最初に失われるのは若者の命である
映画『仁義なき戦い 代理戦争』をNetflixで鑑賞しました。
本作もまた、初めての鑑賞でした。
ヤクザ映画でありながら、サスペンスフルなドラマ性もある非常に面白い作品です。

今回の記事では、『仁義なき戦い 代理戦争』の作品概要や解説、出てくる用語などをお伝えしていきます。

まずは作品概要から!
作品概要
『仁義なき戦い 代理戦争』は1973年9月25日に公開された日本映画です。監督は深作欣二、脚本は笠原和夫。
主要キャストは、菅原文太、小林旭、渡瀬恒彦、川谷拓三、金子信雄、田中邦衛、梅宮辰夫など。
あらすじ
昭和35年、広島最大の暴力団である村岡組の跡目候補である杉原が殺される。同じく村岡の舎弟分である打本が次の跡目に擬されるが、優柔不断な性格から杉原の仇を討たないため周囲が推さなかった。広島を注視していた呉の山守は、現在は膝下を離れ一家を構えた広能が村岡組と親しいのを利用しようと、呉の長老である大久保に働きかけると強引に傘下に戻した。山守と側近である槇原から利用された人間が死んできた過去を熟知する広能は、保身のため打本を担ごうとする。打本と村岡組幹部の松永、武田、江田、それと広能は「打本を兄貴分、広能たちを弟分」とする兄弟盃を交わす。
次に広能の橋渡しで神戸の大組織、明石組の舎弟頭相原と打本の五分兄弟盃が実現した。打本はさらに直接、明石組長の舎弟分になろうと相原を蔑ろに運動。広能は相原に対して面目を潰す。直の兄貴分は2人と持てない渡世の不文律を無視して自身の利害損得を優先する打本に広能は意見をするが、逆に食って掛かられ幻滅を味わう。打本の盃外交は村岡組長の心証を悪くさせ、その引退時に跡目は組内から立てず子分と縄張りを山守の預りとする。広能は内心は不満だが村岡と山守の橋渡しをさせられる。
武田逹からすれば重し代わりに山守を担ぐものだが、跡目から外された打本はショックを受ける。さらに盃を直した山守組の披露宴の席では相原の前で山守から辱しめられ悔し涙を流す。慰めようとした広能に対しても、山守に付いて裏切ったと信じる打本は聞く耳を持たず両者は決裂した。組長となった山守は幹部たち(武田は入院中)を前にして、岩国で継続中の浜崎組(槇原の舎弟)と小森組(打本の舎弟)の喧嘩に介入し、小森と打本を叩くよう命令を出す。
手打ちに動いている打本は明石組と繋がり、浜崎の背後には山口の豊田会が見える中での参戦は誰もが得策と思えない。同意が無いと山守は怒り、あるいは泣きだす奇矯な振るまいを見せ、幹部たちは真意を掴めないまま了承した。散会後に広能は山守の狙いは寄せ集めの組で槇原を頭に統一戦線を張り、結果として自身の求心力を高めるものと読み解いてみせるが広能たちも打本との盃を名目にして腰を上げない。
老獪な山守からすれば部下の腹は折り込み済みで、既成事実を積み重ね打本を追い詰める構図を作りあげようと運動する。打本組幹部の早川は山守に切り崩された。山守組内部では仁義に外れた組長の行動に呆れながらも、その方針に従わざるを得ず盃を解消する。孤立し、喧嘩の手打ちも失敗した打本は指を詰める形でケジメをつけ逃亡。打本が頼った明石組は山守組に圧力を加える。
明石組の威光で岩国の喧嘩も手打ちとなり、明石組長の舎弟分として打本は復権。早川も再び打本に乗り換えた。立場が逆転した山守は若頭に武田を起用する。武田は明石組と対抗できる大組織の神和会と山守が盃を交わす戦略を打ち出す。明石組から打本との盃を復活させるように要請されている広能は、反対する武田に対して山守と槇原のもとではスジがバラバラであり明石組と断交しても身内から粛清される危険があると主張。
組内部の利害の衝突は下に伝わり暴発が起こった結果、窮地に追い詰められた広能は神和会の盃で事前工作に動き明石組との断交にも同意した。決着をつけるため関係者が待合に集められるが、破談した瞬間に明石組から殺される危険を抱えて交渉が始まる。相原は、打本がケジメをつけた以上は盃を戻すべきとのスジ論に加え喧嘩になっても神和会からの協力はないと揺さぶりをかけるが、武田は広島への内政干渉と反発、明石組は撤退すべきと主義を曲げない。
打本に至っては広能とは盃を戻したくないと我意を張り、部屋の明かりが消え混乱と緊張が頂点に達したとき大久保が現れた。呆気にとられる広島側に、大久保は山守に呑ませると宣言して劇的に盃が復活。散会の後に武田は渡世とは一線を引いている大久保を明石組が担ぎ出したのは広能の仕業だと気がつくが、広能の真意は山守の責任を自身に取らせる点にあった。
盃の復活は利敵行為だと神和会は広島へ詰問使を送り、山守は窮地に追い詰められる。しかし、山口の豊田会を含めて協議した結果、組内部の明石組シンパである広能を切り捨てるという結論が導かれ矛盾は全て糊塗された。一人だけ責任を負わされ引退するようにと勧告を受けた広能は拒否、破門され親分も兄弟分もなく敵として去っていく背中に、武田は組が無ければやくざは存在しないと説く。
中立と嘯く松永も組を去った。山守組が敵となったにもかかわらず、打本は広能が勝手に喧嘩を始めたと無視するが、広能を見殺しに出来ない相原は打本に早川を破門させる。対して武田は早川を戦線に嵌め込み、ここに至って戦争を生み出す力学は働き、状勢は誰の手にも止められない段階へ突入した。広能組の倉元は槇原の命を狙うが、兄貴分の西条に裏切られ殺される。
作品の位置づけ
公開年としては『広島死闘編』の後に続く作品なのですが、制作されたのはこちらの方が先です。
『広島死闘編』は第一作『仁義なき戦い』の大ヒットを受けて急遽制作・公開された作品で、『代理戦争』の間に挟み込んでも問題無いようなアナザーストーリーになってるんですね。
公開順は『仁義なき戦い』➡『広島死闘編』➡『代理戦争』➡『頂上作戦』
制作順は『仁義なき戦い』➡『代理戦争』➡『広島死闘編』➡『頂上作戦』となっております。
ちなみに『広島死闘編』は、本作のストーリーに大きく関わる村岡組を中心とした内容なので、村岡組の組員などを知る上では先に観てもいいでしょう。でも、『頂上作戦』に直接かかわるストーリーではないので、観る順番としては、『代理戦争』と『広島死闘編』どちらを先に観てもOKです。

