先日、第49回日本アカデミー賞にて優秀アニメーション作品賞を受賞し、大きな注目を集めている映画『ひゃくえむ。』を鑑賞しました。
SNSでもその圧倒的な熱量が話題となっていましたが、現在はNetflixでも配信されており、自宅でこの衝撃を体感できる最高のタイミングです。「走る」という極めてシンプルな行為が、これほどまでに残酷で、かつ美しいものなのか。観終えた後、しばらく動けなくなるほどの体験でした。

思い切り走りたくなりました。あと、スポーツに対して冷めた自分に対する反省の想いも込み上げましたね…。

見どころを解説していくよ!結末や大事な部分に関するネタバレはないからね。
作品概要:岩井澤健治監督が放つ、新たな「活動マンガ」
本作は、世界を驚かせたアニメーション映画『音楽』の岩井澤健治監督が、魚豊先生の傑作漫画を映像化した作品です。
- 公開年:2025年
- 監督・脚本・作画監督:岩井澤健治
- 原作:魚豊(『チ。―地球の運動について―』)
- キャスト:松坂桃李、染谷将太 ほか
独自の手描き感溢れる映像は、まさに「活動マンガ」と呼ぶにふさわしい生々しい躍動感に満ちています。物語は、生まれつき足が速かったトガシという「持つ者」の葛藤と、執念で追いすがる「持たざる者」の覚醒が交錯し、予想もつかない熱量で加速していきます。

魂を揺さぶる名言の数々
本作を語る上で欠かせないのが、胸に突き刺さるようなセリフの数々です。劇中で放たれる言葉には、スポーツの枠を超えた「生の哲学」が宿っています。
「俺知ってるんだ。大抵のことは100mを誰よりも速く走れば全部解決する」
若き日の無垢な万能感が凝縮された言葉です。大人になるにつれて失ってしまう、あの頃のきらめきを思い起こさせ、胸が締め付けられるような感覚に陥りました。
「私は生物です いずれ死ぬ そして二度と生まれてこない 理由はそれだけです」
走る理由を問われた際のこの冷徹なまでの自己認識が、かえって凄みを感じさせます。
「結論から言うと不安は対処すべきではない。人生は常に失う可能性に満ちている。そこに命の醍醐味があります。恐怖は不快ではない。安全は愉快ではない。不安とは君自身が君を試す時の感情だ。栄光を前に対価を差し出さなきゃいけない時、ちっぽけな細胞の寄せ集めの人生なんてくれてやればいい。君がやりたいことはなんですか」
不安を「対処すべき負のもの」ではなく「醍醐味」と言い切る死生観。何かを成し遂げようとする者に突きつけられる、極限の問いです。
「希望 失望 栄光 挫折 疲労 満足 焦燥 達成 そして 喜怒哀楽 すべてを100mに詰め込んで極上の10秒を味わってください」
わずか10秒程度の時間に人生のすべてを叩き込む。その純度の高さに痺れます。

これらのセリフのほとんどが、財津というキャラクターのセリフです。日本のトップランナーである彼のセリフは、かなり痺れます。

没入感を加速させる表現の力
本作の映像美は、アスリートの筋肉の躍動や焦燥感を、手描き特有の歪みを持って視覚化しています。
また、特筆すべきは松坂桃李さんと染谷将太さんの演技です。
鑑賞中、お二人が声を当てていることに全く気づかなかったほどキャラクターと声が一致しており、その没入感のおかげで作品の世界に完全に引き込まれました。
スポーツに対する「冷めた視点」を打ち砕く熱量
実を言うと、私はこれまでスポーツ観戦に対してどこか冷めたところがありました。 特に関西で生活していると、日常的に野球の話題が溢れかえり、職場でも熱心なファンに囲まれます。「どこのファンですか?」という問いが挨拶代わりになるほどの熱気に、上京して一歩引いた視点を持った時、「あの熱狂は少し異常だったのではないか」と冷静になってしまったのです。
それは陸上競技に対しても同様でした。結局は天性の才能がある者が輝くだけの世界ではないか。特に短距離走なんてその最たるもので、工夫や知識よりも「持って生まれたもの」が全て。挙句の果てに、怪我で欠場する選手を見ては「自己管理が甘いのではないか」とさえ思っていました。
しかし、『ひゃくえむ。』を観て、その考えは根底から覆されました。
あまりにも残酷なほど勝ち負けがはっきりした世界。そこでトップを走る者が怪我やアクシデントに見舞われることが、どれほど絶望的で、どれほどの重みを伴うことなのか。あの極限の精神状態で走り続けることの凄絶さを突きつけられ、自分のこれまでの無理解を恥じるような、反省に近い感覚を覚えました。
今日の映学:10秒間に人生を刻むということ
最後までお読みいただきありがとうございます。
かつて私が抱いていた「ただ走るだけ」という冷ややかな認識は、この映画が放つ圧倒的な熱量によって焼き尽くされました。
本作は、何かに命を懸けることの危うさと美しさを描いた人間ドラマです。
私のように、スポーツの熱狂に一歩引いてしまう人にこそ、この劇薬のような一作を観てほしい。

100メートルという極限の10秒間に、どれほどの人生が詰め込まれているのか。

観終えた後、あなたの世界の見え方も、きっと変わっているはず!
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