に挑戦するパイオニアとして、その狂騒の夜はこれからも脈々と受け継がれていくことでしょう。

ダニー
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