喜劇の巨匠が描いた「狂気」と「人間」 – 『殺人狂時代』を読み解く

コメディ映画

チャールズ・チャップリン。誰もが知る喜劇の天才が、「私にとって最高の作品」と語った異色の作品、それが1947年公開の『殺人狂時代』(原題: Monsieur Verdoux)です。

シリアスなテーマを扱いながらも、チャップリンならではのユーモアと社会への鋭い視線が光る本作は、公開当時賛否両論を巻き起こしました。

bitotabi
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本稿では、その魅力と深みに迫ります。

ダニー
ダニー

まずはあらすじから!

微笑みの裏に潜む冷酷な殺意

舞台は世界恐慌下のフランス。主人公のアンリ・ヴェルドゥは、職を失い、病気の妻と息子を養うために、裕福な未亡人たちと結婚しては殺害し、財産を奪うという驚くべき手段に出ます。紳士的で魅力的なヴェルドゥは、次々と女性たちを魅了し、その手口は巧妙かつ冷酷です。しかし、どこか憎めない彼の人間味や、時折見せる良心の呵責が、観る者の心を揺さぶります。

シリアスさこそ最高傑作たる所以?

チャップリンはなぜ、これほどまでにシリアスなテーマの作品を自身の最高傑作と位置付けたのでしょうか。実はこの企画、当初はオーソン・ウェルズがチャップリンに持ちかけたものでした。ウェルズは出演も希望していましたが、最終的にチャップリン自身が監督・脚本・主演を務めることになります。

喜劇というフィルターを通して社会の矛盾や人間の本質を描いてきたチャップリンにとって、『殺人狂時代』は、より直接的に、そして痛烈に人間の抱える狂気や、社会の不条理を告発する手段だったのではないでしょうか。笑いの中に潜む人間の業、そして生きるための悲しい選択。それらを深く掘り下げたからこそ、チャップリンにとって特別な作品となったのかもしれません。

 



なぜ舞台はフランスなのか?

『殺人狂時代』の舞台がフランスであることには、いくつかの理由が考えられます。

  • 異国情緒と普遍性: フランスという舞台設定は、どこか現実離れした印象を与え、物語を普遍的な人間のドラマとして捉えやすくする効果があったかもしれません。
  • 当時の社会情勢: 第二次世界大戦終結直後という時代背景も無視できません。フランスはナチス・ドイツの占領下にあった過去を持ち、社会全体に深い傷跡が残っていました。ヴェルドゥの行為を、戦争という極限状態における人間の狂気と重ね合わせたかったのかもしれません。

ラストのセリフと赤狩り

映画のラストシーン、逮捕されたヴェルドゥが法廷で語る言葉は、観る者の心に深く突き刺さります。

「一人や二人殺せば犯罪者だが、何百万人も殺せば英雄だ」

One murder makes a villain; millions, a hero. Numbers sanctify, my good fellow!

このセリフは、国家による戦争という大量殺戮を痛烈に批判したものです。公開当初、アメリカでは「A Comedy of Murders(殺人の喜劇)」という副題が配給側によって付けられましたが、チャップリン自身はこの副題を嫌っていました。

このメッセージ性の強さが、公開当時、特にアメリカで大きな波紋を呼びました。

そして、この作品が公開された頃、アメリカでは「赤狩り」と呼ばれる共産主義者追放の運動が激化していました。チャップリン自身もその標的となり、この映画のメッセージが彼の立場をさらに危うくしたとも言われています。ラストのセリフは、そうした時代背景の中で、チャップリンの強いメッセージとして響いたのです。

 



カメラ目線のショットはメタ演出?

劇中、ヴェルドゥが時折カメラに向かって話しかけるようなショットがあります。これは、観客を物語の中に引き込み、ヴェルドゥの心情を共有させる効果を狙った演出と考えられます。

単なる演出というだけでなく、これは一種のメタ的な表現とも解釈できるかもしれません。喜劇役者として観客と直接的なコミュニケーションを取ってきたチャップリンが、シリアスなテーマを扱う本作においても、あえて観客に語りかけることで、物語と現実、そしてチャップリン自身の存在を意識させているのではないでしょうか。

こぼれ話:舞台裏と公開時の反響

ヴェルドゥを追い詰める女性記者役には、当時の人気女優ジーン・ティアニーが起用され、作品に華を添えました。しかし、公開当時、チャップリンはアメリカ国内で政治的な批判に晒されており、社会の矛盾や戦争の不条理を描いた本作は、彼の心情を反映していたとも言えます。そのためか、アメリカでの興行収入は振るいませんでしたが、ヨーロッパでは比較的好評を得ました。時を経て、作品の評価は見直され、現在ではチャップリンの重要な作品の一つとして認識されています。

 



今日の映学

最後までお読みいただきありがとうございます。

『殺人狂時代』は、喜劇の巨匠チャールズ・チャップリンが、自身の最高傑作と語った異色の作品です。世界恐慌下のフランスを舞台に、職を失った男が生きるために富裕な未亡人たちを殺害するという衝撃的な物語を通して、チャップリンは人間の業、社会の不条理、そして戦争という名の大量殺戮を鋭く批判しました。

当初オーソン・ウェルズとの企画から始まった本作は、チャップリン自身の監督・脚本・主演によって、単なる犯罪劇に留まらない、深い人間ドラマとして昇華されました。舞台をフランスとしたこと、ラストの法廷での強烈なセリフ、そして観客に語りかけるようなカメラ目線の演出など、随所にチャップリンの意図が感じられます。

公開当時、そのテーマやメッセージ性からアメリカでは賛否両論を呼び、チャップリン自身の政治的な立場とも相まって厳しい評価を受けることもありました。しかし、時を経た現在、『殺人狂時代』は、チャップリンが笑いの中に潜ませたシリアスなメッセージを深く考えさせられる、重要な作品として再評価されています。

それは、一人の殺人者の行為を通して、私たち自身の社会や人間性について深く問いかける、チャップリンからの強烈なメッセージなのです。

bitotabi
bitotabi

チャップリンの熱が伝わってくるような。傑作でした。

ダニー
ダニー

観たことが無い人は、ぜひ一度鑑賞してみてね!

 

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