チャップリン『午前一時』サイレントコメディの傑作に隠された魅力

映画

チャールズ・チャップリンの1916年の短編映画『午前一時(One A.M.)』を観ると、その冒頭のタクシーのシーンを除けば、ほぼ全編がチャーリーの一人芝居で構成されていることに驚かされます。

セリフがないサイレント映画でありながら、チャップリンの卓越した身体能力と表現力が光るこの作品は、まさに肉体派コメディの金字塔です。

bitotabi
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今回の記事では初期の作品である『午前一時』の見どころや制作背景について詳しく解説していきます。

ダニー
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まずはあらすじから!

『午前一時』あらすじ

深夜、泥酔した紳士(チャールズ・チャップリン)がタクシーで自宅に帰り着きます。タクシー運転手との短いやり取りの後、彼は広々とした邸宅の鍵を開け、一歩足を踏み入れます。しかし、ここからが彼の悪夢の始まりでした。家の中のあらゆる家具や置物、そして階段が、まるで意思を持っているかのように彼の行く手を阻みます。ベッドにたどり着こうとしては転び、置物を倒し、絨毯に足を取られ、何度も階段から転げ落ちる――。たった一人で自宅と格闘する彼の姿は、観客を爆笑の渦に巻き込みます。

それではここから、『午前一時』の魅力と、そこから見えてくるチャップリンの作風の変化、そして彼が生きた時代の背景を深掘りしてみましょう。


『午前一時』の核心:チャップリンの卓越した身体能力とパントマイム

『午前一時』におけるチャップリンの演技は、言葉を超えた「アクション」そのものです。泥酔した紳士が自宅に帰り着き、ベッドにたどり着くまでの一連のドタバタ劇は、まさにノンストップの身体表現で観客を魅了します。

特に印象的なのは、階段を登ろうとしては何度も転げ落ちるシーンでしょう。泥酔した人物特有の不安定な足取り、絶妙なバランス感覚、そしてアクロバティックな転倒の技術は、観る者を本当に酔っているかのような錯覚に陥らせます。観客は次に何が起こるのかと期待し、その期待が裏切られることで笑いが生まれるという、計算し尽くされたコメディの妙技がそこにあります。

また、チャップリンは家具や置物といった「物」をまるで生きているかのように見せ、それらと対話するかのように翻弄されます。転倒のタイミングや、テーブルや絨毯との絡み方が緻密に計算されており、観客はセップごとに起こる小さな「衝突」と、それに対するチャーリーの表情やジェスチャーから、状況を完璧に理解することができます。まさに『午前一時』は、サイレントコメディという枠を超え、身体能力と物理的な衝突に満ちた「アクション映画」と呼べるほどのダイナミックさを秘めているのです。




キャラクター設定の変遷:裕福な紳士から社会に寄り添う放浪者へ

『午前一時』でチャップリンが演じるのは、動物の毛皮のカーペットや剥製のある広々とした邸宅に住み、フロックコートにネクタイという裕福な紳士です。きちんとした身なりをしているからこそ、泥酔して大騒ぎする姿が、より一層の滑稽さを引き出しています。この時期のチャップリンは、様々なキャラクターを演じ分けていました。

しかし、彼のキャリアを通じて、キャラクター設定は大きく変化していきます。後に彼の代名詞となるのは、破れた服にだぶだぶのズボン、大きな靴と山高帽を身につけ、ステッキを持った「放浪者チャーリー」(The Tramp)です。このキャラクターは、社会の底辺で生きる人々、貧しいけれどどこかユーモラスで人間味あふれる存在を象徴するようになりました。

そして、チャップリンは『キッド』(1921年)で貧困の中での人間愛を、『街の灯』(1931年)では社会の冷たさの中の純粋な愛を、『モダン・タイムス』(1936年)では産業化社会における労働者の苦悩を、そして『独裁者』(1940年)では戦争と独裁を痛烈に風刺するなど、貧しい人々や社会問題に深く寄り添った作品を次々と世に送り出していきます。初期の純粋なコメディから、社会に鋭いメッセージを投げかける作品へと変化していった彼の作家性は、彼自身の人生と時代背景が深く関わっています。


時代背景との関連性:チャップリンの作風を形成した歴史

チャップリンの作風の変化は、彼自身の極貧の幼少期という原体験と、彼が生きた激動の20世紀という時代背景に大きく影響されています。

1889年にロンドンの貧しい地区に生まれたチャップリンは、幼い頃から救貧院や孤児院を転々としました。この経験が、彼の作品に流れるペーソス(哀愁)の源となり、社会の底辺で生きる人々への深い共感を生み出しました。

『午前一時』が公開された1916年は第一次世界大戦の真っ只中でしたが、この作品は直接的な戦争の描写を避け、人々を一時的に現実から解放するような純粋な笑いを提供しました。しかし、1929年に始まった世界恐慌は、チャップリンの作風に決定的な影響を与えます。この未曾有の経済危機は、彼の社会問題への意識を一層強め、『モダン・タイムス』に代表される労働者の苦悩や機械化の弊害を描いた作品を生み出す原動力となりました。

さらに、1930年代後半のファシズムの台頭という世界情勢は、彼に『独裁者』という痛烈な社会批判作品を製作させました。この作品では、彼が初めて肉声を発し、戦争や差別、全体主義を強く批判しています。

当時のアメリカでは、1910年代には既に映画が大衆娯楽として定着しており、安価な「ニッケルオデオン」から労働者階級が映画を楽しんでいました。しかし、チャップリンのようなスターの登場や長編映画の普及とともに、豪華な映画館「ピクチャーパレス」も増え、中産階級やブルジョワ層といったより多様な観客が映画館に足を運ぶようになっていました。様々な層にアピールするためにも、多岐にわたるプロットやキャラクター設定が試されたのです。




今日の映学

最後までお読みいただきありがとうございます。

『午前一時』は、チャップリンの身体能力が遺憾なく発揮された、初期の肉体派コメディの傑作です。

しかし、この作品に垣間見える彼の多才さこそが、やがて来る世界恐慌や戦争といった激動の時代を経て、貧しい人々や社会問題に深く寄り添い、世界にメッセージを投げかける社会派アーティストへとチャップリンが進化した道のりの出発点だったと言えるでしょう。

bitotabi
bitotabi

時代を超えて愛されるチャップリン作品の普遍的な魅力は、彼の卓越した表現力と、社会への深い洞察力に支えられているんですね。

ダニー
ダニー

観てみたい人は、WikipediaやYoutubeで鑑賞してみてね!

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