国民的映画シリーズとして長きにわたり愛され続ける『男はつらいよ』。
その記念すべき第1作は、1969年に公開され、寅さんこと車寅次郎という唯一無二のキャラクターを世に送り出しました。
なぜこの作品が半世紀以上経った今もなお、多くの人々の心に響くのでしょうか。その魅力と、作品に込められた時代の空気感を紐解いていきます。

名優、志村喬の出演も見逃せないポイントですね!

当時の時代感や制作背景についても伝えていくよ!
作品概要
- 監督・脚本: 山田洋次
- キャスト: 渥美清(車寅次郎)、倍賞千恵子(さくら)、光本幸子(冬子)、志村喬(諏訪飈一郎)、笠智衆(御前様)ほか
- あらすじ: 長年音信不通だったフーテンの車寅次郎が、故郷の柴又に突然帰ってくるところから物語は始まります。久しぶりの再会も束の間、騒動ばかり起こす寅次郎に妹さくらは呆れつつも、その奔放な生き方に惹かれる人々も。やがて寅次郎は、御前様の娘・冬子に淡い恋心を抱きますが、いつものように騒動となるのでした。
- 製作背景: 映画は、テレビドラマ版『男はつらいよ』の人気を受けて映画化が決定しました。当初、テレビ版では寅次郎が最終回で死亡するという衝撃的な展開になりましたが、視聴者からの強い要望により、映画として新たな出発を遂げることになります。高度経済成長期の只中にあり、社会が大きく変化していく中で、故郷や家族の温かさ、人情といった普遍的なテーマが、多くの観客の共感を呼びました。

昭和のノスタルジックな雰囲気や人情を味わえるのが、愛されるポイントの一つですね。
興行収入とシリーズの幕開け
『男はつらいよ』第1作の配給収入は1億1000万円を記録しました。
当時の「配給収入」は、現在の「興行収入」とは算出方法が異なり、映画会社に入る収益を示していました。2000年以前の日本映画界では、配給収入10億円が大ヒットの目安とされていたことを踏まえると、第1作の1.1億円は、公開当時の邦画としては堅実なスタートを切ったと言えます。
しかし、この数字だけで「伸び悩んだ」と結論づけるのは早計かもしれません。むしろ、この作品が後の国民的シリーズへと成長する礎を築いたと評価すべきでしょう。
- 驚異的な製作ペース: シリーズは、第1作公開後、最初の3年間は年に3本という異例のペースで製作・公開されました。その後も年に2本のペースが定着し、「夏休みとお正月は寅さん」が日本の風物詩となるほどでした。これは、第1作の評価と、シリーズ化への期待が大きかったことの何よりの証拠です。
- 批評面での高評価: 興行面だけでなく、批評家からも高い評価を得ました。1969年のキネマ旬報ベスト・テンでは、第1作が6位、そして同年11月に公開された第2作『続・男はつらいよ』が9位にランクインしています。
- 安定的な観客動員への推移: 研究によると、『男はつらいよ』シリーズは、第1作から第7作までを「黎明期」と位置づけ、第8作以降(1971年公開の『男はつらいよ 寅次郎恋歌』から)は、安定して12万人以上の観客動員と、公開時の配給収入ランキング10位以内をキープし続けたと分析されています。シリーズ全体で8000万人を超える観客動員を記録したことからも、その人気が最初から爆発的だったわけではなく、段階的に国民的シリーズとして盤石な地位を確立していったことがわかります。
このように、初期数作で爆発的なヒットを記録したわけではないものの、その高い評価と安定した人気が、その後の驚異的なシリーズ化へと繋がっていったと解釈するのが適切でしょう。

