かつて、映画は「本」への入り口だった――『来る』に見た角川映画のDNA

映画

皆さんは、原作小説がある映画を観終わった直後に「今すぐ続きを知りたい、この世界に浸っていたい」と書店へ走りたくなったことはありますか?

bitotabi
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私にとって、2018年公開の映画『来る』がまさにそれでした。

スクリーンから溢れ出す圧倒的なエンタメ性に魅了され、その解像度を上げるべく、私はすぐに原作である澤村伊智氏の『ぼぎわんが、来る』を手に取りました。結果、そのままシリーズをすべて読破するという、幸福な「読書体験の連鎖」に引きずり込まれたのです。

この「映画に熱狂し、そのまま本の世界へ誘われる」という体験の正体を知ったのは、それから数年後のことでした。


2021年、父の言葉に「目から鱗」が落ちた日

きっかけは、2021年に開催された「角川映画祭」でした。

スクリーンでいくつかの名作を鑑賞した後、私と同じく映画や本を愛する父親と話す機会がありました。

そこで父が口にした一言に、私は文字通り目から鱗が落ちる思いがしたのです。

「角川はな、本を売るために映画を作ってたんやで」

今は、最初からファンの多い有名な小説や漫画があれば、映画製作側がその知名度を借りにいく形が主流に見えます。しかし、世の空気感はどこか奇妙です。本来は製作側が原作の力を必要としているはずなのに、いざプロジェクトが動くと「ついに実写化してやった(していただいた)」という、実写化を一段上の格付けのように扱う、空気を感じるのです。

しかし、かつての角川映画は逆でした。1977年の『人間の証明』で社会現象となったキャッチコピー、「読んでから見るか、見てから読むか。」この言葉に象徴される「本を売るために、映画を作る」という逆転の発想こそが、日本のエンタメ界を塗り替えた角川のDNAだったのです。


時代を作った風雲児・角川春樹の情熱

この巨大な戦略の中心にいたのが、稀代のプロデューサーであり、自らも監督として現場を指揮した角川春樹氏です。

その強烈すぎる個性や私生活の在り方は、時に激しい物議を醸し、今もって評価の分かれる人物かもしれません。しかし、彼がかつてのエンタメ界に遺した「映画を本への入り口にする」という発明の価値は、今なお色褪せることがありません。

当時の彼は、出版社の社長という枠を超えた存在でした。巨額の宣伝費を投じてテレビCMを打ち、映画を社会現象=「お祭り」へと昇華させる。自ら製作総指揮を執り、時には自らメガホンを取って、徹底的に「売れる仕掛け」を作り上げました。

その爆発力は、今の常識では測れない数字として残っています。

  • 『時をかける少女』(1983): 映画公開前、筒井康隆氏の原作は発表から15年以上が経過していましたが、映画のヒットと共に爆発的に売れ、累計で200万部を超える大ベストセラーに。
  • 『犬神家の一族』(1976): 映画を起点に、日本中に「横溝正史ブーム」が沸騰。角川文庫の横溝正史作品は、シリーズ累計で数千万部という天文学的な数字を叩き出したのです。

「映画を観た人間全員が、そのまま書店へ走る」。そんな魔法を日本中にかけたのが、角川春樹という男の執念でした。




原作を「消費」するか、読書へと誘うか

現代の映画化の在り方と「読書離れ」という現象は、深く結びついている気がしてなりません。今の実写化の多くは、本を読まない層に向けて、原作を映像として分かりやすく「消費」させて終わってしまうことが多いように感じます。

しかし、角川のDNAは違いました。映画という最高のお祭りで観客を興奮の絶頂まで連れていき、その興奮の続きを、あえて「本」という深淵に求めさせる。映画が原作にマウントを取るのではなく、映画が最高の「入り口」となって、読者を未知なる活字の世界へと送り出す。

私が『来る』をきっかけにシリーズ全巻を揃えたのは、まさにこの「角川マジック」に現代の文脈でハマった結果だと言えます。映画が原作を食いつぶすのではなく、原作へと続く道を力強く舗装してくれたのです。


今日の映学:次に映画館を出る時、あなたはどこへ向かうか

最後までお読みいただきありがとうございます。

映画製作者が原作の知名度にすり寄る今の時代だからこそ、かつての角川映画が持っていた「本を売るための情熱」が懐かしく、そして尊く感じられます。

一級の映画体験が、一冊の素晴らしい本との出会いを連れてきてくれる。 『来る』という作品に宿っていたその熱いDNAが、これからも形を変えて日本の映画界に受け継がれていくことを願っています。

bitotabi
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そのために、映画も本も積極的に消費していきたいと思います!

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