2024年、世界中を震撼させた映画『関心領域』。
壁の向こう側で起きている虐殺を、あえて「見せない」ことでその不気味さを際立たせたジョナサン・グレイザー監督。
その冷徹なまでの観察眼と、観る者を射すくめるような空間の支配力は、90年代のミュージックビデオ界ですでに完成されていました。
彼は音楽という既存の表現を自らのビジョンで塗り替え、文字通り「侵食」することで、数分間の映像を「剥き出しの深淵」へと変貌させます。

今こそ観るべき、彼の作家性の根源を紐解く3つの伝説的作品をご紹介します。

音楽好きなら一度は見たことがある、超有名なあのMVもあるよ!
ジョナサン・グレイザー:CM界の神童から映画界の怪物へ
グレイザーは演劇のデザインを学んだ後、CM制作でその名を轟かせました。彼の名を神格化させたのは、ギネスビールのCM『Surfer』。
押し寄せる荒波が馬の群れへと変貌する圧倒的なビジュアルは、今なお「史上最高のCM」のひとつに数えられます。
彼のキャリアを貫くのは、「実写の極限を突き詰め、視覚の常識をハックする」という異常なまでの執念です。たとえCGを使う場面(ギネスのCMなど)であっても、ベースとなるのは徹底的に追い込まれた実写のリアリティ。セットやロケーションの構造を物理的に設計し、俳優の肉体に過酷な負荷をかけることで生まれる「本物の違和感」こそが彼の武器です。MVという数分間の実験場で、彼がいかにしてその手法を研ぎ澄ませていったのか。
その変態的な(褒め言葉です)こだわりが爆発した3作を追います。
1. Jamiroquai – 『Virtual Insanity』 (1996)
――「動く壁」が暴く、制御不能な空間の不気味さ
- 「床」という錯覚を設計する: 多くの人が「動く歩道」だと思い込んだあの映像。実際は床ではなく「壁と家具(セット全体)」を人力で動かすという、アナログかつ緻密な計算に基づいています。カメラを壁に固定することで、相対的に「床が滑っている」という錯覚を現出させました。
- 映画的共鳴:システムに翻弄される人間 軽快なステップの裏で、いつ激突するか分からない壁が迫りくる。この「個人の力ではコントロール不能なシステム」への恐怖は、グレイザー作品に通底するテーマです。映画『アンダー・ザ・スキン』で獲物を無機質に処理していく視点や、『関心領域』の徹底的に効率化された死のシステムを描く冷徹な構図。その原点は、この逃げ場のない「動く箱」にあります。
2. Radiohead – 『Karma Police』 (1997)
――密室に充満する「業(カルマ)」と一酸化炭素
- 逃げ場のない一点透視図法: カメラを後部座席に固定し、観客を「追い詰める側」に仕立て上げる冷酷な構図。撮影中、トム・ヨークは排気ガスが充満する車内で意識を失いかけ、逃げる男を演じた俳優は足に注射を打って走り続けました。
- 映画的共鳴:加害の視点と因果応報 最後に火が燃え広がるシーンには「逆再生」が組み込まれ、炎が意志を持つ生き物のように車を捕らえます。これは、凄惨な現実から目を背け、「自分は安全な場所にいる」と信じる者の背後に、静かに破滅が忍び寄る恐怖の可視化です。『関心領域』で、平穏な家庭生活のすぐ裏側に地獄を配置したあの「視点の倫理観」は、すでにこの密室劇で完成されていました。
3. UNKLE – 『Rabbit in Your Headlights』 (1998)
――怪優ドニ・ラヴァン、その受難と覚醒の記録
- 「虚構」の中に「本物の苦痛」を混ぜ込む: トンネルを歩く男が、車に次々と撥ね飛ばされる。主演のドニ・ラヴァンは、スタントと実着(実際にぶつかること)の境界線を彷徨う過酷な撮影に挑みました。グレイザーはドニに実際に何度も車と接触することを要求し、彼の顔から「本物の困惑と痛み」を引き出したのです。
- 映画的共鳴:無関心という名の暴力 撥ねる側のドライバーは顔が見えません。この「暴力の匿名性」こそがグレイザーの描く地獄の本質です。『関心領域』でも、壁の向こうの悲鳴を「ただの雑音」として処理する人々の無関心が描かれました。ボロボロになった男が最後にすべてを拒絶し、超然とした存在へと変貌するカタルシスは、不条理な世界に対するグレイザーなりの最も過激な抵抗の形なのです。
今日の映学:短編に潜む「巨匠」の咆哮
ジョナサン・グレイザーにとって、音楽を自らの映画的実験の素材として使い、数分間に人間性の深淵を詰め込みました。
これらの映像に潜む「毒」に触れれば、なぜ彼が今の映画界で最も恐れられ、同時に熱狂的に愛される監督の一人なのか、その理由が痛いほど分かるはずです。

曲もまたいいんですよね。

あなたのお気に入りのMVは何~?
X(旧Twitter)はこちら
https://twitter.com/bit0tabi
Instagramはこちら
https://www.instagram.com/bit0tabi/
Facebookはこちら
https://www.facebook.com/bit0tabi/
noteはこちら
https://note.com/bit0tabi


コメント