1950年代のアメリカ。当時のアメリカでそこまでメジャーなスポーツではなかった卓球で世界を目指そうと奮闘した破天荒な男、マーティ・リーズマンをご存じでしょうか。
2026年のオスカーにノミネートされた『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』は、そんな彼の波乱に満ちた人生を描いた作品です。
『グッド・タイム』や『アンカット・ダイヤモンド』で観る者を極限の緊張状態に陥れてきた鬼才、ジョシュ・サフディ監督が描く狂乱の半生。本年度のアカデミー賞では作品賞・監督賞・主演男優賞を含む計9部門にノミネートされ、A24作品として過去最大級の評価を突きつけられています。
2026年3月13日の日本公開が待ちきれない。オスカー発表の前に、少しでもこの話題作について知っておきたい——。

そんな期待に満ちたあなたに向けて、本作をより深く楽しむための予習ガイドをお届けします。

ネタバレなしだから、安心して読んでね!
【作品概要】
- 監督・脚本・編集: ジョシュ・サフディ
- 共同脚本・編集: ロナルド・ブロンスタイン
- 出演: ティモシー・シャラメ、グウィネス・パルトロー、タイラー・ザ・クリエイター、アベル・フェラーラ
- 撮影: ダリウス・コンジ(『セブン』『ミッドナイト・イン・パリ』)
- あらすじ: 1950年代のニューヨーク。靴屋で働きながら、夜な夜な賭け卓球に興じる青年マーティ・マウザー(ティモシー・シャラメ)。自分勝手で傲慢、周囲を振り回してばかりの彼だが、卓球の才能だけは本物だった。彼は世界一の座をつかむため、そしてマイナーな「ピンポン」をメジャーな「卓球」へと押し上げるため、妊娠した幼馴染や家族を置き去りにして、ロンドン、そして日本へと突き進んでいく。
当時の卓球界:アメリカの「遊び」から、日本の「黄金時代」へ
本作を観る上で知っておきたいのが、1950年代の卓球界における「日本の圧倒的強さ」という歴史的背景です。
当時、卓球界はイギリスを中心としたヨーロッパ勢の時代が終わりを告げ、代わって日本が世界を席巻し始めていました。1952年の世界選手権で初出場・初優勝という衝撃のデビューを飾って以来、日本は独自の「スポンジラバー」技術と、大学を拠点とした高度な育成環境を武器に、他国の追随を許さない黄金時代を築き上げていたのです。

今でこそ卓球といえば「中国最強」というイメージが定着していますが、中国が国を挙げて強化に乗り出し、世界の頂点へと駆け上がるのは1950年代後半から1960年代にかけてのこと。映画『フォレスト・ガンプ』で描かれた1970年代の「ピンポン外交」は、さらにその後の、中国が名実ともに最強国として君臨してからの物語です。
つまり本作が描く1950年代は、まだ「中国無双」が始まる前夜。アメリカにとって卓球は、まだスポーツというよりは「地下室で楽しむレクリエーション(ピンポン)」という認識でした。そんな時代に、プロの卓球選手として世界一を目指し、当時の最強国・日本へ挑もうとしたマーティの野心がいかに異端で、破天荒なものだったかが分かります。
鬼才ジョシュ・サフディと「ならず者」の共鳴
本作は、爽快な「スポーツ活劇」を期待すると、良い意味で裏切られることになります。実在のモデルであるマーティ・リーズマンは、時に犯罪に近いような危ない橋を渡り、賭け卓球の世界で波瀾万丈な人生を送った人物です。この「ギリギリの境界線を生きる破天荒な男」の物語は、追い詰められた人間の焦燥感を描き続けてきたサフディ監督にとって、これ以上ないほど相性の良い題材だったと言えるでしょう。

ティモシー・シャラメの飽くなき挑戦
主演のティモシー・シャラメの演技の幅には、目を見張るものがあります。
ボブ・ディランを演じたかと思えば、今度は卓球界の異端児。
彼は本作のために数ヶ月にわたる猛特訓を重ねたそうで、劇中の鋭いフォームや球筋は、その努力の賜物といえるでしょう。「キャリア最高の演技」と称賛されるその姿は必見です。

実在のモデルと、リアリティへのこだわり
本作の大きな鍵を握る日本人選手「エンドウ」にも、1952年に世界を震撼させた佐藤博治という実在のモデルがいます。そ
して、そのエンドウ役を演じているのは、現役のデフリンピックメダリストである川口功人選手です。本物のトップアスリートが魅せる圧倒的な技術が、本作に凄まじいリアリティを与えています。

音楽と映像が紡ぐ、時空を超えたレトロ感
本作を観てまず驚くのは、そのビジュアルと音の作り込みです。50年代を彷彿とさせるザラついた質感の35mmフィルム映像に対し、音楽の使い方が非常に独創的です。
例えば、劇中ではNew Orderの『The Perfect Kiss』が流れるシーンがあります。50年代当時の音楽でも、現代の最新曲でもない、80年代のポスト・パンク。
この絶妙な選択が、映像に不思議なレトロ感を漂わせ、歴史をなぞるだけの伝記映画とは一線を画す、中毒性のある世界を作り上げています。
圧倒的なカリスマ性と、卓球への高潔な野心
正直なところ、マーティンは「立派な人間」とは言い難いキャラクターです。私生活は女と金にだらしのない、ろくでなし。ニューヨークでの再起をかけた展開も、ホテルの床が抜けるようなドタバタ劇から始まり、まさにカオスそのもの。タクシーに並走して走る疾走感や、公開尻叩きといった、サフディ監督らしい過激で予測不能な見どころも満載です。
しかし、彼は卓球に対する誇りと野心に満ち満ちています。この一点に関しては間違いなく尊敬に値しますし、周囲の人々が思わず惚れ込んでしまうような唯一無二のカリスマ性があったことも、観れば深く頷けるはずです。すべてを投げ打ってでも一つのことに突き進むその情熱は、私たちの心に強く響くものがあります。

今日の映学:カオスの中で、私たちは何を目撃するのか
最後までお読みいただきありがとうございます。
『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』は、決して分かりやすい栄光への道のりを描いた物語ではありません。
そこにあるのは、自己中心的で、私生活は「ろくでなし」そのものの男が、卓球というたった一つの光に魅了され、自らも周囲も焼き尽くしながら突き進む姿です。
しかし、かつて「日本」という巨大な壁がそびえ立ち、卓球が「ピンポン」から「スポーツ」へと変貌を遂げようとしていたあの熱い時代。マーティのような規格外の人間でなければ、世界の歴史を動かすことはできなかったのかもしれません。
2026年3月13日。ティモシー・シャラメが全身全霊で体現した一人の男の狂気が、世界をどのように塗り替えていくのか。

ジョシュ・サフディ監督が仕掛ける、アドレナリン全開の「139分間の狂騒」を、ぜひ劇場の大きなスクリーンで体験してください。

ティモシー圧巻の演技にも注目!
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