時代感:高度経済成長期の価値観
『男はつらいよ』第1作が作られた1969年は、日本が高度経済成長の真っただ中にありました。その時代背景は、作中のセリフや登場人物の価値観に色濃く反映されています。
当時、「会社勤め」は今よりもはるかに安定した、そして「優れている」とされる生き方でした。御前様が寅次郎に「そろそろまともな暮らしを」と諭すセリフはもちろん、「さくらは、大学出のサラリーマンと結婚させる」という寅次郎のセリフにも、当時の社会が学歴を重視し、それが個人の安定した生活や幸福に直結するという考え方が浸透していたことがうかがえます。寅次郎のような自由奔放な生き方は、ある意味で「まともな暮らし」から外れたものとして見られていた時代だったのです。
昭和二大名優の出演:魂を揺さぶる演技
この記念すべき第1作には、志村喬と笠智衆という、昭和を代表する二大名優が出演しています。
特に志村喬さんの演技は、観る者の魂を揺さぶります。彼が演じるのは、さくらの夫・博の父親、諏訪飈一郎。長らく疎遠だった息子の結婚式に参列し、スピーチで語る
「この八年間は… 我々にとって… 長い長い冬でした。そして、今ようやく… 皆様のおかげで… 春を迎えられます。」
というセリフは、親子の間にあった深い確執と、それがようやく解けた瞬間の深い安堵と喜びを見事に表現しています。
このセリフは、まさにその場の「落とし所」としてこれ以上ないほど感動的であり、志村喬さんの繊細かつ力強い演技力があるからこそ、観客は父親の不器用な愛情を感じ取り、彼を憎めない、幸せを願わずにはいられないシーンとなっています。

寅さんというキャラクター:時代を超えて愛される存在
寅さんこと車寅次郎は、世俗に染まらず、常に自分らしくある姿が観客に心地よさを与えます。彼は定職に就かず、日本各地を旅するテキ屋稼業。その奔放な生き方は、時に周囲を巻き込む騒動を引き起こしますが、どこか憎めない彼のキャラクターは、観客の心を掴んで離しません。

また、寅さんの魅力の一つに、周囲の人々との軽快な会話劇があります。話が通じないのに妙に口が強く、時に的外れなことを言ったり、場の空気を読まない発言をしたりしながらも、それをなだめたり呆れたりする登場人物たちとのやり取りは、実にユーモラスで観客を飽きさせません。
女性に対して見せる紳士的で聖人のような振る舞いは、彼の純粋さや、どこか不器用な優しさを際立たせています。報われない恋に一喜一憂する姿は、観る人にとって歯痒さも切なさも感じさせますが、同時に彼の真っ直ぐな心に憧れを抱く人も少なくないでしょう。寅さんは、単なる喜劇のキャラクターに留まらず、多くの人々にとって「理想の生き方」や「忘れかけていた大切なもの」を思い出させてくれる存在なのです。
感想
この、『男はつらいよ』の一作目って、何度か鑑賞したような気もするんです。
でも新鮮でしたね。めちゃくちゃ面白い。
以前観た時は「え、これで終わり?」と感じたような気もするんですが、この先行きが分からない終わり方というのが、何ともセンチメンタルでいいものなんだと、ようやく理解することができました。
また、先述の通り、渥美清だけでなく、笠智衆と志村喬という、二大名優が出演しているというのも、すごいポイントですよね。
当時オンタイムで観ていた人たちが、寅さんに対しどのような感情を抱いたのかは分かりませんが、今の私が寅さんに抱いた想いは、憧れそのものでした。
あんな風に奔放に振舞い、明日のことも考えないで生きていくような暮らし。はっきりいって羨ましいです。なりたくてもなれるものではない。
どこかで惨めな思いとか、恥ずかしさみたいなものが溢れてきてしまうと思うんですよね。
で、実際、寅次郎もそういう思いは持っているということが、ラストで分かるんですよね。恋に敗れてしまったことで。
それでもなお、フーテンの暮らしを選択できる強かさ。素敵だと思います。
とにかく、純粋なんですよね。
あと、これは毎回思うことですが、倍賞千恵子が抜群に可愛いですね。
当時28歳だったそうですが、もっと若く見えます。20歳でもいけちゃうくらいの可愛らしい雰囲気。この、美麗というよりは、チャーミングな容姿がまた、「妹・さくら」というキャラクターにぴったりだよなと思いました。

今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます。
『男はつらいよ』第1作は、高度経済成長期の日本の風景や人々の価値観を鮮やかに描き出しつつ、普遍的な家族愛や人情、そして寅次郎という唯一無二のキャラクターを通して、観る者に笑いと感動、そして深い共感を呼び起こします。
時代が変わっても色褪せることのない寅さんの魅力、そして彼が織りなす人間模様は、これからも多くの人々に愛され続けることでしょう。

私は心の底から寅さんに憧れちゃいました。

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