私は制作順の『仁義なき戦い』➡『代理戦争』➡『広島死闘編』➡『頂上作戦』で観ました。
解説
冒頭でもお伝えしました通り、本作は非常にサスペンスフルな内容となってます。
誰と誰が繋がっていて、誰をどのように裏切るのか。こういった面白さがある作品なんですね。もちろん前作に続いて派手なアクションもございます。

代理戦争というだけあって、広島のヤクザたちが、神戸の大きな組である明石組と神和会の間に挟まれ、山守組やその他のヤクザたちは混乱し、誰も信用できないできない状態へと陥っていきます。
相変わらず菅原文太演じる広能はとってもカッコいいんですが、金子信雄と田中邦衛演じる二人の卑怯さ、情けなさもより一層楽しめましたね。裏切りの連続、サスペンスフルな内容だけあって、ひとしおでした。
深作欣二が伝えたかったこと
本作もまた、ヤクザたちの抗争の中で、深作欣二監督が伝えたい思いが垣間見えました。それは、タイトル通りの「代理戦争」の愚かさ、そして裏切りの虚しさです。
この映画の舞台である昭和35年(1960年)は日米安全保障条約が締結された年です。
この条約の内容とは、米軍が引き続き日本に駐留することの他、日本の領域内で日米どちらかが武力攻撃を受けた場合は共同作戦をとること、日米それぞれの防衛力を強化することなどが決められました。 これに対し、アメリカの軍事戦略に日本が巻き込まれるおそれがあるという反対論が起こりました。
これがいわゆる安保闘争というやつですね。日本が戦争に巻き込まれないように反対する運動が日本中で起こっていたと。
米ソの代理戦争である、ベトナム戦争の真っ只中だったので、そりゃあもうこれ以上戦争の悲劇を繰り返したくないと思うのは当然だと思います。
前作の『仁義なき戦い』では、米軍が女性に乱暴するシーンから始まるので、広島では特に米軍へのネガティブなイメージは強いはずで、反対運動も苛烈を極めたに違いありません。
そして、『代理戦争』では広島のヤクザたちがより大きな組との間に挟まれ、抗争を様子で以て、現実の代理戦争の危うさと愚かさ、悲しさを描いているのであります。
特に印象的だったのが骨壺のシーンですね。

広能組の若衆である倉元が殺され、彼の葬儀で骨壺を持って帰る時に襲撃にあう場面です。
あれはあまりにも…、仁義が無さすぎる。悲し過ぎます。
若者の命や尊厳は、これでもかと軽んじられるし、そんな非道な行為ですら肯定されてしまう。
それが戦争というものなんですね。
そして結果としては何も残らない。ただ無駄な血が流れてしまっただけなのでした。
用語解説
本作には広島弁やヤクザならではの言葉がたくさん出てきますので、私が分からなかったものを一部ご紹介しておきます。
弓を引く:親分に反抗する、盾を突く
旅:よそ者
突破者:感情に流されて思うままに行動する人のこと
芋引く:怖気づいて尻込みする
木っ葉くらわす:こてんぱてんにする
すけちゃる:助ける
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます!
映画『仁義なき戦い 代理戦争』の解説をお届けしました。

シリーズの中でも、特にサスペンスフルな面白さのある作品なんだね。

しかしながら、タイトルの『代理戦争』が表すように、ベトナム戦争や安保闘争に対する強いメッセージを感じる作品です。
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