映画の「ディレクターズカット版」って、どういう意味かご存じでしょうか。

えー、実はよく分かってないかも…。

映画玄人の皆さんに中には、当然知っている人も多いと思いますが、今回は「ディレクターズカット版」の意味について解説します。
もしかしたら、「劇場の規制などによって、特定の過激なシーンを切り取ったものだ」と誤解している人も多いのではないでしょうか?
正しくは、ディレクター(Director)=監督、カット(Cut)=編集という意味で、監督自身が新たに編集し直したバージョンなんですね。
なぜ、このような誤解が生まれてしまったのか。その背景には、特定の作品のインパクトや、当時の時代背景が大きく関係していました。
ディレクターズカット版、本来の意味は?
まず、ディレクターズカット版の本来の意味を確認しましょう。これは、その名の通り「ディレクター(監督)が自身の裁量で編集し直したバージョン」を指します。
劇場公開版は、配給会社の意向、上映時間の制約、レーティング審査などの様々な要因によって、監督の意図とは異なる形で編集されることが少なくありません。しかし、ディレクターズカット版は、監督が「これが自分が本当に作りたかった作品だ」「最も完全な形だ」と考える、いわば監督の最終完成形なのです。
そのため、ディレクターズカット版には、以下のような特徴が見られます。
- 劇場公開版でカットされたシーンの復元: 登場人物の心情を深く描くシーン、物語の背景を詳しく説明するシーン、あるいは監督が作品のメッセージに不可欠だと考えた過激な描写などが追加されることがあります。
- 物語の構成やテンポの再調整: 単にシーンが追加されるだけでなく、既存のシーンの順番が入れ替わったり、全体のテンポが監督の意図した通りに調整されたりすることもあります。
重要なのは、必ずしも「長くなる」とは限らないという点です。監督の意図によっては、劇場公開版よりも短くなるケースも存在します。
『エクソシスト』が誤解を生んだ? 2000年代の衝撃
では、なぜ「ディレクターズカット版=特定のシーンを切り取ったもの」という誤解が生まれたのでしょうか。その大きなきっかけの一つに、2000年11月23日に日本で公開された『エクソシスト ディレクターズ・カット版』の存在があると考えられます。

このバージョンで特に注目されたのは、劇場公開時にはカットされていた「スパイダーウォーク」と呼ばれる衝撃的なシーンの追加でした。リーガンが悪魔に憑かれた状態で階段を逆さまに這い降りてくる、あのぞっとするような描写です。
じゃあ、むしろ逆ではないか、ディレクターズカット版の意味が誤解されることはなかったのではないかと思われるかもしれませんね。
しかし、この『エクソシスト』のケースが複雑だったのは、単に「幻のシーンが追加された」だけでなく、「オリジナル版(劇場公開版)にあったはずのシーンが無くなった」という情報も同時に交錯したことでした。

かくいう私もこの誤解をしていました。特にエクソシストは「失神者が出た」とか「サブリミナルのシーンを観ると呪われる」といった噂が多く飛び交いましたので。
監督であるウィリアム・フリードキン自身は、かつて劇場公開版が「完璧なバージョン」だと考えていた時期もあり、ディレクターズカット版は原作者の意向も強く反映されたものでした。
このように、「追加されたシーン(スパイダーウォークなど)」と「無くなった(変更された)シーン」の両方の情報が入り乱れました。そして、インターネットがまだ広く普及していない当時の情報が限られた環境では、多くの観客が「ディレクターズカット版」を「劇場公開版では、過激さや残虐さゆえに規制で “カット”(切り取られた)された部分」だと誤解して認識するようになったのです。特に、衝撃的なシーンが追加された事実に注目が集まることで、この「カット=封印された部分」というイメージが、一層強調されてしまいました。
サブスクのない時代と「カット=封印」の誤解
さらに、当時の映画を取り巻く環境も、この誤解を助長しました。
- サブスクがなかった時代: 今のようにサブスクサービスで気軽に複数のバージョンを見比べられる時代ではありませんでした。劇場で観た後、VHSやDVDの発売を待ち、ようやく手に入れても、細部まで見比べるのは至難の業でした。
- 情報源の偏り: 映画雑誌や口コミが主な情報源だったため、「あのシーンは規制でカットされたらしい」「ヤバいから封印された」といった憶測や都市伝説が広まりやすかったのです。特にホラー映画は、その特性上「見えない恐怖」や「隠された残虐性」といった噂話と親和性が高く、こうしたデマが作品の魅力を増幅させる一方で、誤った認識を広める温床となりました。
- 「カット」という言葉の誤解: 本来、映画編集における「カット」は、シーンの切り替わりや編集作業全般を指す言葉ですが、一般的には「削除する」「切り捨てる」というネガティブな意味合いで受け取られがちです。ここに「ホラー映画で過激なシーンがカットされた」という情報が結びつくと、「カット=ヤバいシーンの封印」というイメージが強く形成されてしまったのです。
これらの要因が重なり、ディレクターズカット版が「劇場公開版で規制のために切り取られた部分」という、ある種の誤解を伴うイメージとして定着してしまったと考えられます。
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます。
ディレクターズカット版は、監督が作品に込めた真の意図やメッセージをより深く理解するための貴重な機会です。
もし、「特定のシーンが切り取られたもの」という先入観があった方は、ぜひ一度、純粋な気持ちで作品を鑑賞し直してみてはいかがでしょうか。

多くの場合は、監督の意思が色濃く反映された良作であるケースになってると思います。実を言うと「エクソシスト」はディレクターズカット版の方が微妙ですが…。

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