映画鑑賞の楽しみの一つに、公開前のポスターチェックがありますよね。
今回は、そんな映画ポスターのデザインから、日本とオーストラリアなど、海外版とを比較して「魅せ方」の違い、そして近年の興味深い変化について考えてみたいと思います。

私、実は『サブスタンス』を見逃しちゃったんですよ。

え、どうして?!めっちゃ好きそうじゃん!

その時ちょうどオーストラリアに滞在してて、『サブスタンス』が特に注目すべき作品だと思えなかったのよね。その原因の一つとして、ポスターがあると思うんだ。
『The Substance』ポスター比較:デザインそのものが大きく異なる「魅せ方」の対比
きっかけは、先日公開されたデミ・ムーア主演作『The Substance(サブスタンス)』のポスターでした。
まずはこちらの2枚をご覧ください。
オーストラリア版ポスター

このポスターを見た時、正直なところ「一体どんな映画なんだろう…」と情報が少なすぎて、スルーしてしまいそうになったんです。
背中に痛々しい縫合痕のある女性が描かれ、タイトルのみが大きく配置された、非常にアート性の高いビジュアルで、スタイリッシュでカッコいいのですが、主演がデミ・ムーアだということすら、この1枚からは全く分かりませんでした。
一方、日本のポスターはというと…
日本版ポスター

日本のポスターは、一見すると「文字が多くてごちゃごちゃしている」と感じる方もいるかもしれません。しかし、デミ・ムーアとマーガレット・クアリーの顔が大きく配され、上部には「かわいいが暴走して、阿鼻叫喚」という強烈なキャッチコピー、さらにはアカデミー賞受賞マークまで入った、非常に情報量の多いデザインです。
この『サブスタンス』の日本版ポスターを見た時、「あれ?日本のポスターもアリかも?」と個人的な印象が変わったんです。
何しろ、主役が誰なのかが一目瞭然で、映画の雰囲気や内容もキャッチコピーでしっかり伝わってくる。結果的に、「これは見逃せない!」と強く惹きつけられました。
『The Substance』の例では、海外版と日本版でデザインの方向性が大きく異なっているのが特徴的です。
海外版は作品のコンセプトを象徴的に表現するアート性重視、日本版は出演者や内容を明確に伝える情報伝達性重視、といった対比が見て取れます。
『28 Years Later』ポスター比較:海外とほぼ変わらない「いい塩梅」のデザイン
では、続いてダニー・ボイル監督とアレックス・ガーランド脚本のタッグで話題の新作『28 Years Later(邦題:28年後…)』のポスターも見てみましょう。
海外版ポスター

日本版ポスター

こちらの『28年後…』のポスターを見ると、『The Substance』とは対照的で、海外版と日本版が非常に近いデザインを保っているのが分かります。
日本のポスターも頭蓋骨の山を登る人物が描かれたビジュアルをそのままに、スッキリしていて、海外版の持つクールな印象を損なっていませんよね。
監督・脚本家の情報やキャッチコピーについてもほぼ同じ。これらは全体のデザインを邪魔しないよう、非常にバランス良く配置されています。
日本のポスターは「親切設計」?そして進化する「クールさ」
これまで日本の映画ポスターに対して、「文字が多くてダサい傾向があるな…」と感じていた方もいるかもしれません。しかし、『The Substance』の日本版のように情報量を増やすことで、「自分の好みを見逃しにくい」という、観客にとっての親切さや分かりやすさを提供している側面があると言えます。
一方で、『28年後…』の日本版のように、海外版のクールなデザインをほぼそのまま採用しつつ、日本市場に必要な情報を「いい塩梅」で加えるという進化も見られます。これは、国際的なデザインのトレンドを取り入れつつ、映画本来の魅力をストレートに伝えたいという、新しい試みであり、非常に好ましい傾向だと感じています。
ポスターにずれが無い時のホントの理由
『28年後…』は日本での公開と、世界での公開にほとんどずれがありません。一方、『サブスタンス』は大きく遅れて公開されることになりました。
海外映画が日本で公開される際、公開日が本国とずれることはよくあります。
そして、その公開日のズレが、ポスターデザインの「いじる猶予」に影響するということも考えられます。
日本の海外映画の公開が遅れる主な理由としては、以下のような点が挙げられます。
- 字幕・吹き替え版の制作期間: 言語の壁があるため、当然ながら翻訳作業と、吹き替え版の場合は声優のキャスティング・収録に時間がかかります。
- 宣伝戦略の練り直し: 海外での公開後の反響や批評、興行成績などを踏まえ、日本市場に合わせたプロモーション戦略を練り直す時間が必要です。
- 「箔付け」の機会: 特にアカデミー賞などの大きな映画賞シーズンを跨ぐ場合、受賞結果を待ってから公開することで、「〇〇賞受賞!」といったキャッチコピーを付けて宣伝効果を高める狙いがあります。これは、興行収入を最大化するための重要な戦略です。
- スクリーンの確保: 日本の映画館のスクリーン数は、他の国に比べて不足しているという指摘もあり、作品数の多さから公開枠の調整に時間がかかることもあります。
これらの理由から、多くの海外映画は、本国公開から数ヶ月~半年、場合によっては1年以上遅れて日本公開されることがあります。
公開時期のズレとポスターデザインの関係
この「公開日のズレ」が、ポスターデザインにどう影響するかというと、
- 公開が大きく遅れる場合:
- 海外での評価やトレンドを踏まえ、日本独自のポスターをゼロからデザインする時間的余裕が生まれます。『The Substance』の日本のポスターのように、出演者の顔を大きく出し、具体的なキャッチコピーを多用するといった、情報重視の「日本向けデザイン」をじっくりと制作する時間があると言えます。これは、日本の配給会社が、より確実に観客にアピールするための戦略的な判断の結果と言えるでしょう。
- 公開が比較的近い場合:
- 海外での公開と近い時期に日本でも公開される場合、上記のような「いじる暇」が少なくなるため、海外版のポスターデザインをほぼそのまま踏襲するケースが多くなります。『28年後…』のポスターのように、ミニマムな文字情報追加に留めることで、デザイン変更にかかる時間やコストを抑えつつ、作品の世界観を早期に伝えることができるのだと思います。これは、世界的な話題性をタイムリーに日本に届けたいという意図もあるでしょう。
今日の映学
最後までお読みいただきありがとうございます。
映画ポスターは、単なる宣伝ツールではなく、その国の文化やマーケティング戦略、そして観客の特性が表れる興味深い「作品」だと改めて感じました。
あくまで私の考察によるところが大きいので、その点はご了承ください。

皆さんはどちらのタイプのポスターがお好みですか?

ぜひ、次に映画館に行った際は、ポスターにも注目してみてくださいね!
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