2003年に公開された『着信アリ』は、『リング』や『呪怨』といった傑作に比べると、恐怖演出や物語の深みにおいて劣ると評価されることもあります。

しかし、当時の時代性を巧みに取り入れたアイデアと、その斬新な脚本で、多くの人々の記憶に残るホラー映画です。

早速解説していくよ~。
作品概要
監督: 三池崇史 脚本: 大良美波子 原作・企画: 秋元康
2003年公開。大学生の由美を演じた柴咲コウをはじめ、山下弘役の堤真一、由美の友人役として吹石一恵、そして主要キャストとして石橋蓮司や筒井真理子ら、若手から実力派まで豪華な俳優陣が集結しました。興行収入15億円を超えるヒットを記録し、携帯電話という身近なツールを恐怖の対象にしたことで、当時の社会に大きなインパクトを与えました。
あらすじ
大学生の由美は、友人たちが不気味な着信音の後に次々と謎の死を遂げる事件に遭遇します。その着信音は、携帯電話に送られてくる「死の予告電話」であり、その留守番電話には、未来の自分の悲鳴が録音されていました。由美は、過去に妹を亡くした経験を持つ山下弘と共に、一連の事件が、かつて亡くなった少女・美々子の怨念によるものだと突き止めます。しかし、二人がたどり着いた真相は、想像を絶するほど複雑で、恐ろしいものだったのです…。
1. 携帯電話が生み出す「日常に潜む恐怖」
本作の最大の功績は、当時爆発的に普及し始めた「携帯電話」を恐怖の媒体として設定した点にあります。誰もが肌身離さず持っている身近なアイテムが、最も恐ろしいツールへと変貌する様を描き、観客に「もしかしたら自分にも起こるかもしれない」という強い共感を呼び起こしました。
- 着信音の恐怖: 日常的な音が、死の予告として鳴り響く。
- 留守番電話のメッセージ: 未来の自分の悲鳴が録音されたメッセージが届く。
- 呪いの伝播: 着信履歴を通じて、呪いが友人から友人へと広がっていく。
このアイデアは、ホラー映画の歴史の中でも非常に秀逸で、時代の潮流を汲み取った秋元康氏ならではの鋭い感性が光っていました。

2. 秋元康の「メディアを熟知した企画力」
原作・企画を手掛けた秋元康氏の、メディアに対する深い洞察力も本作の魅力の一つです。
劇中では、登場人物がテレビ番組の収録中に亡くなる場面が描かれます。これは、テレビという不特定多数に情報を発信するメディアが、個人的な恐怖を衆目に晒す装置へと変わる様を示唆しており、メディアの裏側を知り尽くした秋元氏ならではの演出です。携帯電話という新時代のメディアにいち早く注目し、それをホラーの題材として巧みに利用した企画力は、彼がその後も多くのヒット作やアイドルグループを生み出す才能の原点であったことが窺えます。

3. 複雑に絡み合う「人間の闇」と推理の裏切り
本作が単なるホラーで終わらないのは、その真相に隠された複雑な人間ドラマと、観客の推理を裏切る巧妙な仕掛けがあるからです。
物語の根源にあるのは、姉の美々子が抱いた深い怨念です。主人公の由美や山下は、当初、呪いの原因は代理ミュンヒハウゼン症候群を患う母親にあると推理します。この精神疾患は、特に母親が子どもに対して病気を捏造し、関心を得ようとするケースが多いことで知られていたため、観客もその推理に引き込まれます。この代理ミュンヒハウゼン症候群というテーマは、製作年が近い映画**『シックス・センス』**で描かれたことでも知られており、超常現象の背後にある人間の心理的な闇に焦点を当てた、当時のホラーの潮流を象徴していました。
しかし、物語が進むにつれて明らかになるのは、代理ミュンヒハウゼン症候群だったのは母親ではなく美々子自身だったという、予想外の真相です。美々子は、妹の菜々子を傷つけてまで母親の関心を引こうとしましたが、その行為が母親に見つかり、見捨てられたと感じたまま命を落としてしまいます。この美々子の深い孤独と憎しみが呪いとなり、自身と似た境遇に置かれた人々を襲うのです。
映画のラストは、一見ハッピーエンドのように見えます。しかし、これは主人公の由美に美々子が憑依し、自己顕示欲を満たすための世話相手として、山下弘を得たという、恐ろしい真相を暗示しています。由美は呪いを断ち切ったのではなく、むしろ美々子と同化してしまった。この結末は、呪いとは人間の心の闇そのものであり、その連鎖は断ち切ることができないという、深く絶望的なメッセージを観客に突きつけました。

今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます。
『着信アリ』は、『リング』や『呪怨』ほどではないかもしれないが、時代の潮流を汲んだアイデアは非常に面白いというあなたの見解を全面的に反映した上で、その真の魅力と、巧みなストーリーテリングを考察しました。

携帯電話という身近なツールを恐怖に利用した発想、そして人間の心の闇を深く掘り下げた結末は、今観ても色褪せることのない、記憶に残るホラー映画と言えるでしょう。

時代感を捉えてこそ、恐さが分かる映画なのかもしれないね!
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