現在、ハリウッドはかつてない混迷の中にあります。
ワーナー・ブラザースの買収・統合を巡る争奪戦は、単なる企業の合併を超え、トランプ政権による人事介入や規制の影が色濃く差す政治劇へと変貌しました。
大手スタジオが次々と政権のコントロール下に置かれ、表現の自由が資本の論理で揺らぐ中、私たちは新作を観る際、期待よりも先に「この作品はどちらを向いているのか」という緊張感を抱かざるを得ません。
Netflixのランキング上位に居座る本作『ウォー・マシーン』。
アメリカ軍によるイラン攻撃とほぼ同時期に公開された背景があり、私は戦意を鼓舞するものか、あるいはその愚かさを描くものかと、緊張感を持って鑑賞を始めました。

いつもは作品を観る前に監督や脚本、あらすじなどの作品概要を把握してから観る私ですが、今回は予備知識を一切排し、静かな緊張の中で向き合った107分でした。

そこに見えたのは、今の時代ならではの不自由さと、それに対するNetflixなりの「解答」だったんだね。
作品概要
- 監督・脚本:パトリック・ヒューズ
- キャスト:アラン・リッチソン、デニス・クエイド、ステファン・ジェームス、ジェイ・コートニー
- あらすじ: アフガニスタンの戦地で弟を亡くし、自らも深い傷を負った主人公。弟との約束を果たすため、レンジャー志願の年齢上限ギリギリで過酷な選抜プログラム「RASP」に挑みます。「81」という番号で呼ばれる主人公たちは、極限の訓練を通じて「戦争の道具」へと作り替えられていきます。しかし、最終試験の地で彼らが遭遇したのは、これまでの軍事常識を遥かに超越した、未知なる圧倒的な「脅威」でした。

次項からネタバレありの解説になります。
英雄という虚像と、狂ったコンパス
本作を観て強く感じるのは、近年の映画にはなかった奇妙な手触りです。未知の脅威を前にコンパスが狂う演出は、名作『未知との遭遇』へのオマージュを思わせ、閉鎖空間での狩りは『プレデター』に近い緊張感を漂わせます。こういった要素でもって映画好きの感性を刺激しつつ、SFとしてもアクションとしても大変満足度の高い映画だと言えるでしょう。しかし、そのエンターテインメント性の底流には、今の時代ならではの危うさが横たわっています。
主人公は、弟を救えなかった真実を抱えながら、英雄として勲章を得てしまった自分に葛藤しています。「Finish line(ゴール)」へ辿り着くことに執着する彼の姿は、強大な敵との対峙を通じてドラマチックに昇華されます。それは、個人の成長や絆という美談の形を借りながら、結果として戦争という行為を肯定的に描き出す、力強い戦意高揚の側面を反映しているようにも見えます。

補足:ラストの「石」と邦題の違和感
ここでは一旦、純粋に映画としての解説を。
物語の終盤、主人公が絶望的な状況を打破するために用いた「石」。あれは建設現場に放置されていたアスファルトの充填材や砂利を用いた、文字通りの漏れ止め(Stop Leak)でした。高度なテクノロジーの塊に対し、原始的な詰物で排気口を塞ぎ自爆に追い込む決着は、この作品における数少ない物理的な現実を突きつけるシーンでした。
また、日本版の『未知なる侵略者』という副題についても触れておく必要があります。原題の『War Machine』という簡潔な言葉は、兵器へと作り替えられていく兵士たちへのミスリードを誘う批評的なタイトルですが、邦題はその本質を鑑賞前から露呈させてしまっており、非常に惜しまれます。
今日の映学:Netflixが選んだ「中道」という名の回答
結局のところ、本作はトランプ政権下の不自由な表現規制に対し、真っ向から抗うものではありませんでした。むしろ、随所に権力側への配慮や「気遣い」が透けて見え、どちらかと言えば戦意高揚の側面に足を踏み出した、極めて中道的な立ち位置を選んだのかなと私には見えました。
配信プラットフォームという巨大な勢力が、この混迷の時代に「この程度の温度感」で解答を出したという事実。私たちはその意味を、映画という枠組みを超えて注視し続ける必要があります。

流石に、あまりにも渦中である今は、反政権とかリベラリズムが強すぎる作品は描きにくいでしょう。しかしその一方で、今こそそういうメッセージに富んだ作品が必要な気もして残念ではあります。今は「見」の姿勢でも、ゆくゆくは…。そんな強くてカッコいいNetflixであることを願うばかり。

まあ、映画としては結構面白いから、気を抜いて観る分には十分だよ。でも、兵士ってのがやっぱり気になるよね。やっぱり中道を歩むつもりなのかも。
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