ベトナム戦争は、アメリカ史上最も長く、そして最も意見が分かれた戦争として、その後の文化や社会に深い影響を与えました。
数多くの映画がこの紛争を題材に制作され、戦場の狂気、兵士たちの葛藤、そして戦争がもたらす人間性の喪失を描き出してきました。

その中でも特にオススメしたい5作品をピックアップし、それぞれの魅力と時代への影響に迫ります。

名シーンも紹介するよ!
1. グッドモーニング、ベトナム (Good Morning, Vietnam)

項目 | 詳細 |
公開年 | 1987年 |
監督 | バリー・レヴィンソン |
脚本 | ミッチ・マークウィッツ |
キャスト | ロビン・ウィリアムズ、フォレスト・ウィテカー、タング・タン・チャン |
あらすじ | 1965年、サイゴンに派遣された米軍放送のDJエイドリアン・クロンアウアーは、その型破りな放送スタイルと反戦的なユーモアで兵士たちの心を掴む。しかし、彼の陽気な放送の裏には、ベトナム戦争の現実が深く刻まれていく。 |
ポイント: 実際の米軍放送DJ、エイドリアン・クロンアウアーの実体験が基。主演のロビン・ウィリアムズがアドリブ満載のラジオ放送シーンで才能を爆発させ、アカデミー主演男優賞にノミネートされました。戦争の悲惨さを直接的に描くのではなく、ユーモアと音楽を通して兵士たちの日常と精神状態を表現しています。
見どころシーン:
- DJブースでのアドリブ放送: ロビン・ウィリアムズの真骨頂ともいえる、怒涛のアドリブトークとモノマネの連続。兵士たちに笑顔と希望を与えるその姿は、この映画の象徴です。
- 若い米兵を見送るシーン: 故郷へ帰る若い兵士たちを見送るクロンアウアーの姿は、戦争の悲哀と希望を感じさせます。
2. プラトーン (Platoon)

項目 | 詳細 |
公開年 | 1986年 |
監督 | オリバー・ストーン |
脚本 | オリバー・ストーン |
キャスト | チャーリー・シーン、トム・ベレンジャー、ウィレム・デフォー、フォレスト・ウィテカー |
あらすじ | 大学を中退し、愛国心からベトナム戦争に志願したクリス・テイラーは、最前線に送られる。そこで彼は、理想とはかけ離れた現実、兵士たちの間の対立、そして自らの内なる悪と向き合うことになる。 |
ポイント: 監督のオリバー・ストーン自身がベトナム戦争に従軍した経験に基づいています。極めてリアルで生々しい戦闘シーンと兵士たちの心理描写が特徴。アカデミー作品賞、監督賞を含む4部門を受賞し、ベトナム戦争映画の金字塔として大きな影響を与えました。
見どころシーン:
- 村での虐殺と葛藤: 兵士たちが村を襲い、罪のない村人を虐殺するシーンは、戦争の狂気と人間の残酷さをまざまざと見せつけます。
- エリアスというキャラクターの魅力: 困難な状況下でも人間性を失わず、兵士たちに希望を与えようとするエリアス軍曹の存在は、地獄のような戦場における一筋の光として描かれています。
3. ディア・ハンター (The Deer Hunter)

項目 | 詳細 |
公開年 | 1978年 |
監督 | マイケル・チミノ |
脚本 | マイケル・チミノ、デリック・ウォッシュバーン、ルイス・ガーフィン |
キャスト | ロバート・デ・ニーロ、クリストファー・ウォーケン、ジョン・カザール、メリル・ストリープ |
あらすじ | ペンシルバニア州の製鉄所で働くロシア系アメリカ人の若者たちが、ベトナム戦争に徴兵される。彼らは故郷の安穏とした生活から一転、戦場の地獄を経験し、その精神は深く傷つけられる。 |
ポイント: ベトナム戦争によって引き裂かれる人々の絆と精神的ダメージを克明に描いた作品。特に有名なのは、捕虜がロシア式ルーレットを強制されるシーン。アカデミー作品賞を含む5部門を受賞し、戦争が故郷に残された人々に与える影響まで深く掘り下げています。
見どころシーン:
- 結婚式と出発前の酒盛り: 戦争に行く前の、故郷での幸せな日常が丁寧に描かれ、その後の悲劇との対比が際立ちます。
- デ・ニーロの鹿狩りの服装: 鹿狩りのシーンでロバート・デ・ニーロが着用している、緑色のマウンテンパーカーは、彼のキャラクターのタフさと自然への親和性を象徴するアイテムとして人気です。
4. 地獄の黙示録 (Apocalypse Now)

