『呪怨 白い老女』は、ジャパニーズホラーの金字塔「呪怨」シリーズの10周年を記念して製作された作品の一つです。
原点回帰を掲げつつも、これまでのシリーズとは一線を画す新たな恐怖を提示し、観る者に強烈な印象を残します。

個人的には、シリーズで最も恐いと感じました。

ファンを楽しませる演出もいいよね!
作品概要とあらすじ
本作は、三宅隆太監督がメガホンを取り、脚本を読んだ主演の南明奈がその怖さに泣いたという逸話が残るほど、恐怖が凝縮されています。
司法試験に落ちた息子が、一家5人を惨殺し、自らも命を絶った。その凄惨な事件現場に残されていたのは、犯人が死ぬ間際に録音したカセットテープだった。
「行きます。すぐ行きます…」
犯人の声に混じって録音されていたのは、不気味な少女の声。それは、今は高校生になったあかね(南明奈)が小学生の頃の親友、未来の声だった。未来はかつて、一家惨殺事件で首を切られて惨殺された被害者だったのだ。
幼い頃から強い霊感を持っていたあかねの前に、黄色い帽子をかぶり赤いランドセルを背負った、あの日のままの未来が現れる。少女が絶望の中で見たものとは一体…?
特定の家屋に縛られない、より拡散していく呪いの形と、生理的な不快感を伴う描写が特徴です。

観る者を追い詰める恐怖の三重奏
本作の恐怖演出は、以下の三つの要素が巧みに組み合わされることで、観る者を飽きさせず、精神的に追い詰めます。
- ジャンプスケアの巧みさ: ただ闇雲に驚かせるだけでなく、不穏な空気や音響で溜めを作り、観客の緊張が最高潮に達したところで一気に放出します。予期せぬ場所からの出現や、「見間違い」からの明確な恐怖への転換など、計算されたタイミングが特徴です。
- じっとりとした見せ方(精神的な不快感の追求): 直接的な暴力描写だけでなく、ムロツヨシ演じる男性の異常な執着や、バスケットボールを愛でる老婆の異様な描写など、観る者に独特な不気味さや生理的な違和感を抱かせる演出が散りばめられています。静寂の中に響く不気味な物音や、日常にじわじわと異物が侵食してくる描写は、観る者の心に深く突き刺さります。

- 手数の多さ(飽きさせない恐怖のバリエーション): わずか1時間程度の尺の中で、本作は通常の2時間ホラー映画に匹敵する、いやそれ以上の圧倒的な恐怖のバリエーションを提示します。複数の登場人物の視点や、一見独立したように見える怪異エピソードが複雑に絡み合い、最終的に一つの大きな呪いの連鎖へと収束していく構造を持っています。この密度と「連鎖」によって、観客の予測を良い意味で裏切り、常に不安定な状態に置くことで、一本調子ではない多角的な恐怖が次々と畳み掛けられます。

時空を超えた呪いの伝播と媒介:テープとウォークマンの示すもの
本作の恐怖をより複雑で根深いものにしているのが、カセットテープと磯部篤のウォークマンから聞こえる未来の声です。
家族惨殺事件を起こした男が残したテープには、事件以前の未来の声が録音されており、それが男の死に際に聞こえていたという描写があります。そして、そのテープから、高校生になったあかねが、亡くなったはずの未来の声を再び耳にします。
さらに、磯部篤のウォークマンからも同じく「いきますから」という未来の声が聞こえることで、単なる音源を超えた「呪いの媒介」としての機能が浮かび上がります。
- 呪いが時間を遡り、あるいは超越する: これらの描写は、呪いが特定の時間軸に縛られず、過去、現在、未来へと自在に影響を及ぼしていることを示唆します。未来の声が事件発生時やその後に聞こえることで、すでに「未来の時点」で呪いの影響を受けていることが示唆されます。
- 「共有された幻聴」あるいは「感染する狂気」: ウォークマンから聞こえる声は、聞いている人物にしか認識できないものかもしれません。しかし、その声が、磯部篤を異常な執着へと駆り立て、最終的に事件へと導いたと考えると、これはもはや単なる幻聴ではなく、呪いによる精神の汚染、あるいは狂気の感染と捉えることができます。
- 呪いの「定着」と多層的な伝播: テープやウォークマンは、未来の声やそれにまつわる恐怖が、まるで残像のように様々な場所や媒体に「定着」し、複雑に絡み合いながら呪いを伝播させていく様子を象徴しています。これにより、呪いから逃れる術がないという絶望的な感覚が観る者に植え付けられます。
ファンへのサプライズと恐怖の緩急:俊雄のカメオ出演
本作の緊張感あふれる展開の中で、多くの観客が思わず和んでしまったのが、お馴染みの俊雄のカメオ出演です。これは単なるお遊びではなく、ホラー作品における「外し」のテクニックとして機能しています。
長時間の恐怖で張り詰めた観客の緊張を一時的に解放することで、その後に続く恐怖をより際立たせる効果があります。また、長年のシリーズファンにとっては、愛着のある俊雄が予期せぬ形で現れる嬉しいサプライズであり、作品への愛着を深めるきっかけにもなります。このカメオ出演は、作り手の粋な計らいであり、恐怖演出の緩急とファンサービスという二重の意味を持つ、印象的な瞬間と言えるでしょう。
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます。
『呪怨 白い老女』は、従来の呪怨シリーズの根底にある「怨念の伝播」というテーマを継承しつつ、新たな恐怖のアイコン「白い老女」と、より拡散していく呪いの形を提示しました。
ジャンプスケア、じっとりとした不気味さ、手数の多い恐怖演出、そして時空を超えて絡み合う呪いの複雑性が織りなす本作は、シリーズの中でも特に「怖い」と評されるにふさわしい、独創的な恐怖体験を提供します。

1時間に凝縮された極上の恐怖をぜひ味わってほしいです。

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