『宮松と山下』現実と虚構が溶け合う、静かなる迷宮

映画

宮松と山下』を鑑賞しました。

クリエイティブ集団「5月」が監督を務め、香川照之さんが主演ということで以前から気になっていた作品です。

観終わった直後の率直な感想は、「私は今、何を見ていたのだろう」という心地よい混乱でした。

画面に映るものが演技なのか現実なのか、その境界線がじわじわと崩れていく感覚。

今回は、そんな不思議な余韻を残す本作について綴ります。

bitotabi
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非常に不思議な作品です。

ダニー
ダニー

まずは作品概要から!

作品概要

本作は、数多くのCMや教育番組を手掛けてきた佐藤雅彦、関友太郎、平瀬謙太朗の3人からなる監督集団「5月」による長編映画です。

主人公の宮松(香川照之)は、時代劇で斬られたり、ドラマで通行人を演じたりする「エキストラ」として生計を立てています。

ロープウェイの管理という静かな仕事と、エキストラとしての派手な死に様。その二重生活を送る彼のもとに、ある日、過去を知る男が現れます。

そこから、彼が失っていた記憶と、もう一つの名前「山下」としての人生が浮かび上がってきます。

驚くほどの入れ子構造と、曖昧になる境界線

この映画の最大の魅力は、観客を翻弄する徹底した「入れ子構造」にあります。 映画が始まった瞬間から、私たちは「これは映画の中の現実なのか? それとも劇中劇なのか?」という問いを突きつけられます。エキストラとして背景に溶け込み、時には滑稽なほど大袈裟に死んでみせる宮松。しかし、カメラが彼の「日常」を映し出した時、その日常さえもどこかセットの上の出来事のように見えてくるのです。

劇中劇と現実の境目が絶妙に混じり合っているため、観ているこちらは常に足元がふわふわとした感覚に陥ります。宮松が淡々とこなす日々の生活自体が、何か巨大な脚本の一部であるかのような錯覚。この構成の巧みさが、サスペンスとは違う種類の緊張感を持続させていました。



どこまでが「役」なのか分からない曖昧さと面白さ

主演の香川照之さんの演技が、この複雑な構造をさらに際立たせています。

普段の寡黙で無表情な宮松と、エキストラとして過剰な演技をする宮松。そして、かつての自分である「山下」としての顔。

「どこまでが役なのか分からない」という感覚は、主人公自身がアイデンティティを見失っている状況とリンクし、観客もまたその迷宮に引きずり込まれます。

派手な演出ではなく、抑制されたトーンで進むからこそ、ふとした瞬間の表情の変化が際立ち、人間の存在そのものの不確かさを突きつけられるようでした。

実家のシーンに見る「小津調」の演出

物語の後半、彼が過去と向き合うために訪れる実家のシーンは非常に印象的でした。 カメラを低い位置に据え、人物を正面や真横から捉える構図、そして独特の会話の間。それは明らかに小津安二郎監督の映画を彷彿とさせる「小津調」の趣がありました。

しかし、それは単なるオマージュではありません。久しぶりに再会したはずの家族との会話が、どこか淡々としていて、まるで台本を読んでいるかのような違和感を醸し出しています。この演出によって、「家族という関係性もまた、一つの役割(ロール)に過ぎないのではないか」という問いが浮かび上がってきます。最もリアリティがあるはずの「実家」という場所が、最も演劇的に見えるという逆説的な面白さがそこにありました。

今日の映学

最後までお読みいただきありがとうございます。

『宮松と山下』は、明確な答えを提示してスッキリさせてくれるタイプの映画ではありません。

しかし、見終わった後、自分の歩いている街や、普段接している人々、そして自分自身さえも「誰かが演じている役」のように思えてくる不思議な視点を与えてくれます。

静かだけれど、心の奥底をざわつかせる一本。

一風変わった映画体験を求めている方には、ぜひおすすめしたい作品です。

bitotabi
bitotabi

終盤で明らかになる彼自身の事実に関しても、かなり心をえぐられます。色んな方向から楽しみたくなる、そんな作品です。

ダニー
ダニー

ペルソナ的な概念も加味して観ると一層いいよね。

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