項目 | 詳細 |
公開年 | 1979年(劇場公開版)/2001年(特別完全版)/2019年(ファイナルカット) |
監督 | フランシス・フォード・コッポラ |
脚本 | ジョン・ミリアス、フランシス・フォード・コッポラ、マイケル・ハー |
キャスト | マーティン・シーン、マーロン・ブランド、ロバート・デュヴァル、デニス・ホッパー |
あらすじ | ベトナム戦争末期、軍の特殊部隊のウィラード大尉は、ジャングル奥地で独自の王国を築き、狂気の神と化したカーツ大佐の暗殺を命じられる。彼は船でメコン川を遡り、闇の奥へと進んでいく中で、戦争の狂気と人間の本質に直面する。 |
ポイント: ジョゼフ・コンラッドの小説『闇の奥』をベトナム戦争に置き換えた作品。制作は困難を極め、「地獄」と称されるほどでした。単なる戦争映画の枠を超え、人間の精神の深淵を描いた芸術作品として高く評価されています。サウンドデザインや映像美、心理描写の深さが際立っています。
見どころシーン:
- ヘリコプターによる村への攻撃とワルキューレの騎行: ヘリの爆音とワルキューレの音楽がシンクロし、戦場の狂気と美しさを同時に表現しています。
- 闇の奥へと進むウィラード: カーツ大佐の根城である寺院に近づくにつれ、夜のジャングルがますます暗く、不穏な雰囲気に包まれていきます。真っ暗な中を寺院へと進んでいくシーンは、ウィラードの精神が戦争の深淵へと引きずり込まれていく様を象徴しており、非常に印象的です。
5. フルメタル・ジャケット (Full Metal Jacket)

項目 | 詳細 |
公開年 | 1987年 |
監督 | スタンリー・キューブリック |
脚本 | スタンリー・キューブリック、マイケル・ハー、グスタフ・ハスフォード |
キャスト | マシュー・モディーン、ヴィンセント・ドノフリオ、アダム・ボールドウィン、R・リー・アーメイ |
あらすじ | 映画は二部構成。前半は、海兵隊の訓練施設における過酷な新兵訓練を描き、人間性を剥奪されていく兵士たちの姿を映し出す。後半は、ベトナム戦争最中のテト攻勢下のフエ市で、ジャーナリストとして従軍する主人公ジョーカーが、戦争の現実と狂気に直面する。 |
ポイント: スタンリー・キューブリック監督による、戦争が兵士の精神にもたらす影響を深く掘り下げた作品。前半の訓練所のシーンでは、R・リー・アーメイ演じるハートマン軍曹の、新兵を徹底的に罵倒し人間性を破壊していくさまが圧巻です。キューブリックらしい徹底した計算された映像美と、人間の尊厳が失われていく過程を冷徹に描いています。
見どころシーン:
- ハートマン軍曹の訓練シーン: R・リー・アーメイの鬼気迫る演技と、新兵たちが精神的に追い詰められていく様子は、この映画の最も記憶に残る部分です。
- ミッキーマウスの頻繁な登場: この映画では、ミッキーマウスが意外なほど頻繁に登場します。有名な「ミッキーマウス・マーチ」の替歌での行進はもちろん、ジャーナリストたちが集まる会議室にはミニチュアのミッキーマウス像が置かれ、ハートマン軍曹のセリフにも「ミッキーマウス」という言葉が出てきます。これは、当時のアメリカ文化を象徴するディズニーのプロパガンダ的側面を揶揄したもの、あるいは無邪気な子供時代を象徴するキャラクターが、極限状態の兵士たちの間でいかにねじ曲がった形で現れるかを表現しているとも考察できます。
負の歴史に立ち向かったアメリカ人監督たちの偉業
今回ご紹介した5作品の監督は、いずれもアメリカ人です。
ベトナム戦争は、アメリカにとって極めて複雑で、多くの国民がその意味や目的を見出せずに苦しんだ「負の戦争」でした。自国の過去の過ちや、兵士たちが経験したであろう深い心の傷、そして戦争が社会にもたらした分断と混乱――。そうした触れたくない、目を背けたいはずの負の側面に、これほどまでに深く、そして多角的に向き合った彼らの創造力と探求心は、まさに偉業と言えるでしょう。
彼らは単に戦場の様子を再現しただけでなく、戦争が人間の尊厳をいかに蝕むか、そしてその経験が個人の人生や社会全体にどのような影響を及ぼすかを、自らの倫理観と情熱、そして時には戦争への憎悪を込めて描き出しました。これらの作品は、アメリカという国が自らの歴史と向き合い、教訓を得ようとする誠実な姿勢の表れでもあります。
彼らの作品を通して、私たちはベトナム戦争の悲劇を追体験し、戦争の残酷さと平和の尊さを改めて深く考えることができます。これらの映画は、エンターテイメントとしてだけでなく、後世に語り継ぐべき歴史の記録としても、その価値は計り知れません。
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます。
多くの戦争映画が、反戦の想いを込めて作られた作品ですが、ベトナム戦争を扱った映画というのは特にアメリカの不正義を突きつけるような、より力強いメッセージがこもっています。

ベトナム戦争を扱った映画というだけで、制作者には敬意を払うべきものだなと思っています。

すごく勇気と決意が必要なジャンルなんだね。
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